環境省レッドリスト2018:準絶滅危惧
▲「蓮華」のような形をしたツメレンゲの株。葉は乾燥に耐えるため、サボテンのように多肉質である。 | ▲9月下旬~11月頃、塔状に伸びた花茎に多数の白い花を咲かせる。花が咲いた株は枯れてしまう。 |
ツメレンゲは暖地の日当たりがよく乾燥した岩崖地の岩上や屋根の上に生育する、ベンケイソウ科イワレンゲ属の多年生草本です。関東・中部地方以西の本州、四国、九州のほか、韓国にも分布します。葉は多肉質で、赤みを帯びたり、粉白色を帯びたりなど、変異が多く、様々な姿になります。特に日あたりが良い場所に生育する場合や、冬の時期には赤くなることが多く、古くから栽培されてきた植物でもあります。花期は長く、9月下旬~11月頃、ロゼット状(放射状)についた葉の中心から塔状の花茎を伸ばし、白い小さな花を密に咲かせます。しかし、同じ株が毎年花を咲かせるわけではなく、発芽後何年か花を付けずに葉のみの姿で成長してから花を咲かせ、花が咲いた株は種子を実らせた後は枯れてしまいます。このような一生に一回しか花を咲かせない植物を「一回結実性植物」と言い、リュウゼツランやウバユリ、タケ類などもこのタイプの植物です。
▲しげい病院南館屋上のツメレンゲ移植地。数百本の花茎が立ち上がっている。(撮影:2013年10月) | ▲「本瓦葺き」の屋根に生育するツメレンゲ。瓦の下に敷かれた屋根土から芽生えている。(撮影地:岡山市) |
岡山県では主に県中部~南部の岩崖地や、岡山城の石垣など古い石垣の間隙、土を敷いた上に瓦を葺く、「本瓦葺き」の屋根の瓦の隙間(瓦の下に敷かれる屋根土に芽生えるため)などに生育しています。かつてはかや葺きの屋根などでも生育していたそうです。倉敷市では倉敷美観地区などで本瓦葺きの古い建物が保存されているため、、秋ごろに美観地区の古い建物の屋根を見上げながら歩くと、本種が生育している屋根を見つけることができます。岡山県は県中部などの自然の岩崖地に安定した自生が見られるなど、比較的生育個体数が多いため、岡山県レッドデータブックにおいては絶滅危惧種とはなっていません。全国的には減少傾向にあるとされ、環境省レッドリスト2018では「準絶滅危惧」とされているほか、都道府県ではレッドデータ種としている自治体も多くあります。レッドデータ種となっていない岡山県においても、街中のツメレンゲに限れば、改修や屋根の葺き替えが行われる場合には防災上の問題から、本瓦葺きであっても屋根土を使用しない葺き方が主流となっており、本種が生育する瓦屋根は急激に減少しています。
▲石崖に生育する個体。他の植物との競合を避けるため、厳しい環境に適応した植物である。 | ▲ツメレンゲなどを食草とするクロツバメシジミ。ツメレンゲが減少した結果、先に倉敷市内からは姿を消した。 |
本種や他のベンケイソウの仲間は、「クロツバメシジミ」というレッドデータ種(環境省レッドリスト2018:準絶滅危惧/岡山県レッドデータブック(2009):絶滅危惧Ⅱ類)の食草となっており、県内の本種の自生地でもクロツバメシジミがしばしば見られますが、倉敷市では本種の生育量が減少したためか、戦後まもなくの記録を最後に、本種よりも先に姿を消してしまっています。
和名は細長く先がとがっている葉の形が動物のツメに似て、全体の形は「れんげ」に似ていることに由来します。この場合の「れんげ」はマメ科のレンゲソウ(ゲンゲ)のことではなく、「蓮華」、つまりハスの花のことで、ロゼット状の株の様子がハスの花をかたどった仏様の台座(蓮華座)に似ていることから「爪・蓮華」の名がついたとされます。
当園では、2011年7月、倉敷市立自然史博物館友の会のメンバーと共に、改修予定であった倉敷美観地区の旧家の本瓦葺きの屋根に生育していた本種を救出し、同年9月にしげい病院南館の屋上に移植しました。本種の集団を丸ごと移植することで、集団内での遺伝的多様性の保全に配慮したものですが、しげい病院のある倉敷市幸町は、美観地区とも距離的に近く、同一地域内での保護と言って良いでしょう。移植したツメレンゲはどなたでも見ることができます。屋根の上に生えているものとは違い、間近に観察することができますので、ぜひしげい病院を訪ねてみてください。
(2018.11.4 改訂)
▲「レンゲ」とはレンゲソウのことではなく、蓮の花(蓮華)のこと。 | ▲ハスの花をかたどった仏様の座る「蓮華座」。(写真はブータンのクエンセル・ポダンの大仏 https://pixabay.com/) |