病院の中にこんちゅうかん!? 倉敷昆虫館
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昆虫館の歴史
 

 

■ 倉敷昆虫館は、医療法人創和会しげい病院の創設者 故重井博がしげい病院内に開設した昆虫館です

 倉敷昆虫館の開設者の重井博は幼い頃から野口英世にあこがれを持っていて医師となりましたが、実は根からの「生物屋・虫屋」でした。しげい病院・重井医学研究所・同附属病院の開設者であると共に、倉敷昆虫館・重井薬用植物園の設立や倉敷市立自然史博物館開設への協力、また自然保護運動の指導者としての活動からも、優れた医学者であるとともに、自然を探究するひとでした。
 昭和20年(1945年)の年末近くに誕生した「岡山博物同好会」の会員の中から特に昆虫に興味を持つ人ばかりが集まって「倉敷昆虫同好会」が誕生しました。この岡山博物同好会や倉敷昆虫同好会に重井博も参加していました。重井博は専門の医学研究に専念する傍ら、関連した昆虫学分野の「衛生害虫」の研究にも力を注いでいました。

昆虫採集(成羽・吹矢 昭和36年8月)
▲昆虫採集中の重井博(成羽・吹屋 昭和36年8月)

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■ 昆虫科学博物館創設計画

 重井博は、昭和36年(1961年)12月、倉敷市旭町(現在の倉敷市鶴形1丁目)の自宅兼診療所に倉敷昆虫同好会幹事4名を招き、「昆虫科学博物館創設」計画について説明し協力を仰ぎました。この場で幹事らから開設への同意を得ると共に、倉敷昆虫同好会の顧問を依頼されました。同年の倉敷昆虫同好会の機関紙「すずむし」(以後「すずむし」と略す)12月号(Vol.11 No.2 1961)の「会員動静」のコーナーで新顧問として紹介されています。
 紹介文では重井博の紹介と共に「本年には、増築中の4階建ビルの屋上に、昆虫館を創設される予定であり、本会にとっても一転期を迎えることになると思われます。」と、昆虫館の開設にも触れています。 昭和37年(1962年)2月25日に開催された倉敷昆虫同好会の1962年度第1回例会の総会で、重井博により「倉敷昆虫科学館(仮称)の構想」と題して昆虫館開設の詳細が発表されました。

 

■ 倉敷昆虫同好会と倉敷昆虫館との関係

 同年8月には「すずむし」誌上(Vol.12 No2 1962)に、「倉敷昆虫同好会と倉敷昆虫館との関係」について記載があり、以下の4項目が公表されました。
(1) 倉敷昆虫同好会(以下同好会と略す)は重井衛生害虫研究所(以下研究所と略す)に連絡事務所を置く。
(2) 同好会はその幹事を研究所に理事としておくり、研究所の運営に参与する。
(3) 研究所は標本展示室(通称 倉敷昆虫館)、昆虫飼育室等を同好会員に開放し、その利用に便宜をはかる。
(4) 研究所は同好会員の出品した標本等の保管に万全をつくす。
 これに加えて、同誌の次ページに「倉敷昆虫同好会員の倉敷昆虫館への標本出品規定」も公表され、標本の体裁やラベルの書き方などが詳しく解説されています。

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■ 倉敷昆虫館の開館

 このようにして倉敷昆虫館は昭和37年(1962年)11月3日の文化の日に重井病院(現しげい病院)の4階屋上に開館しました。館内には展示室と研究室が設けられ、館長には重井博が就任しました。展示室には重井博のこれまでの調査記録標本と、倉敷昆虫同好会発足以来11年間会員が継続してきた岡山県内の調査記録標本を中心に、県外産、外国産を含めて展示し、この種の科学博物館としては、中国・四国地方で初めての施設となりました。翌月に発行された「すずむし」は「倉敷昆虫館記念号」で、重井博が「倉敷昆虫館の開館にあたって」と題して以下の文を寄せています。

