▲春、栄養茎に先立って胞子茎が出現する。胞子茎は「つくし」と呼ばれて食用とされる。 |
▲胞子茎の先端は胞子嚢(胞子の袋)をつけた穂になっている。緑色の胞子を散布した胞子茎は間もなく萎れる。 |
スギナはトクサ科トクサ属の多年生草本で、国内では北海道から鹿児島県、国外では北半球の広い範囲に分布します。人家の庭や都市部の公園、路傍、耕作地などの身近な場所から山地の草原や湿原周辺まで、日当たりの良いところであれば、乾湿問わずいたるところにごく普通に見られるシダ植物です。地中に長い地下茎を伸ばして群生しますが、地上茎には、光合成をするための緑色をした「栄養茎」と、胞子を散布するための「胞子茎」の2型があり、春、栄養茎に先立って出現する胞子茎は「つくし」と呼ばれて食用とされ、広く親しまれています。逆に一般的に「すぎな」というと、栄養茎の方のみを指すことが多いようです。
栄養茎(すぎな)と胞子茎(つくし)のどちらも中空ですが、栄養茎は全体緑色をしていて細く、径2~4mm、高さ20~40cmほどで上部で輪生状に枝を出します。節には退化した長さ5mmほどの葉があり茎を取り囲む形で癒合しています。対して胞子茎(つくし)の茎は太く径4~5mm、高さ8~20cm程度で葉緑体を持たず、淡紅色~淡褐色をしています。節には栄養茎と同じく退化した葉がありますが、こちらは栄養茎のものより大きく長さ1~2cm程度で、逆さにした状態を和服の袴に見立てて「はかま」と呼ばれます。胞子茎の頂部に着く長さ1~3cm程度の穂の部分は、六角形の盾状になった胞子嚢床と呼ばれる台座の内側に胞子嚢(胞子のはいった袋)が多数付いたものが規則正しく組み合わさってできており、成熟すると胞子嚢床の隙間から緑色をした多数の胞子を散布した後、萎れて枯れてしまいます。食用にする場合は、胞子が出てしまう前が最良とされますが、胞子にはやや苦味があるので、苦味が苦手な子供などが食べる場合は、あえて胞子が出終わったものを採取するか、分けて調理すると良いでしょう。
▲栄養茎は全体緑色、上部で輪生状に分枝する。一般的に「すぎな」という場合、この栄養茎のみを指すことが多い。 | ▲胞子茎(つくし)は葉緑体をもたず、淡紅色をしている。一般に「はかま」と呼ぶのは退化して癒合した葉の部分。 |
愛される「つくし」にくらべ、栄養葉の「すぎな」は厄介な雑草として嫌われています。地下茎はちぎれても断片からすぐに再生するので、抜き取りはもちろん、多少耕耘したぐらいでは根絶できません。また「つくし」は、草刈りだけで管理されている田のあぜや河川堤防などのように、ある程度安定した草地で良く発生しますが、かく乱の頻度あるいは強度が高い場所では発生しにくく、「すぎな」ばかりが発生します。ごくまれに栄養茎の頂部にも胞子嚢穂が形成されることがあり、ミモチスギナと呼ばれますが、遺伝的に安定したものではないようで品種としては扱われません。ただし、近畿地方以東には「すぎな」の頂部に胞子嚢穂が付くイヌスギナというミモチスギナによく似た別種が分布します。
▲胞子茎がほとんど胞子を散布し終わるころになると、栄養茎が姿を現す。このころの栄養茎も食用となる。 | ▲「つくし」と「すぎな」は同じスギナという植物。地中に地下茎を長く伸ばし、ちぎれた地下茎からも再生する。 |
本種は「つくし」「すぎな」ともに様々な異名、地方名があります。「つくし」については、突くを重ねた語で突出の意である「つくづくし」から来ているという説(木村陽二郎 監修,植物文化研究会 編.2005.図説 花と樹の事典.柏書房.p.238)や「すぎな」に「付く子」、後述するスギナの由来と同様に「継ぐ子」という説(村上志緒 著.2013.日本のメディカルハーブ事典.東京堂出版.p.82)など様々な説がありますが、漢字では、土から筆が生えているように見えるということで「土筆」と書かれることが普通です。胞子嚢穂を「花」として「筆の花」、坊主頭に例えて「つくしんぼう(坊)」のように、「○○坊主」といった呼び名も多くあります。また「スギナ」については栄養茎の姿が樹木のスギに似ているので「杉菜」とも、茎の節の部分で引き抜いて戻し(継いで)、どこで継いだか当てる子供の遊びから「継ぎ菜」とも言われます。「菜」については、現在ではあまり利用されませんが、昔は若い栄養葉も茹でてから佃煮などにして食用としていたことが由来のようです。
(2018.3.24)
▲節の部分を引き抜き、また戻してどこを継いだかあててあそぶ。「継ぎ菜」が「スギナ」の由来とも言われる。 | ▲まれに栄養茎の頂部にも胞子嚢穂が形成されることがあり、ミモチスギナとよばれる。 |