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おかやまの植物事典

サワギキョウ(キキョウ科) Lobelia sessilifolia

山野の湿地のやや富栄養な環境を好んで生育する。夏の終わりから秋にかけ茎の上部に多数の花を咲かせる。 花色はキキョウと同じ青紫色だが、花の形は大きく異なり、鳥が羽を広げたような形をしている。

▲山野の湿地のやや富栄養な環境を好んで生育する。夏の終わりから秋にかけ茎の上部に多数の花を咲かせる。

▲花色はキキョウと同じ青紫色だが、花の形は大きく異なり、鳥が羽を広げたような形をしている。

 

サワギキョウは、「沢・桔梗」の和名のとおり、北海道、本州、四国、九州の山野の湿地に生育する多年草です。高さは50~100cmほどになるとされますが、比較的富栄養な環境を好み、養分条件が十分であれば大きく成長し、花数も多くなりますが、貧栄養な環境では小型で、花付きもまばらになります。抽水状態(水底から生え、葉が水面上に出る)になる場所には生育せず、湿原の内部でも少し盛り上がっている場所や、辺縁部などの常に湿り気がある場所に生育しています。

花期は植物図鑑では8~9月とされていますが、岡山県下では9月頃、夏の暑さが少し和らぎ、秋の気配が感じられるころに咲き始め、10月下旬ごろまで咲き続けます。花はキキョウそのものとよく似た鮮やかな青紫色ですが、形はキキョウとは全く異なり、2つに裂けて両側に突き出した上唇、3つに裂けた下唇があり、その上に筒状に合着した花糸(雄しべ)とそれを貫く花柱(雌しべ)が釣り竿のように突き出しています。真正面から見ると、まるで鳥が羽を広げているような形になっていますが、この花の形には理由があり、ハチなどの訪花昆虫が蜜を吸おうと花弁の基部に頭を突っ込んだ際に、昆虫の背中に花粉が付いて運ばれるようになっています。

訪花したスズバチの仲間。訪花した昆虫の背に雄しべ(雌しべ)の先端が当たるような形状になっている。 茎は葉が付いている部分ごとに折れ曲がるため、上から見るとジグザグになっている。
▲訪花したスズバチの仲間。訪花した昆虫の背に雄しべ(雌しべ)の先端が当たるような形状になっている。 ▲葉は互生、ほぼ葉柄はなく、茎を取り囲むようにつく。葉のふちには細かい鋸歯がある。

 

葉は茎の下部では長さ15㎝ほどの細長い形(披針形)ですが、上部の葉ほど小さくなり、茎の頂部では苞(花の付け根などに付く葉が変化した部分)となってその腋に花をつけます。葉にはほとんど葉柄がなく、茎に互生(互い違いに付く)しますが、互生といっても茎を取り囲むようにつき、一見、輪生(同じ個所に輪になって付く)にも見えます。葉のふちには、キキョウの葉と同じような細かいぎざぎざ(鋸歯)があります。

花後には長さ0.8~1cm程度の球形の果実が多数できます。果実は蒴果で、晩秋には茎全体が徐々に立ち枯れた状態となります。立ち枯れた茎を手で揺らしてみると、果実の内部で種子が動いて、シャカシャカとまるでマラカスのように音がします。晴れて乾燥した日には果実の上部が口のように開き、茎が風で揺れた際などに種子がまき散らされます。種子は果実内部に多数が詰まっており、長さ1.5mm程度の卵形、光沢がある紫色で、片側が翼状に薄くなっています。

晩秋にはたくさんの俵形~球形の果実ができる。茎を揺らすと中で種子が動いてマラカスのように音がする。 果実は乾燥すると上部が開き、風で揺れた際などに内部の種子をまき散らす。
▲晩秋にはたくさんの俵形~球形の果実ができる。茎を揺らすと中で種子が動いてマラカスのように音がする。 ▲果実は乾燥すると上部が開き、風で揺れた際などに内部の種子をまき散らす。

 

園芸店等ではアメリカ大陸原産のベニバナサワギキョウ(アメリカサワギキョウ)L. cardinalis といった近縁種が「ロベリア/赤花サワギキョウ」などの名で販売されていますが、これらを含む本種の仲間(ミゾカクシ属)の植物は、全体に有毒なアルカロイドのロベリンを含むことが知られており、岡山県を舞台とした横溝正史の作品「悪魔の手毬唄」には、「お庄屋ごろし」という名で本種が登場します。誤食すると嘔吐や下痢、量によっては心臓麻痺で死亡する可能性もありますので、植物体や花を活けた花瓶の水などを子供やペットなどが誤食、誤飲しないよう注意が必要です。また、体質にもよるようですが、頬などの皮膚にかゆみが出るという人もいるようですので、心配な方はゴム手袋等をして、葉や茎を傷つけると出てくる白い乳液状の汁が皮膚に付かないようにした方が良いでしょう。

当園の湿地には岡山県内産(詳細産地不明)のものが生育しており、毎年、秋になるとスイランやサワヒヨドリなどと共に見事な秋のお花畑を演出してくれています。

(2020.10.25 改訂)

種子は1.5mmほどの卵形、光沢がある紫色で果実の中に多数詰まっている。片側が翼状に薄くなっている。 葉や茎を傷つけると白い乳液状の汁が出てくる。植物体にはアルカロイドのロベリンという毒成分が含まれる。
▲種子は1.5mmほどの卵形、光沢がある紫色で果実の中に多数詰まっている。片側が翼状に薄くなっている。 ▲葉や茎を傷つけると白い乳液状の汁が出てくる。植物体にはアルカロイドのロベリンという毒成分が含まれる。

 

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