去る11月3日文化の日,テレビ・ラジオ・新聞紙上をにぎわした大見出し「同好会員の手で昆虫館誕生」これこそ倉敷昆虫館の性格を端的に物語るものです。
同好会員が永年にわたって採集してきた多数の標本を一同に集めて分類整理し,「岡山県の昆虫相が居ながらにして展望できれば」という私共昆虫に興味をもつ者の夢が実現したのも会員協力の賜物であり,科学的研究は多くの人々の共同研究の集積によって始めて輝かしい成果が得られるものだということを,今更のように痛感されたわけであります。
今後も分布の調査,生態の観察を根気よく繰返し,昆虫館の充実とその公開によって,地方文化の向上に大いに活躍しようではありませんか。

 倉敷昆虫館は、倉敷昆虫同好会の会員が管理、運営、研究に携わる形式で、全国の博物館や昆虫館の運営形態とは一線を画すユニークな昆虫館としてスタートしました。昆虫の調査研究をされている方々にとっては、ここが気軽な情報交換の場でもあり、また今後の調査実施のための拠点的存在と言える場所でもありました。もちろん一般の方へは無料で公開し、開館日は土曜日午後1時からで、来館者への対応には倉敷昆虫同好会の会員が交替で当たりました。昆虫館では毎年、11月3日の開館記念日には「昆虫祭」を開催して、いろいろな特別行事をおこない、また夏季には「昆虫同定会」を開催して大勢が参加し大変賑わっていました。

開館当日の昆虫館入口前での記念撮影 開館当日の館内の風景
▲開館当日の昆虫館入口前での記念撮影 ▲開館当日の館内の風景

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■ 活発に調査活動を開始

 重井博は、いろいろな機会に、当時昆虫学関係で著名な先生方を講師に講演会や懇親会等を開催したり、昭和38年(1963年)5月の新庄村地域の森林での調査などをはじめとする、昆虫館を拠点として活発な調査活動を開始しました。この結果、昆虫館の所蔵標本も、調査困難であった地域の昆虫など増加の一途をたどりました。倉敷昆虫同好会は昭和41年(1966年)8月に「すずむし」100号を発行し、編集後記には「感無量……まさに“喜びも悲しみも幾年月”、挫折しかけたことも一度ならず…。それが今、重井理事長を初め顧問諸先生のご指導、会員諸氏のご活躍ご協力で、無事100号を迎えることができ、その喜びを噛みしめる…。」とあります。

 

■ 倉敷昆虫館新館の開館

 昭和42年(1967年)11月3日、倉敷昆虫館開館5周年記念講演会が開催されました。その後、倉敷昆虫館が8階に入る予定の重井病院本館の新築工事が始まり、昭和50年(1975年)5月2日に重井病院本館が竣工し落成記念行事が行われ、同月17日に本館8階に倉敷昆虫館新館が開館しました。8月24日には倉敷昆虫館新装開館記念昆虫祭が開催され、第1部は倉敷昆虫館において「昆虫標本特別公開」と「虫の名前を調べる会」が、第2部では病院の本館2階の講義室で記念昆虫祭が行われました。

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■ 「財団法人倉敷昆虫館」構想と自然史博物館の開館

倉敷市立自然史博物館開館記念式典(昭和58年11月)
▲倉敷市立自然史博物館開館記念式典(昭和58年11月)で表彰される重井博

 重井博は、かねてから倉敷昆虫館を独自の施設として病院とは別の場所に建設、再度の移転を考えており、既に設計図も用意していました。鉄筋コンクリートの2階建てで、場所は候補地が3ヶ所ほどあり、中でも一番の候補地として現在の「倉敷市鶴形2丁目公園」(東小学校運動場から道を隔てた東側)を選んでいました。
 ところがその後、倉敷市が新庁舎へ移転後の旧庁舎の跡地の利用方法を検討中ということを耳にした重井博は、旧水道局庁舎を利用して市立博物館(含昆虫部門)を建設するという運動を先頭に立って展開し、同好会も後押して、遂に要望は受け入れられました。
 倉敷市立自然史博物館オープンへ向けて昆虫館は可能な範囲で協力するということで、貴重なもの、珍しいもの、そして当座の展示に役に立ちそうなもの等を選んで、標本を倉敷昆虫同好会の会員達が大勢で運び込みました。
  とにかく重井博の建設へ向けての努力・運動は大変なものでした。当時のことをよくご存じの方は、「重井博先生がおられなかったら、あの『自然史博物館』はできていなかったでしょう」とよく言われます。
 このようにして昭和58年(1983年)11月3日、倉敷市立自然史博物館が開館しました。奇しくも昆虫館と同じ開館日となりました。

