▲花はレモンイエローで花弁は6枚、軽く反り返る。 一日花とされるが、開花は夕方から翌朝までで、一日花というより半日花。 | ▲当園では園内に植栽したものが大群落となっており、7月の夜には数百の花が咲く。 自然ではここまで群生することは少ない。 |
ユウスゲは本州・四国・九州の日当たりの良い草地に生育する、高さ1~1.5mほどになる多年草です。 中国などに分布する ウコンカンゾウ Hemerocallis citrina の、日本にのみ分布する変種(固有変種)とされます(独立種とする見解もある)(大橋広好・門田裕一ほか編.2015.改訂新版 日本の野生植物1.平凡社.p.238)。岡山県でも降水量の多い県北部を中心にほぼ全域に分布していますが、少雨乾燥の気候である県南部では少なく、湧水湿地周辺などの自然草地でまれに生育が見られる程度です。 対して県中~北部では、湿地周辺に加えて、やや湿った田の畔、林縁草地、火入れが毎年行われているような半自然草地など、様々な草地環境に生育しています。
花期は7~8月で、高さ1~1.5mほどの花茎の先に花序をつけ、夕方頃から翌朝にかけて、6枚の花被片が根元で合着し、先が軽く反り返った直径7~10cm程度のラッパ状の花を咲かせます。 ただ、あまり厳密に時間を決めて咲いているわけではなく、午前中が晴れで昼頃から降雨があるなど、薄暗くなり気温が下がるような、つまり夕暮れ時に似た環境変化があった場合には、昼過ぎ頃から咲くこともあります。 花被片は鮮やかなレモンイエローで、長さは5~8cm程度、基部の合着した筒部は3cmほどです。 花の中央からは6本の雄しべと1本の雌しべが突き出しており、いずれも先はやや緩やかに上方に屈曲しています。 花には芳香があり、夜間に活動するスズメガの仲間などが訪花しますが、つき出した雄しべや雌しべが足場となることで、ちょうどスズメガの腹部あたりに葯や柱頭が触れるようになっているようです。 葉は地際から束生し、幅5~15mm、長さ40~80cm程度の線形をしています。 花後には直径1~2cmほどの俵形の蒴果ができ、8月下旬~9月頃に熟して、先端が3つに裂開して種子が散布されます。 種子は5mmほどの光沢のある黒色でゆがんで角張った卵形をしています。
▲花に訪花し、奥に頭を突っ込んでいるスズメガの仲間。スズメガの腹部に触れるように雄しべと雌しべは上方に屈曲している。 | ▲葉は線形で地際から束生する。この葉がカヤツリグサ科のスゲ類に似ていることが名の由来とされる。 |
本種を含むワスレグサ属は旧来の分類体系(エングラー、クロンキスト分類体系)では、ユリ科に分類されていましたが、遺伝子解析による系統分析の結果を反映した新しい分類体系(APG分類体系)では、ユリ科から独立し、ワスレグサ科(ススキノキ科とも) Xanthorrhoeaceae とされています。 ササユリやコオニユリなどのユリの仲間の種子は薄く、周囲に膜(翼)があるのに対し、ワスレグサ属の種子は翼がないこと、ユリの仲間は地下にいわゆる鱗茎(ユリ根)を作りますが、ワスレグサ属の根は太いひげ根であること、などの形態的な違いがあります。 そのため、もともとユリ科の中でもユリ属とは別属とされていましたが、遺伝子を調べてみると、科を分けられるほど、系統的に違いが大きかった、ということのようです。
▲ユウスゲの種子(左)とササユリの種子(右)。 ササユリの種子は薄く翼があり風で散布されるが、ユウスゲの種子には翼がない。 | ▲ユウスゲの根の様子。 ユリの仲間のように鱗茎は作らず、太いひげ根をのばす。 根は明るい橙褐色で、横方向にしわができる。 |
ユウスゲを漢字表記すると「夕菅」で、細長い葉がカヤツリグサ科のスゲ(菅)類の葉に似ていること、花が夕方から咲くことから名付けられたとされます。 また花の色からキスゲ(黄菅)とも呼ばれます。 また、科の和名のワスレグサ(忘れ草)は、中国でこの仲間を「忘憂草」と呼び、身に帯びると辛いことや憂いを忘れることができると信じられていたことに由来ます。 中国では「忘憂草」以外にも、本種に近い仲間を「麝香萱」または「黄花菜」とも呼びます。 「麝香萱」は花に「麝香(ムスク)」のような香りがあることを意味していますが、本種の香りは控えめで香水のようには強くありません。 「黄花菜」は「菜」の字のとおり、中華料理では、この仲間の蕾を「金針菜」と呼んで食材とします。 金針菜は乾燥させた物もあり、普通は肉などと一緒に油炒めなどにしますが、生の花や蕾は天ぷらやおひたしにすると、ほのかな甘みと香りが楽しめます。
属の学名の Hemerocallis (ヘメロカリス)は「美しさ+1日」という意味のギリシャ語が語源となっており、この仲間の花が一日でしぼんでしまうことを意味しています。変種名となっている vespertina も「夕方」の意味で、この花が夕方から開花することを指したものです。
▲花はほのかな甘みと香りがあり食べられる。 写真は当園の「植物園を楽しむ会」で「しゃぶしゃぶ」を楽しむ参加者 (2023年7月)。 | ▲幼虫がユウスゲの仲間を食べて成長するフサヒゲルリカミキリ。 生息地にまとまった量のユウスゲが生育することが必要である。 |
本種が比較的多く生育する岡山県真庭市蒜山地域の半自然草原には、本種の仲間を食草とする、フサヒゲルリカミキリ(「種の保存法」による国内希少野生動植物)も生息しており、当園では、「蒜山自然再生協議会」など地元団体や自然系施設と連携しながら、フサヒゲルリカミキリ保全のためのユウスゲ増殖活動のほか、山焼き(火入れ)や草刈りなど、半自然草原の保全活動にも取り組んでいます。
(2024.5.6 改訂)