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おかやまの植物事典

ススキ(イネ科) Miscanthus sinensis

日本全国の山野のいたるところで見られる身近な植物。地下には太く短い根茎があり、大株となる。 葉の縁には硬く細かい鋸歯があり、不用意に触ると手が切れることがある。
▲日本全国の山野のいたるところで見られる身近な植物。地下には太く短い根茎があり、大株となる。 ▲葉の縁には硬く細かい鋸歯があり、不用意に触ると手が切れることがある。

 

ススキは、日本全国の山野など、いたるところで普通に見られる多年生草本です。仲秋の名月のお月見の際にお月見団子とともに飾る植物として知られており、日本ではイネ(水稲)と共に、もっともよく知られているイネ科の植物と言えるでしょう。本種は古来より身近な植物として親しまれていたようで、万葉集の山上憶良の秋の七草の歌にも「尾花」の名で詠まれています。万葉集には、ほかにも薄/芒(ススキ)、カヤ、美草(みぐさ)などの名で本種を詠んだ歌が多数収められているほか、古事記などにも登場します。

高さは普通0.6~2m程度ですが、生育条件が良ければ、3mを超えることもあります。葉は互生で普通、幅1~2cm程度の線形ですが、乾燥したり、刈られたりする条件下にある株では、5㎜程度の細い葉が見られることもあります。葉の縁には、葉の先端に向かって硬く細かい鋸歯(ぎざぎざ)が規則正しく並んでおり、葉の先から基部に向かう方向に触れた場合には、この鋸歯によって皮膚が傷つき、出血することもあります。花は8月下旬~10月頃、茎の先端に長さ15~30cmの枝(総)を10~25本ほど出して咲きます。総に着く小穂は長い柄をもったものと短い柄を持ったものが対になっており、小穂の付け根には白色~淡褐色の長毛が密生しています。小穂の先にはくの字型に曲がった長い突起物があり、「芒」の字をあてて「のぎ」と言います。本種の近縁種に、河原など湿った場所に多いオギという植物があり、よくススキと間違えられますが、オギの小穂には芒がほとんどなく、付け根の長毛が長くて白いので、よく観察すれば区別できます。

ススキの花。黄褐色の葯(雄しべ)から出る花粉は風で散布される。付け根の紫色のものが柱頭(雌しべ)。 ススキの小穂の付け根には白~淡褐色の長毛があり、先端には芒(のぎ)と呼ばれる突起物がある。
▲ススキの花。黄褐色の葯(雄しべ)から出る花粉は風で散布される。付け根の紫色のものが柱頭(雌しべ)。 ▲ススキの小穂の付け根には白~淡褐色の長毛があり、先端には芒(のぎ)と呼ばれる突起物がある。


本種は、古来より利用されてきた植物で、人の生活に欠かせないものでした。本種の別名である「カヤ」という名は、「葉を刈って屋根を葺いた「刈屋根」がなまった」(門田裕一 監修,2013.野に咲く花 増補改訂新版 (山溪ハンディ図鑑).山と渓谷社.p210)とされ、本来は本種だけではなく、チガヤやオギなど、屋根を葺くイネ科植物の総称であったとされます。屋根を葺く(茅葺き屋根)ための建築材としての利用の他にも、牛や馬など家畜の飼料、田畑への肥料などとしても使われていました。岡山県北部の蒜山地域など雪深い地域では、冬前に本種を刈り取り、束にして家の周囲に並べ、雪囲いにもしたそうです。実用以外にも魔を祓う力があると考えられ、6月の「夏越しの大祓」の際には本種やチガヤ、オギなどを使った「茅の輪」をくぐって厄祓いをする行事があります。

左がススキの穂、右がオギの穂。オギの方が小穂の毛が長く、白く見える。また芒はほとんどない。 一面のススキ原。かつては人の生活と深く結び付いており、人里周辺には必ず存在した植生である。
▲左がススキの穂、右がオギの穂。オギの方が小穂の毛が長く、白く見える。また芒はほとんどない。 ▲一面のススキ原。かつては人の生活と深く結び付いており、人里周辺には必ず存在した植生である。

 

ススキ草原は放置すれば森林に遷移(変化)していきますので、草原を維持するために春先に「火入れ(山焼き)」を行っていた地域もかつては多くありましたが、現在ではその多くが利用されなくなって久しく、ほとんど森林となっています。また、春まで本種を腐らせずに保管しておくための方法として、刈り取って束にしたものを立てた状態にしておく「かやぐろ」も作られていました。「かやぐろ」も今ではほとんど見ることができませんが、岡山県では新見市など北西部地域を中心に、わずかながら今でも見ることができます。利用され、管理が行きとどいたススキ草原には、キキョウやオミナエシ、ハギ類など本種以外の「秋の七草」の他、ヒメユリやササユリといった多様な植物が生育し、ネズミやノウサギなど動物にとっても生息場所となっているほか、猛禽類などにとっては狩り場ともなっており、生物多様性を考える上でも非常に重要な自然環境と言えます。

(2015.12.20)

刈り取った本種の束で作られた「かやぐろ」。立てておくことで、腐ることなく、春まで保管できる。 真庭市蒜山地域で現在でも行われている「山焼き(火入れ)」。良質な「カヤ」を得るための作業でもあった。
▲刈り取った本種の束で作られた「かやぐろ」。立てておくことで、腐ることなく、春まで保管できる。 ▲真庭市蒜山地域で現在でも行われている「山焼き(火入れ)」。良質な「カヤ」を得るための作業でもあった。

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