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おかやまの植物事典

リンドウ(リンドウ科) Gentiana scabra var. buergeri

山野の草原に生育し、秋から初冬にかけて、茎の頂部や葉のわきに数個ずつ花をつける。 茎は紫褐色を帯び、葉は対生で付け根はやや茎を抱く。この写真では判りにくいが、3本の葉脈が目立つ。
▲山野の草原に生育し、秋から初冬にかけて、茎の頂部や葉のわきに数個ずつ花をつける。 ▲茎は紫褐色を帯び、葉は対生で付け根はやや茎を抱く。この写真では判りにくいが、3本の葉脈が目立つ。

 

リンドウは本州、四国、九州の日当たりの良い山野草原に生育する、高さ20~80cmほどになる多年草です。葉は紫褐色を帯びた茎をやや抱くように対生(2枚が対になって出る)し、長さ3~8cm、幅1~3cmの卵状披針形をしており、3本の葉脈が目立ちます。

花は秋から初冬の霜が降り始めるころに咲き、青紫~紫紅色で長さ4~5cmの筒状花が茎の頂部や上部の葉の腋に数個ずつ着きます。筒状の花冠(花)の先端は5裂しており、裂片には白点がありますが、花によって白点の数には幅があり、ほとんど白点がないものもあります。また、花筒内部には紫褐色の斑があります。5裂した花冠の裂片と裂片の間には、副花冠と呼ばれる小さな弁状の部分があり、この副花冠があることがリンドウ属(“科”ではない)の特徴の一つです。花冠内部には、1本の雌しべを取り巻くように5本の雄しべがあり、先に雄しべが成熟して花粉を出した後、雌しべが成熟します。雌しべは未熟な時は柱頭(雌しべの先端)が合着していますが、成熟すると、柱頭は2つに分かれて著しく反り返ります。

花は筒状で5裂する。裂片には白点を敷き、花筒内部には紫褐色の斑がある。裂片の間には副花冠がある。 雌しべの柱頭は未熟な時は合着しているが、成熟すると2裂して、著しく反り返る。
▲花は筒状で5裂する。裂片には白点を敷き、花筒内部には紫褐色の斑がある。裂片の間には副花冠がある。 ▲雌しべの柱頭は未熟な時は合着しているが、成熟すると2裂して、著しく反り返る。

 

花は日光が当たると開き、夕方ごろになると閉じるという開閉運動を繰り返しますが、曇りや雨の日には開かず、閉じたままとなります。開いているほうがもちろん美しいのですが、閉じた状態の蕾は、花冠の先端が少し捻じれたように折り重なっており、まるでソフトクリームのようでかわいらしくもあります。

リンドウ属の植物の雌しべの付け根の部分には蜜腺があり、この蜜を狙って訪花したハチやアブの仲間などが花筒内部に潜り込むと昆虫の体に花粉が付着し、花粉が運ばれる仕組みになっています。しかし、クマバチやマルハナバチの仲間には、花の中に潜り込まず、花筒の横に穴を開けて蜜を奪う場合があり、受粉に貢献しないということで、「盗蜜」行動と呼ばれています。本種の花を観察していると、しばしば花筒に穴が開いているのを見つけることができます。花の美しさを愛でるのも良いですが、あいにく曇りで花が開いていない場合には、この盗蜜痕を探してみるのも面白いかもしれません。

花は天気の良い日にしか開花しない。蕾の状態では花冠の先はねじれており、ソフトクリームのよう。 訪花したハナアブの仲間。雌しべの付け根に蜜腺があり、昆虫が潜り込むことにより花粉が運ばれる。
▲花は天気の良い日にしか開花しない。蕾の状態では花冠の先はねじれており、ソフトクリームのよう。 ▲訪花したハナアブの仲間。雌しべの付け根に蜜腺があり、昆虫が潜り込むことにより花粉が運ばれる。

 

和名は、漢方でこの仲間の乾燥させた根を生薬として解熱、健胃剤などとして利用することから、中国名(漢名)でもある「龍胆(りゅうたん)」の音が変化したものとされます。「胆」は熊の胆のう(熊の胆)と同じように苦みが強く、同様の薬効があるためのようですが、「龍」については、その苦さを熊ではなく「龍」の肝に例えたとか、「葉が竜葵(イヌホオズキ)に似ているから」あるいはその薬効から「竜鬚(竜のヒゲ)・鳳尾の類のようにめでたい語を冠した」(加納善光 著.2008.植物の漢字語源辞典.東京堂出版.p.421)など、諸説あるようです。本種の別名に「ササリンドウ」の名がありますが、これは「笹+龍胆」ではなく、他のリンドウの仲間の葉に比べ、本種の葉が笹の葉に似ていることを意味する名で、家紋にある「笹龍胆」の紋章は、源頼朝が使用した清和源氏の代表紋とされ、鎌倉市の市章ともなっています。

花筒の横に穴を開けられ「盗蜜」されたエゾオヤマリンドウの蕾(2010年9月 北海道)。 笹龍胆」紋。ササリンドウは「笹+竜胆」ではなく、本種の葉が笹に似ていることからの別名である。
▲花筒の横に穴を開けられ「盗蜜」されたエゾオヤマリンドウの蕾(2010年9月 北海道) ▲笹龍胆」紋。ササリンドウは「笹+竜胆」ではなく、本種の葉が笹に似ていることからの別名である。(画像は 発光大王堂 http://hakko-daiodo.com/

 

中国と日本で生薬名が同じですので、大陸にも日本と同じ植物種が分布するように思いますが、日本に自生するリンドウ G. scabra var. buergeri は、分類上は大陸にあるリンドウ G. scabra var. scabra の変種とされており、変種としては日本固有です。ちなみに本種の仲間(リンドウ属)は世界中におよそ数百種もあり、古くは古代エジプトなどでもリンドウ属の植物が薬草として利用されていたようです。マラリアの治療薬であるキニーネ発見以前にはマラリア治療に用いられたほか、中世ヨーロッパではビールに入れる香草の一種として使われたとされます(木村陽二郎 監修.植物文化研究会 編.2005.図説 花と樹の事典.柏書房.p.485)

岡山県下でも全域に普通に生育しますが、生育地である日当たりのよい草地の減少などにより、岡山・倉敷など県南の都市部ではなかなか自生のものを見ることが難しくなりつつあります。当園では1977年に倉敷市児島にて採種したものから実生を育て、現在では湿地エリアの湿地内部に多くの株が生育するようになっています。

(2018.11.18 改訂)

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