春にだけ姿を見せるチョウ @ギフチョウ(アゲハチョウ科) |
先頭バッターとしてふさわしいのは、「春の女神」と呼ばれているギフチョウだと思います。その地域のサクラの開花に合わせるように羽化してきますが、早春の里山を飛ぶ姿は実に美しいものです。残念ながら里山の荒廃などから近年著しく減少しており、多くの府県で保護活動が行われていますが、衰退に歯止めはかかっていません。岡山県では絶滅危惧T類に指定されており、このチョウに出会うことは極めて困難な状況です。標本は当館が保管している最古のもので、1949年4月24日に湯原町(現:真庭市)湯本で採集されました。残念ながらこの地域ではすでに絶滅したと考えられます。
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春にだけ姿を見せるチョウ A コツバメ(シジミチョウ科) |
街中のチョウではありませんが、郊外の低山帯では普通に見ることができます。ただし、飛び方が大変速く、また小さくて黒っぽいので、なかなか目で追いかけることができません。倉敷市周辺では3月下旬から4月中旬に現れ、幼虫の主なエサがツツジの花や蕾であることから、例えばコバノミツバツツジがきれいに咲き誇っているような場所が出会いのチャンスだと思います。枝や葉に止まる時、チョウの体が斜めになっていることがあります。これは太陽の暖かさを最大限に受け入れるために光に対して直角になるように止まるからです。また、翅の裏面が濃いこげ茶色なのは、熱吸収を良くするためと考えられます。早春のチョウの巧みな生き方ですね。写真の上段の左がオス、右がメス、下段は翅の裏面で、いずれも1983年に賀陽町(現:吉備中央町)で採集しました。
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春にだけ姿を見せるチョウ Bツマキチョウ(シロチョウ科) |
前翅の先端が尖っており、この部分がオスは黄色、メスは白色です。大きく羽ばたくことなく水平にゆっくりと飛ぶためオスの黄色はよく目立ち、その美しさにはっとすることがあります。写真の通り、裏面は何か不思議な模様ですね。幼虫はアブラナ科の花や蕾、若い莢(さや)を食べ、兄弟関係のモンシロチョウのように葉を食べることはありません。前回のコツバメ同様、このような食性が春に1回だけ発生する理由かも知れません。よく知られた食草はアブラナ科の野生種であるハタザオ、タネツケバナ、イヌガラシなどですが、近年河川敷などを黄色く染めるほど繁茂している外来種のセイヨウカラシナも利用するようになり、このような地域では分布を拡大しています。写真の上段の左がオス、右がメス、下段は翅の裏面で、総社市と高梁市で1962年と1965年に採集しました。
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春にだけ姿を見せるチョウ C ミヤマセセリ(セセリチョウ科) |
氷河期に南方に避難したグループと言われています。幼虫の成長が極めて遅く、4月に孵化した幼虫はコナラなどの葉を食べながらゆっくりと成長し、晩秋・初冬にやっと成熟します。しかし蛹にはならず、そのまま幼虫で越冬します。寒冷地や高山のチョウで幼虫の生育期間が大変長いものがありますが、ミヤマセセリは南方に退避したチョウでありながら、その生態をそのまま維持しているのではないかと推測しています。モンシロチョウの幼虫期が2週間程度であることを考えると異常に長いですね。倉敷市周辺では3月中旬から4月下旬にかけて発生し、落葉広葉樹と草地が混じった明るい里山的環境を好みます。長崎県など衰退傾向の著しい県もありますが、岡山県ではそこまで深刻ではないと感じています。写真の右はオスで1996年に佐伯町(現:和気町)で、左はメスで1985年に川上町(現:高梁市)で採集されました。
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春にだけ姿を見せるチョウ Dスギタニルリシジミ(シジミチョウ科) |
岡山県では中国山地など北部に限定されているため、あまり馴染みのあるチョウではないかも知れません。岡山県でごく普通に見られるルリシジミと同属ですが、全体的に色彩が暗く、大きさもやや小型です。4月の下旬から発生し、5月の中旬まで見られます。山の谷筋が出会いのチャンスだと思います。このチョウの幼虫も花を食べるタイプで、その中心はトチノキです。花を食べるチョウが年1回春だけの発生とは限りません。例えばこのチョウに近いグループのサツマシジミは、春から秋にかけていくつかの樹木の花を組み合わせて年複数回発生しています。しかしこのスギタニルリシジミは強くトチノキに依存しているため春の1回しか発生しません。写真の右はオスで1999年に、左はメスで1989年にそれぞれ上斎原村(現:鏡野町)で採集されました。
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春にだけ姿を見せるチョウ Eウスバアゲハ(アゲハチョウ科) |
このシリーズの最後を飾るのはウスバアゲハです。一見、シロチョウの仲間のように見えますね。小学生の時に初めてこのチョウの採集に行った時、シロチョウと間違えるのではないかと不安になり、何度も図鑑を見て頭にたたき込みました。しかし現地で目撃した時の第一印象は春型のアゲハのメスであり、シロチョウ科とはまったく思いませんでした。飛んでいる姿はアゲハチョウ科そのものでした。今まで紹介してきたチョウとは異なって卵で越冬し、春に孵化した幼虫はムラサキケマンなどをもりもり食べて成長して蛹になります。そのため今までの5種に比べてやや発生が遅れます。吉備高原から中国山地にかけて生息し、森ではなく里山的環境を好みます。近県では増加したニホンジカの食害のために減少しているようですが、岡山県では場所によってはまだまだ普通に見られます。この標本は2009年5月に高梁市川上町で採集されました。
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