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おかやまの植物事典

シロノチリツバキ(ツバキ科) Camellia sp.

葉は純白で、初冬から春先暖かくなるころまで咲くが、開花のピークは2月上旬頃。 花びらがバラバラに散るので、「散りツバキ」だが、時に丸ごと落ちる花も見られる。
▲葉は純白で、初冬から春先暖かくなるころまで咲くが、開花のピークは2月上旬頃。 ▲花びらがバラバラに散るので、「散りツバキ」だが、時に丸ごと落ちる花も見られる。

 

ツバキの仲間(ツバキ属)は、常緑の樹木で、東アジアからヒマラヤにかけて150種ほどが分布し、日本には3種が分布する(茂木透ほか,2000.山渓ハンディ図鑑3 樹に咲く花-離弁花2.山と渓谷社.p170)とされています。その3種とは、大抵の人が知っている、ツバキ、サザンカ、チャノキですが、3種というのは、日本の山野に自生する、植物分類学上の「種(Spiceis)」が3種である、ということで、それぞれの種のなかに、様々な変種や品種があったり、日本国外に分布する種が園芸種として持ち込まれたものがあったり、それぞれの種の間にできた雑種があったり、江戸時代ごろにはそれらを元にした園芸品種が数多く作出されたりしており、現在知られている「ツバキの園芸品種」は、珍しいものも含めれば、数百種類以上、一説には1,000種近いとも言われます。

ツバキ(ヤブツバキ)とサザンカはよく似ていますが、もっとも分かりやすい違いは、ツバキが花が咲いた形のままポトリと落ち、サザンカは花弁が1枚ずつバラバラになって落ちる、ということです。これはツバキの雄しべと花弁の基部が合着しているのに対し、サザンカは合着していないことによる違いです。他にも、雌しべの下にある子房の表面が、ツバキは無毛であるのに対し、サザンカの子房は有毛、葉の主脈や葉柄にもサザンカは粗い毛があるといった違いがあります。

子房は無毛でつやがある。サザンカの子房は有毛であり、この特徴はツバキのものである。 葉はふちに鋸歯のある長楕円形~卵状楕円形。葉柄や主脈は無毛。(サザンカは有毛)
▲子房は無毛でつやがある。サザンカの子房は有毛であり、この特徴はツバキのものである。 ▲葉はふちに鋸歯のある長楕円形~卵状楕円形。葉柄や主脈は無毛。(サザンカは有毛)


ところが、当園にあるものは、子房や葉柄などは無毛で、ツバキの特徴を備えているにも関わらず、花びらがサザンカのように一枚ずつバラバラに散ります。ツバキの品種に花弁がバラバラに散る「散り椿」というものがあり、その白花品として「シロノチリツバキ」という名のものがあるようだが、当園のものは花色が純白であるので、その「シロノチリツバキ」にあたるのだろう、と考えて、一応そう呼称しているもので、正確な同定結果に基づいているわけではありません。

このツバキは、当園の古屋野寛(こやの ゆたか)名誉園長が倉敷市内の植物調査を行っていた際、児島稗田町の山中で偶然見つけたもので、曰く発見したのは昭和52年(1977年)の11月23日でした。その日の調査を終えての帰路、ふと山中に白い花を見つけたので、再び確認のために急斜面を50mばかり登ったところ、竹林の中でこの樹を見つけました。樹の高さは5~6mで、花は手の届かぬ上のほうにありましたが、花弁はサザンカのように地面に散乱していました。最初はサザンカかと思ったのですが、葉が意外にもツバキだったので小枝を持ち帰り挿し木にしました。児島稗田町にあった原木のほうは、その後の都市計画道路の工事で残念ながら犠牲になってしまったようです。とのことです。

花は直径4cm前後。花弁がヤブツバキ(5枚)より多く、花糸などの一部が花弁状に変化した八重咲き花。 幹は灰褐色で滑らか。樹高は5mほど。根元から萌芽を盛んに出している。
▲花は直径4cm前後。花弁がヤブツバキ(5枚)より多く、花糸などの一部が花弁状に変化した八重咲き花。 ▲幹は灰褐色で滑らか。樹高は5mほど。根元から萌芽を盛んに出している。

 

野生種であるヤブツバキの花弁は5枚ですが、このツバキは15~20枚ほどもあります。これは花糸(雄しべ)や花柱(雌しべ)の一部が花弁状に変化し、いわゆる八重咲きとなっているためですが、完全な八重咲きではなく、正常な雄しべもあります。雌しべも機能しているらしく、ごくまれにではありますが、結実も見られます。これらの野生種との違いが、自然条件下の変異のみによって生まれるとは考えにくく、おそらくは人為的に作出されたものであろうと推測しています。

一般的なツバキの園芸品種としては、「白いチリツバキ」はあまり知られていないようですが、当園のものも、いつ、誰が、どのようにして生み出したものか、まったく謎のままです。ですが、昔々、倉敷は児島の地に、ちょっと変わったツバキを植え、冬の花見を楽しんでいた風流人がいた、ということは確かかもしれません。

 (2016.2.14)

まれに結実する。写真は枝に残った裂開した果実。種子は落下してしまっている。 野生のヤブツバキの花。この花から、どのようにして、当園のチリツバキは生まれたのだろうか。
▲まれに結実する。写真は枝に残った裂開した果実。種子は落下してしまっている。 ▲野生のヤブツバキの花。この花から、どのようにして、当園のチリツバキは生まれたのだろうか。

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