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おかやまの植物事典

オオバコ(オオバコ科) Plantago asiatica

4~9月頃、高さ10~30cm程度の花茎に多数の花を穂状に付ける。 左側の花茎が雄性期、右側の花茎が雌性期。 葉は数枚~十数枚が地際から束生して放射状に広がる。 葉柄を含む葉の大きさや形状は個体や環境によってかなり幅がある。
▲4~9月頃、高さ10~30cm程度の花茎に多数の花を穂状に付ける。 左側の花茎が雄性期、右側の花茎が雌性期。 ▲葉は数枚~十数枚が地際から束生して放射状に広がる。 葉柄を含む葉の大きさや形状は個体や環境によってかなり幅がある。

 

オオバコは日当たりの良い道ばた、荒れ地などでごく普通に見られる多年草です。 北海道から沖縄県まで全国的に分布しており、都市部から高山の登山道などかなり標高の高い場所にまで見られるほか、湿った場所から乾燥した場所まで幅広い環境に生育します。 ただし、乾燥地といっても、雨が降った際に水たまりができるような、やや水はけが悪い場所では生育が見られますが、砂地の場所に生育することは多くなく、水はけのよい場所では生育しにくいようです。 国外では「サハリン・カムチャツカ半島・朝鮮半島・台湾・中国・東南アジア・インドに広く分布する。」(大橋広好・門田裕一ほか編.2017.改訂新版 日本の野生植物5.平凡社.p.81)とされます。 岡山県においても、南部から中国山地まで、県下全域に見られます。

葉は、数枚~十数枚が地際から束生して放射状に広がっていますが、葉柄を含めた葉の大きさや形状は個体や環境によってかなり幅があります。 葉縁は全縁もしくは波打ったような形状で、表裏無毛、あるいは白毛が散生して葉裏に隆起する数本の葉脈が目立ちます。 葉身は長さ2~15cm、幅1.5~8cmの卵形あるいは広卵形で、基部はくさび状に狭まって葉柄となっています。 葉柄は上部が凹んだ半月状をしており、たいていは葉身よりやや短いか同長程度の長さですが、ときに葉身よりも長くなることもあります。 葉柄を折ってゆっくりと引っ張ると、中から白い糸状のものが現れ、引き出せた長さを比べて遊ぶことができます。 これは水分や養分が通る「維管束」で、道ばたなど踏み付けられやすい場所に生育するため、踏まれたりしても維管束が傷つかないよう、他の植物と比較しても特に丈夫な維管束を持っている本種ならではの「草花遊び」です。

葉裏の写真。 葉縁は全縁もしくは波打ったような形状。 数本の目立つ葉脈があり、葉裏に隆起している。 葉柄を折ってゆっくり引っ張ると、白い糸状の維管束を引き出すことができる。 丈夫な維管束を持つ本種ならではの草花遊び。
▲葉裏の写真。 葉縁は全縁もしくは波打ったような形状。 数本の目立つ葉脈があり、葉裏に隆起している。 ▲葉柄を折ってゆっくり引っ張ると、白い糸状の維管束を引き出すことができる。 丈夫な維管束を持つ本種ならではの草花遊び。

 

花は4~9月頃、株の中央から直立する高さ10~30cm程度の花茎を数本伸ばし、上部に多数の小さな花を穂状に付けます。  花は開花初期(雌性期)には4枚の緑色の萼と先端が赤い1枚の苞に包まれた状態で、内部から1本の白色の柱頭(雌しべの先端)が顔を出しています。 柱頭が受粉を終えた後、長い花糸をもった4本の雄しべが、先が4裂した花冠と共に現れます(雄性期)。 花後にできる果実は先がやや円すい状に尖った長楕円形をした蒴果で、中央で横方向に割れ、上部がフタか帽子のように取れて、内部の種子がこぼれ落ちます。 このような果実を「蓋(がい)果」といいます。

種子は一つの果実に4~6個ほど入っており、黒褐色、長さ1.8mmほどの長楕円形をしています。 この種子は水に濡れると透明な粘液をまとった姿となり、車輪や靴の裏、動物の足先などに付着して運ばれます。 これは「付着散布」とよばれる種子散布様式で、鉤状のトゲなどで衣服などに付着するオオオナモミなど「ひっつきむし」もくっ付く方法は異なりますが付着散布に含まれます。 低山の登山道や林道などで本種がしばしば道に沿うように生育しているのはこの種子散布の方法が理由です。 ちなみに本種の花茎は葉と同様に強靭で、踏まれても容易にはちぎれたりしないため、花茎を交互に組み合わせて引っ張り合う「オオバコ相撲(草相撲)」という草花遊びが広く親しまれています。

雄性期の花。 雌性期には4枚の緑色の萼と1枚の苞(先が赤い)に包まれ花冠は見えないが、雄性期になると花冠が現れる。 花後に出来る果実は中央で横に割れて上部がフタのように取れる「蓋(がい)果」。 種子は黒褐色、長さ1.8mmほどの長楕円形。
▲雄性期の花。 雌性期には4枚の緑色の萼と1枚の苞(先が赤い)に包まれ花冠は見えないが、雄性期になると花冠が現れる。 ▲花後に出来る果実は中央で横に割れて上部がフタのように取れる「蓋(がい)果」。 種子は黒褐色、長さ1.8mmほどの長楕円形。


和名を漢字表記すると「大葉子」で、大きな葉を持つことに由来するとされます。 漢名(中国名)は「車前」で、車の前に生える草、つまり馬車や牛車などの轍に沿って生えていたことを意味する名と考えられます。 日本でも全草を乾燥させたものを「車前草(しゃぜんそう)」、種子を「車前子(しゃぜんし)」と呼び、煎じた汁を咳止めや利尿の効能がある生薬として用い、のど飴などにもしばしば「オオバコエキス」などとして配合されています。

オオバコ属の学名 Plantago は、英語で植物を意味する Plant の語源でもあるラテン語 Planta に由来します。 Planta には「若芽,挿し木,苗」の意味のほか、「足の裏」(田中秀央 編.1952.羅和辞典.研究社.p.465)、もしくは「足跡」(豊国秀夫 編.1987.植物学ラテン語辞典.至文堂.p.155)の意味があり、種子が足の裏などに付着する、あるいは踏み跡などに生育するというオオバコ属の植物の特徴がヨーロッパなどでも古くから知られていたことを示しているのかもしれません。 種小名 asiatica は、「アジアの」の意味で、本種がアジアに分布域をもつことを示しています。

(2024.5.26)

種子は水に濡れると粘液をまとった状態となり、靴の裏などに付着して運ばれることで長距離を運ばれ散布される。 植物園の湿地エリア入口付近の観察路にびっしりと生育するオオバコ。 多くの見学者の靴による種子散布の結果だろうか。
▲種子は水に濡れると粘液をまとった状態となり、靴の裏などに付着して運ばれることで長距離を運ばれ散布される。 ▲植物園の湿地エリア入口付近の観察路にびっしりと生育するオオバコ。 多くの見学者の靴による種子散布の結果だろうか。

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