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■ 倉敷昆虫館の再開館

 倉敷昆虫館の方は、たくさんの標本を倉敷市立自然史博物館に寄贈したことや、当時他の地域で開催されていた昆虫展への出展等と重なったこともあって、本来の展示は未整理のままで、昭和58年(1983年)10月より休館状態となりました。その後、平成2年(1990年)5月1日に倉敷昆虫同好会会員の小野洋が倉敷昆虫館としては、初めての常駐職員として着任しました。展示室の展示ケースの標本箱の中は、7年前の倉敷市立自然史博物館への急いでの標本の出し入れや移動を激しく行ったあとがほとんどそのままになっており、このままでは人様にお見せできる状態ではありませんでした。重井博の自然環境の保全調査に同行する傍ら、昆虫館の展示室の整備を行い、何とか一般の方にも来館いただける状態となったので、平成3年(1991年)8月1日に再オープンしました。

 

■ 創設者重井博逝去

創設者重井博 平成8年(1996年)8月24日 重井博が急逝しました。倉敷昆虫同好会の方や自然保護活動に携わっておられた方々にとっても、まさに大黒柱を失った状態となりました。翌年(1997年)5月から小野洋が館長となりました。同年5月、倉敷昆虫同好会は「すずむし」 No.131(1997年)を、「重井博先生著述目録」と「追悼文」が掲載された「重井先生追悼号」として発行しました。

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■ 三越「大昆虫展」に協力

三越「大昆虫展」 平成9年(1997年)には三越倉敷店の夏休み特別企画「大昆虫展」(8月5日〜17日)に協力しました。三越倉敷店から、「この地域の『岡山県の昆虫』を是非とも昆虫館から展示参加して頂きたく、更に『昆虫教室』『質問コーナー』も昆虫館の方の担当でよろしく」との依頼がありました。標本は当時昆虫館で展示中の中から31箱を選んで出展し、昆虫教室の当番は、毎日倉敷昆虫同好会の会員数名が担当することになりました。8月5日から始まった「昆虫教室」では、同好会の会員がチョウの軟化・展翅等で大活躍し、黒山の人だかりで大盛況でした。12日間の入場者数は3万人を超えたとのことでした。

 

■ 昆虫館の改築とホームページの開設

 平成11年(1999年)1月に昆虫館のホームページを開設しました。昆虫館の紹介の他、昆虫館が展示している昆虫を紹介する「展示室」や「ニュースや昆虫館便り」「岡山県産の貴重な標本」などで構成されています。毎月たくさんの方からのアクセスがあり、平成16年(2004年)には月間4,000件を突破しました。
  一方、平成16年(2004年)5月に昆虫館の出入り口の改造をしましたので、来館者にも広くわかりやすい空間となり、利用しやすい場所となりました。書棚も増やして、書籍も整理し、読書コーナーを設けました。来館者も年間1,000人を突破し年々増加しています。

 

■ 収録標本の整理とデータベース化

倉敷昆虫同好会会員による収蔵品の整理
▲倉敷昆虫同好会会員による収蔵品の整理

 平成9年(1997年)頃から、毎週土曜日の午後2時〜4時の2時間、パートの学生による標本ラベルの更新作業、標本や資料等の整理を始めました。平成16年(2004年)2月からは大学の学生2名をアルバイトとして採用し、週末の土曜日・日曜日も常時開館することができるようになりました。また、「種名ラベル」などが変更になったもの、変色して文字も見えなくなったものなどを更新し、展示標本箱の中をきれいに整理しました。
 同年5月から、同好会会員2名のボランティアで収蔵品の整理にあたりました。その1人岡本忠は翌年4月からは副館長として着任し、これまで手が着けられていなかった標本のデータベース化作業を開始したり、保存標本を含めた整理、新ラベル作成、ラベル入れ替えなど、館内全般の整理を進めています。
 平成20年6月現在、登録済みの展示標本は約3,200種14,000個体で、他に収蔵標本が約21,000個体あり、全個体数で約34,000個体が登録されました。
 現在(平成21年1月)は学生のアルバイトを入れて6名が館の運営に当たっています。入館できる曜日も徐々に増やして、現在では休館日は月曜日と年末年始で、一般的な博物館とほぼ同じとなっています。現在の来館者は年間約1,500名で、約1/3が県外の方で、外国の方(アメリカ、フランス、イギリス、インドなど)も来館されています。

