▲日当たりの良い林縁などに生育する落葉性藤本。 当園では温室エリアの金網フェンスなどに絡んでいる。 | ▲葉は長さ3~10cm、幅2~8cmの楕円形または倒卵形。縁には浅い鋸歯があり、しばしば大きく波打つ。 |
ツルウメモドキは、北海道から九州にかけての日当たりのよい林縁などに生育する、幹の長さ10mほどにもなる落葉性藤本(つる性木本)です。 国外では朝鮮半島・中国にも分布します。 ツルウメモドキ属の植物は変種などをのぞいて日本国内には5種が分布するとされますが、岡山県には本種とイワウメヅル C. flagellaris 、オオツルウメモドキ C. stephanotifolius の3種の生育が知られています。 これら3種の中でもっとも普通に見られるのが本種で、県北部の中国山地から、南部の海岸沿いまで、ほぼ全域に分布しています。
葉は互生、質はやや薄く、両面無毛で長さ3~10cm、幅2~8cmの楕円形または倒卵形、縁には浅い鋸歯があり、しばしば大きく波打ちます。 葉柄は1~2cm、基部には褐色の托葉がありますが早期に脱落してしまいます。 なお、イワウメヅルの葉は長さ2~5cm、幅1.5~4cmと本種より小さく、鋸歯は先が芒状になります。 オオツルウメモドキの葉は本種とほぼ同じ大きさですが、葉裏の葉脈沿いに縮れた毛を密生しています。そのため、岡山県に限った話ではありますが、葉をよく観察すれば比較的容易に本種との見分けが可能です。
枝は無毛、樹皮は当年枝は黄緑色をしていますが、次第に赤褐色となり、さらに古い枝では灰色になります。秋には葉腋に褐色の冬芽ができますが、前年枝の葉腋には葉芽(はめ)と花芽(はなめ)が入った広卵形の冬芽がつき、当年枝には花芽はつかず、葉芽のみの冬芽がつきます。 葉芽のみの冬芽は三角形で、硬くて先の尖った芽鱗に包まれており、まるで折り紙の「かぶと」のような形状をしています。
▲当年枝の樹皮は黄緑色(右写真)。やがて赤褐色となる。 古い枝は灰色。 葉芽と花芽が入った冬芽は広卵形。 | ▲当年枝には花芽はつかず、葉芽のみの冬芽がつく。 葉芽のみの冬芽は三角形で折り紙の「かぶと」を思わせる。 |
花は5~6月頃に葉腋に短い集散花序を出し、淡緑色で直径6~8mmの5弁花を咲かせます。 なお、本種を含めて日本に分布するツルウメモドキ属の植物はすべて雌雄異株です。 雄花は1~7個つきますが、花が終わると花柄の中央から下にある関節の部分から折れ、次々に脱落します。 雄花の雄しべは5本あり、中央には退化した短い雌しべがあります。 雌花は1~3個つき、雌しべは長さ4mmほどで花外に突き出ています。 柱頭は3裂し、それぞれの裂片はさらに2裂します。 雌花の花柄にも関節がありますが、当然ながら花が終わっても脱落はせず、晩秋に果実を実らせます。 雌しべの基部には5本の退化した短い雄しべがあります。
果実は蒴果で直径7~8cmの球形をしており、晩秋から初冬の頃(10~12月)に黄~橙色に熟しますが、果皮は熟すと3つに裂開して、内部から赤色の仮種皮に包まれた種子が現れます。 仮種皮の内部には褐色で長さ4~5mm、楕円形で3稜のある種子が入っており、仮種皮ごと鳥に食べられることにより散布されます。
▲雄花。 花弁は淡緑色で狭長だ円形で5弁。 花柄の中央から下に関節があり、花が終わると脱落する。 | ▲雌花。 雌しべは長さ4mmほどで花外に突き出ており、柱頭は3裂し、裂片はさらに2裂する。 |
和名は「蔓・梅擬」で、葉がモチノキ科のウメモドキ Ilex serrata に似ているので、とされますが、本種の葉はどちらかというとウメモドキよりもむしろ本家本元のウメ Prunus mume の方に似ており、葉だけでウメモドキに似ている、とするのは難しい気がします。 ウメモドキも雌雄異株の樹木であること、花が葉腋に束生するように咲く様子が本種の花の付き方と似ていると考えれば、全体的なイメージがウメモドキと似通っているため、と考えるほうが納得できる気がします。 また、和名の初出は江戸時代中期に貝原益軒が編纂した「大和本草」とされ(磯野直秀.2009.資料別・草木名初見リスト.慶応義塾大学日吉紀要・自然科学.No.45:p.69-94)、あまり古くからの呼び名ではないようです。 生け花の花材としては、ウメモドキも本種も、晩秋から初冬の時期の花材として人気があり、よく利用されるため、ウメモドキ同様の赤い実がついたつる性の花材、ということでツルウメモドキと呼ばれるようになった・・・とも考えられるかもしれません。
また、漢名(中国名)は「南蛇藤」といい、中国ではリウマチや風邪の生薬として利用されるようですが、日本では庭園などに植栽したり、前述のように生け花の花材とするなど、鑑賞目的での利用がほとんどで、生薬としての利用はほとんどないようです。 最近では、クリスマスリースのベース(輪)としても利用されています。 学名については、属名の Celastrus は、セイヨウキヅタの古代ギリシア名 Celastros から転じたもの、種小名 orbiculatus は「円形の」 の意(木村陽二郎 監修,植物文化研究会 編.2005.図説 花と樹の事典.柏書房.p.294)です。
(2022.12.11)
▲果実は蒴果で直径7~8mmの球形、晩秋に熟すと3つに裂開し、赤い仮種皮に包まれた種子が現れる。 | ▲果肉のように見えるのは仮種皮。 内部には褐色で長さ4~5mm、楕円形で3稜のある種子が入っている。 |