▲7~9月頃の正午~夕方にかけて、茎の先の総状花序に青紫色の花をまばらに咲かせる。 | ▲青紫色の花だが、旗弁基部には濃紫色の筋が入り、左右の翼弁基部には白斑がある。これをタヌキの顔に例えた? |
タヌキマメは草原や路傍の草むらなど、日当たりの良い草地に生育する、高さ20~70cmほどのマメ科の1年草です。国内では本州以南から沖縄まで、国外では東アジア、東南アジア、南アジアなどに広く分布しています。日本には稲作とともに渡来した古い時代の帰化植物(史前帰化植物)であるとする見解もあります。なお、日本国内には、タヌキマメ Crotalaria 属の植物は本種を含めて4種ありますが、本州、四国、九州に分布するのは本種のみで、他3種はすべて琉球諸島(沖縄県)のみに分布しています。
花期は7~9月、茎上部あるいは分枝した枝先の総状花序に、直径1cmほどの青紫色の蝶形花を咲かせます。旗弁基部中央には濃紫色の筋があり、左右の翼弁基部には白斑があります。花は真夏には必ず正午頃から咲いて夕方に閉じてしまうため、観察する場合には炎天下で熱中症に気を付けながらになりますので、なかなか観察しにくい植物ですが、9月頃になって少し涼しくなってくると、午前中から咲いているものも見られますし、気候や地域にもよりますが、10月下旬頃でも残り花が見られることも珍しくありませんので、花の盛りにこだわらなければ、果実や種子も観察できる秋が観察適期です。
▲葉はマメ科植物にしては珍しく、複葉ではなく線形~広線形の単葉の葉を互生する。 | ▲6月中旬、19時頃のタヌキマメ。夕方になると葉を立てるように閉じ、翌朝再び開く「就眠運動」を行う。 |
本種はマメ科の植物にしては珍しく、「複葉(カラスノエンドウなどのように、1枚の葉が複数の小葉に分かれている)」ではなく一枚の葉のみの「単葉」で、長さ4~10cm程度の線形~広線形の葉を互生します。葉のみの時期にはマメ科の植物とは思えない姿をしていますが、ネムノキやカワラケツメイ、オジギソウなどの他のマメ科植物と同じように、夜間には葉を立てるようにして閉じる「就眠運動」が観察されます。
茎や葉など植物体全体に褐色の長毛が生えていますが、成葉では、葉の表面は脈上に長毛がある程度で無毛に近く、葉裏は全面に毛が生えています。特に蕾や果実を覆う萼(がく)には密生しています。豆果(豆のさや)は無毛、長さ1~1.5cmの長楕円形で先端部分がややふくれた形をしており、黒褐色に熟すとまるで小さなナスビのようです。豆果の中には直径2mm程度で光沢のある黄~暗褐色の種子が数個~十数個入っており、種子が熟すと、果実を揺らすと内部で種子が動いてマラカスのように音がするようになります。属名Crotalaria (クロタラリア)も、玩具の「がらがら」を意味するギリシャ語が由来とされます。果実が十分に乾燥すると2つに裂開し、種子を弾き飛ばすことで散布します。
▲茎や葉表の脈上、葉裏には褐色の長毛が多い。葉の付け根に見えるのは線形の托葉。 | ▲豆果は褐色の長毛が生えた萼(上)に覆われており、長さ1~1.5cmでナスビのような長楕円形(下)。 |
和名は「狸・豆」で、動物のタヌキに由来しますが、本種のどこからタヌキを連想したのか、については、いくつかの説があり、例えば、花を正面から見た場合にタヌキの顔を思わせるから、とか、褐色の長毛の生えた萼に覆われた果実がタヌキの尻尾のようだから、とか、尻尾ではなくタヌキの本体そのものを思わせるから、などとされます。ちょっと面白いことには、中国では本種は「野百合」と呼ばれているようです。おそらくはマメ科らしからぬ単葉の葉がオニユリなどのユリ科の葉を思わせることからの名だと思われますが、「タヌキマメ」と呼ぶとユーモラスな印象があるのに対し、「野百合」と呼ぶと、急に本種に気品が感じられるような気がします。
当園では、温室エリアの池の岸の一部に本種がほぼ野生状態で生育しています。かつては当園の周辺にも本種の自生が見られたとのことですが、現在園内で見られるものは、1994年ごろに現在の和気町で採取した種子を播種したものとのことです。(2021.11.7 改訂)
▲豆果の中には直径2mm程度で光沢のある黄~暗褐色の種子が数個~十数個入っている。 | ▲倉敷市立自然史博物館に展示されているはく製のタヌキ。長毛の生えた萼に覆われた果実をタヌキに例えた? |