 

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倉敷昆虫館の沿革

1961年(昭和36年)12月  「昆虫科学博物館」計画について重井博より倉敷昆虫同好会へ協力要請
1962年(昭和37年)2月 「倉敷昆虫博物館(仮称)の構想」の発表
1962年(昭和37年)11月 「倉敷昆虫科学館」11月3日開館(館長 重井博)
新築されたしげい病院4階建て病院の最上階に、昆虫館および温室を備えた昆虫飼育室が完成
展示室には重井館長および昆虫同好会のこれまでの県内の昆虫調査記録標本を中心に、県外産昆虫、外国産の蝶などを展示し、昆虫の博物館としては中・四国地方で初めての施設となる
管理、運営、研究は倉敷昆虫同好会があたることになり、この館がその後の調査・研究の拠点となる
一般の方への無料公開、土曜日午後1時から開館、来館者の応対は同好会員が交代で行う
毎年、開館記念日(11月3日)に「昆虫祭」を開催し、特別行事を行う
毎年、夏季には「昆虫同定会」を開催
1967年(昭和42年)11月 開館5周年記念講演会の開催(11月3日)
1975年(昭和50年)5月 重井病院本館8階に「新倉敷昆虫館」が開館(5月17日)
1975年(昭和50年)8月 倉敷昆虫館新装開館記念昆虫祭を開催(8月24日)
第1部・・・「昆虫標本特別公開」と「虫の名前を調べる会」(昆虫館)
第2部・・・「記念昆虫祭」(講義室)
1983年(昭和58年)11月 「倉敷市立自然史博物館」が開館(11月3日)
開館に向けて倉敷昆虫館と同好会が協力(貴重なもの、珍しいもの、当座の展示に役立つものの標本の提供)
1983年(昭和58年)10月
〜1991年(平成3年)7月
倉敷昆虫館が休館状態
多くの標本を自然史博物館へ寄贈したことや他地域での昆虫展への出展などで、館内の標本が未整理状態
1990年(平成2年)5月 小野洋が常勤職員として就任(5月1日)
1991年(平成3年)8月 倉敷昆虫館が再開館し、日曜日のみ閉館とする(8月1日)
1996年(平成8年)8月 重井館長が急逝(8月24日)
1997年(平成9年)5月 小野洋が館長に就任(5月1日)
1997年(平成9年)8月 三越倉敷店の夏休み特別企画「大昆虫展」に昆虫館が協力(8月5日〜17日)
「岡山の昆虫」へ昆虫館より出展
「昆虫教室」「質問コーナー」昆虫館(同好会員)が担当
1998年(平成10年)1月 日曜日、月曜日以外が開館日となる 
1999年(平成11年)1月 昆虫館のホームページ開設
「展示室」(展示標本の紹介)、「昆虫館だより」、「県内産の貴重な標本」などで構成
2004年(平成16年)2月 日曜日も開館となる(休館日は月曜日 [祝日の場合は開館] 、祝日の翌日、年末年始)
2004年(平成16年)2月 学生2名のアルバイト採用
標本および資料の整理、展示標本の登録作業を開始
2004年(平成16年)5月 出入り口の改造、図書コーナー設置
2004年(平成16年)5月 同好会員2名がボランティアとして勤務(週1回)
標本箱の改新、種名ラベルの更新など行う
2005年(平成17年)4月 ボランティアでの勤務者のうち岡本忠が正規職員になる
全ての収蔵標本の整理と登録作業に取りかかる
1日1人勤務体制でアルバイト(日曜、祝日勤務)を含め館長以下6人が輪番で担当
2009年(平成21年)2月 昆虫館ホームページを更新

 

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倉敷昆虫館 〒710-0051 岡山県倉敷市幸町2-30 しげい病院1階 電話:086-422-8207 メールアドレス:kurakon@shigei.or.jp