環境省レッドリスト2018:準絶滅危惧
▲花期のサクラバハンノキ。湿地周辺に生育し、花は2月頃、葉の展葉より先に咲く。(2019年2月13日撮影) | ▲雄花序は4~5本が束になって枝先からぶら下がる。雌花序は雄花序の付け根の下方から出て上向きにつく。 |
サクラバハンノキは、岩手県以南の本州と九州(宮崎県)の日当たりのよい湿地に生育する高さ10~15mほどの落葉小高木です。国外では中国南東部にも分布します。花は岡山県では2月頃、葉の展葉よりもかなり早く咲きますが、他のカバノキ科の樹木同様、雄花序の花粉が風によって飛散して雌花序に受粉する、「風媒花(植物)」であるため、他のハンノキ属の樹木(ハンノキそのものやヤシャブシ類など)同様、花粉症の原因植物(アレルゲン)となっています。
雄花序は枝先に4~5個が束になってぶら下がっており、前年の秋には既にロウ状の物質で固まった状態でついています。冬頃になると雄花序は徐々に褐色に変化し、開花が近づくにつれてロウ状物質がポロポロと落ち始め、秋には長さ3~5cm程度であった雄花序は、“満開”の時期には5~10㎝ほどになり、風で花序が揺れるたびに黄色い花粉を飛散させます。花が終わった雄花序は枝から落下します。雌花序は長さ3~4mm程度の棍棒状で、雄花序の付け根より枝の下方から3~4個程度が上向きにつきます。雌花序は小さく目立ちませんが、花柱は鮮やかな赤紫色をしています。本種は、他のハンノキの仲間、特にハンノキ A. japonica とは花期には見分けが難しいのですが、よく観察してみると、本種の雌花序の方がやや長めで、ハンノキそのものの雌花序は短く棍棒状というよりも球形に近い丸っこい形をしているようです。(当園内での限られた個体での観察結果のため、正確ではないかもしれません)。
▲サクラバハンノキの雌花序。花柱は鮮やかな赤紫色をしており、ハンノキそのものの雌花序より長め。 | ▲ハンノキそのものの花序。雄花序はよく似ており、見分けは難しいが、雌花序はこちらの方が短く、丸っこい。 |
果穂は長さ2cm、幅1cm程度の卵状楕円形で、果実は長さ3mm程度の扇形で、他のハンノキの仲間に見られるような薄い翼はほとんどありません。果実は花穂の果鱗の間に多数つき、花が咲いた次の冬に熟して、風などで枝が揺れた際にこぼれて散布されます。花穂は種子が散布された後も枝先についたままになることが比較的多く、花序は秋の初めには形成されているため、秋頃には、葉、つぼみ、若い実(果穂)、古い実が同時に観察できます。種子は軽いため、風が強いと思いのほか広範囲に散布されるようで、当園では、湿地北側に生えた個体から冬期の北風により南方向に種子が散布されたらしく、湿地内部に大量に実生が出現したため、現在では湿地の南端のみに生育させるようにしています。
▲雄花序から出た花粉。風で花粉を飛散させ、受粉を行う風媒植物であり、花粉症の原因植物でもある。 | ▲葉の基部はやや心形になり、表面は無毛で光沢がある。葉の様子がサクラの葉を思わせることが和名の由来。 |
和名は「桜葉・榛の木」で、本種の葉の基部がやや凹んで心形(ハート形)、(ハンノキそのものは凹まない“くさび型” )、表面が無毛で光沢があるなど、葉全体の印象がサクラの葉に似ていることが由来とされます。日本で本種が“発見”されたのは割と最近で、1936年に愛知県で採集された標本をもとに、最初は新種として発表されましたが、その後、中国にあるものと同一種とされたようです。日本における分布は比較的広いように思えますが、各地に小規模な集団として生育している状態で、いずれも個体数が少ないようです。環境省レッドリストでは「準絶滅危惧」とされています。主だった植物図鑑でも「湿地に(やや)まれに生える」などと書かれています。しかし実は中国地方では比較的個体数が多く、岡山、広島県では、それほど標高の高くない山地(岡山県では中部に広がる標高500~700mの吉備高原地域)の湿原周辺に行くと、わりあい普通に見つけることができる樹木のため、県版レッドデータブック等には記載されていません。とはいえ、県南部の湧水湿地周辺では少なく、県北部の中国山地の湿原でも出会うことはまずありませんので、県中部の湿原に生育は限定されている、と言っても間違いではないように思います。
(2019.2.23)
▲秋の初めには既に花序が形成されている。写真中央左上に緑色をした果穂が見える。(2018年10月1日撮影) | ▲果実は花穂の果鱗(鱗片)の間に多数付き、翌冬に熟して、風で枝が揺れた際にこぼれ落ちる。 |