トップページ


重井薬用植物園の見学は予約制です。

見学をご希望の方 こちらをクリック



お問い合わせ

重井薬用植物園
岡山県倉敷市浅原20
TEL:086-423-2396
FAX:086-697-5865
E-mail:shigeihg@shigei.or.jp

 

おかやまの植物事典

ソヨゴ (モチノキ科)  Ilex pedunculosa

日当たりが良く、乾燥した立地を好む。岡山県でもアカマツ林などに出現する代表的な里山林の構成樹種。 葉は卵状楕円形で表裏無毛。ふつう鋸歯はなく全縁で葉の縁は波打つ傾向がある。側脈は目立たない。
▲日当たりが良く、乾燥した立地を好む。岡山県でもアカマツ林などに出現する代表的な里山林の構成樹種。 ▲葉は卵状楕円形で表裏無毛。ふつう鋸歯はなく全縁で葉の縁は波打つ傾向がある。側脈は目立たない。

 

ソヨゴは本州の東北地方南部以西から四国・九州にかけての、日当たりが良く乾いた森林に生育する、高さ3~7mほどになる常緑小高木です。国外では台湾、中国南西部にも分布します。岡山県内においても全域に分布しており、アカマツ林など明るい二次林に生育する、代表的な里山林の構成樹種と言えますが、里山利用の停止やマツ枯れ病などによってアカマツ林が消滅し、カシ類など他の常緑樹が優占したような森林では、徐々に生育数が減少しているようで、かつてほど目につく樹木ではなくなっている印象があります。とは言え、比較的普通な樹木には違いなく、低山の尾根部や、そういった場所を通っている道路沿いなどでは、それほど探すことなく出会うことができます。

葉は互生、革質で光沢があり、長さ4~8cm、幅2~3.5cmの卵状楕円形で、表裏共に無毛、側脈は目立たず、先はとがり、ふつう鋸歯はなく全縁で、特徴のない形状ですが、縁が波打つようになる傾向があるため、比較的識別はしやすい葉です。雌雄異株で、花は6~7月に咲きますが、雄花、雌花ともに直径4mmほどで小さく目立ちません。雄花は新枝の葉腋から長さ1~2cmの花序軸を出し、3~5弁の白色の花を散形状に3~8個つけます。雌花は新枝の葉腋から出した3~4cmの花柄の先に普通1個(ときに数個)つきます。花弁は4~5弁で白色、雌しべの周囲に雄しべもありますが、退化しており、花粉は形成されません。 なお、雄花の中央部にも退化した雌しべがあります。

雄花は花序軸の先に散形状に3~8個つく。写真では見えないが、花の中央には退化した雌しべがある。 雌花は3~4cmの長い花柄の先に普通1花がつく。中央の雌しべの周囲の雄しべは退化して機能していない。
▲雄花は花序軸の先に散形状に3~8個つく。写真では見えないが、花の中央には退化した雌しべがある。 ▲雌花は3~4cmの長い花柄の先に普通1花がつく。中央の雌しべの周囲の雄しべは退化して機能していない。


果実は10~11月頃、赤く熟します。果実の直径は約8mm、同属のクロガネモチ I. rotunda やナナミノキ I. chinensis などの果実は花柄が短く密集してつくのに対して、本種の果実は花柄が長く、実つきの良い木でもまばらな印象を受けます。花柄の途中には小さな苞葉があります。果実の内部には長さ4~6mmほどの種子のように見える「核」が数個入っています(ふつう4個とされるが、“しいな”の核が含まれる場合も多い)。本当の種子は硬い殻のような核の中に1個入っており、このような果実を「核果」と呼びます。

花柄は同じモチノキ属のクロガネモチなどに比べてかなり長い。花柄の途中には小さな苞葉がある(赤矢印)。 果実は核果。種子に見えるのは「核」で本当の種子は核の内部に1個入っている。右側下の2つは未熟な核。
▲花柄は同じモチノキ属のクロガネモチなどに比べてかなり長い。花柄の途中には小さな苞葉がある(赤矢印)。 ▲果実は核果。種子に見えるのは「核」で本当の種子は核の内部に1個入っている。右側下の2つは未熟な核。

和名は、葉が風に吹かれる様の「戦ぐ(そよぐ)」という言葉に由来します。「葉がそよぐ」ことは本種に限らずどのような樹木でも起こりえることですが、本種の葉は比較的硬い葉であるため、微風でわずかに葉が揺れても葉が擦れ合ってサラサラと音を立てます。また、本種は里山に多く生え、燃料などに用いる「柴」として、頻繁に「柴刈り」される樹木でしたので、刈り取った際に葉が音をたてることが印象に残ったのかもしれません。また、“ゴ”の部分は、おそらく「子」で、かつては柴としてたびたび刈り取られ、低木状態のものが多かったため、小さい樹木ということを意味すると思われます。また、中国地方など西日本を中心に、「ふくらし」「ふくらしば」といった別名も知られますが、これは生の葉の表面を火であぶると、葉の内部の水分が水蒸気となって葉裏の皮が圧力で“ふくらみ”、弾けてパチパチと音を立てることに由来します。

岡山県北部など、地域によってはお正月などの神事の際の神棚に供える玉串としても使用されます。これを「サカキの代用である」と解説する場合がありますが、落葉樹主体の地域において、冬でも緑の葉を維持する常緑樹を生命力あふれるものとして神性を見出すことは、常緑の針葉樹を用いるクリスマスツリーのように世界中普遍的にみられることですので、代用ではなく、むしろ葉を火にくべたときに破裂音を立てることが、魔を祓うとして重要視されていたのではないかと思われます。また、漢字表記を「冬青」とされる場合がありますが、少なくとも現代中国では、「冬青」は同属のナナミノキを指し、本種は長い花柄がある「冬青」ということで、「具柄冬青」と表記することが正確なようです。学名の種小名 pedunculosa も「花柄がある」という意味で、果実の長い柄が本種の特徴であることを示しています。

(2021.1.16)

葉の表面を火であぶると、内部の水分が水蒸気となり、葉裏の皮が圧力で膨らみ、弾けてパチパチと音を立てる。 地域によっては神事にも使用される。写真は岡山県蒜山地域の正月飾り。餅花がついているのはクロモジの枝(写真提供:津黒いきものふれあいの里)
葉の表面を火であぶると、内部の水分が水蒸気となり、葉裏の皮が圧力で膨らみ、弾けてパチパチと音を立てる。 ▲地域によっては神事にも使用される。写真は岡山県蒜山地域の正月飾り。餅花がついているのはクロモジの枝(写真提供:津黒いきものふれあいの里)

▲このページの先頭へ