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おかやまの植物事典

スイラン(キク科) Hololeion krameri

9~10月、直径3~3.5cmの花を咲かせる。ニガナやジシバリに似ているが、はるかに背が高く、花も大きい。 当園の湿地に群生している様子。湿地の条件によっては、このようにしばしば群生し、秋の湿地を彩る。
▲9~10月、直径3~3.5cmの花を咲かせる。ニガナやジシバリに似ているが、はるかに背が高く、花も大きい。 ▲当園の湿地に群生している様子。湿地の条件によっては、このようにしばしば群生し、秋の湿地を彩る。

スイランは本州中部以西、四国、九州の日当たりがよい湿地や水辺に生育する高さ50~100cmほどになる多年草です。スイラン属の植物は種数が少なく、東アジアに本種とチョウセンスイラン H. fauriei の2種のみが分布しています。チョウセンスイランは国内では九州のみに、国外では朝鮮半島、中国に分布しますが、本種は日本固有種とされ、国外には知られていません。

花は9~10月に、茎上部で分枝した先端に、直径3~3.5cmの黄色の頭花をまばらに咲かせます。小花はニガナなどと同様に舌状花のみで、野菊の仲間(シオン Aster 属など)のような筒状花はありません。舌状花の先端は5つに浅く切れ込んでいます。総苞は外片は長さ3.5~6mm、内片は2列あって8~12mm、外片、内片ともに披針形で先端は鋭頭であり、総苞片が卵形で鈍頭のチョウセンスイランとの区別点となっています。花後は、タンポポなどと同様、種子上部の冠毛が広がっていわゆる「綿毛」となり、風に飛ばされることによって種子(痩果)が散布されますが、冠毛は淡褐色で長さ6mm程度、痩果は長さ7.5~9mmと、痩果に対して冠毛が比較的短めのため、それほど長距離は飛ばないようです。

総苞外片は長さ3.5~6mm、内片は2列あって8~2mm、外片、内片ともに披針形で先端は鋭頭。 冠毛は淡褐色で長さ6mm程度、痩果は長さ7.5~9mm。風散布だが、それほど長距離は飛ばないようだ。
▲総苞外片は長さ3.5~6mm、内片は2列あって8~2mm、外片、内片ともに披針形で先端は鋭頭。 ▲冠毛は淡褐色で長さ6mm程度、痩果は長さ7.5~9mm。風散布だが、それほど長距離は飛ばないようだ。

 

葉は春先からある根出葉と、茎に付く茎葉があり、根出葉は線状披針形で長さ15~50cm、幅1.2~3cm、茎葉は4~8mmでやや幅が広く、茎葉は茎上部のものほど小型になりますが、茎下部のものでも幅8mm程度、長さは20~30cm程度と根出葉より細長くなります。根出葉、茎葉ともに表裏無毛、裏面はやや粉白色を帯びています。また、茎や葉など植物体を傷つけると、ジシバリやタンポポの仲間などと同じように、白色の乳液が出てきます。また、地下には白色の塊茎があり、そこから白~淡褐色の細い地下茎を伸ばして広がります。

茎葉は茎上部のものほど小型になる。茎下部のものは幅8mm、長さは20~30cm程度で根出葉より細長い。 葉や茎を傷つけると、ジシバリやタンポポの仲間と同様に、白色の乳液が出てくる。
▲茎葉は茎上部のものほど小型になる。茎下部のものは幅8mm、長さは20~30cm程度で根出葉より細長い。 ▲葉や茎を傷つけると、ジシバリやタンポポの仲間と同様に、白色の乳液が出てくる。


和名を漢字で表記すると「水蘭」で、細長い葉の様子がシュンラン Cymbidium goeringii などラン科植物の葉を思わせ、水のあるところ(湿地)に生育することから名づけられたとされます。しかしながら、細い茎葉の様子は確かにシュンランの葉を思わせる形状ではありますが、花はランの花とは似ても似つかず、また、花期にはかなり黄色い花の印象が強い植物だけに、普通ならば花の印象から「〇〇ギク」のような名前がつきそうなものです。また、漢字の「蘭」は、ラン科の植物以外に、フジバカマなどのキク科ヒヨドリバナ属の植物を指する場合もありますが、いずれにしても良い香りがすることを意味する漢字ですので、香りはほとんどない本種に対して、「蘭」の字をあてたとは考えにくく、他のところに名の由来がありそうです。

地下には白色の塊茎があり、地下茎を伸ばして広がる。写真上が根出葉のみの個体、写真下が開花個体の塊茎。 4月上旬頃に根出葉が芽生える。この芽生えの様子もしくは塊茎の様子からラン科植物を連想したのではないか。
▲地下には白色の塊茎があり、地下茎を伸ばして広がる。写真上が根出葉のみの個体、写真下が開花個体の塊茎。 ▲4月上旬頃に根出葉が芽生える。この芽生えの様子もしくは塊茎の様子からラン科植物を連想したのではないか。


個人的な推測ですが、本種の根出葉は他の湿性植物があまり芽生えていない4月上旬頃(植物園のある倉敷地域の場合)から芽生えますが、無数の細長い葉が泥中から芽生えている様子は、かなり目立ち、見ようによってはラン科植物の葉を思わせる姿です。また、この時期の根出葉の塊茎は養分を蓄積して大きく、エビネなどのランの塊茎にも似た形状です。つまり秋頃の葉の形状からランを連想したのではなく、春の芽生えの時期の葉や塊茎の様子からランを連想したのではないか…と考えていますが、いかがでしょうか。

当園では、9月下旬から10月頃にかけて、本種の花が園内の湿地をサワヒヨドリやサワギキョウなどとともに湿原一面を彩るように咲き、秋の野の風情を演出してくれます。サワヒヨドリの白~紅色、サワギキョウの紫、本種の黄色が入り乱れるように咲く光景はなかなか見事ですので、ぜひ一度、晩秋の植物園にもおいで頂ければと思います。

(2021.10.10 改訂)

 

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