▲秋、稈の頂部から長い「総」を多数、放射状に付ける。揺れる穂を「おぐ」(手招き)としたのが名の由来とも。 | ▲河川敷に広がるオギの群落。ススキは乾燥地を好むが、本種は湿地を好み、地下茎を長く伸ばして広がる。 |
オギは、北海道から九州にかけての河原などの水辺、放棄水田のような湿った場所に群生する高さ1~2.5mほどになる大型の多年草です。日本国外でも、朝鮮半島、中国(北部・東北部)、極東ロシア地域に分布します。水辺とは言っても、根元が常時水に浸かるような場所は苦手なようで、常に土が湿っている程度の場所に好んで生育します。
9~10月、稈(かん:イネ科の茎のこと)の頂部から長さ25~40cmの総(そう:穂状または総状に小穂の並んだ枝)を多数、放射状に付けます。総につく小穂は柄の長い小穂と柄の短い小穂が対になっており(本種だけではなくススキ属とイネ科の一部に共通してみられる特徴)、小穂の基部には長さ1~1.5cmの銀白色の長毛が密生しています。稈は直立し、地際の直径は1.5cmほどにもなります。葉は長さ40~80cm、幅1~4.5cmになり表裏無毛、表面は主脈が白く目立ちますが、裏面はやや粉白色を帯び、主脈は隆起しているものの白くなく目立ちません。また、葉のふちには刺状の鋸歯があり、ざらつきますが、ススキの葉のように簡単に手が切れるほどではありません。また、イネ科植物には葉の基部と茎を包む葉鞘の接続部分に「葉舌」と呼ばれる膜状の部分がありますが、本種の葉舌は毛状に細かく裂けています。葉鞘は茎上部のものは無毛で、茎下部のものは粗い毛が生えていますが、花期には茎の下部の葉は枯れ落ちた状態となるため、葉鞘の毛も確認が難しくなります。地下には太く長い根茎があり、根茎から芽を出して増え、しばしば大群落を形成します。
▲上が葉の表面、下が裏面。オギの葉はススキにくらべて幅が広く、葉のふちも手が切れるほどではない。 | ▲イネ科植物の葉の基部と葉鞘の接続部には葉舌があり、本種の葉舌は毛状に細かく裂けた状態である。 |
▲地下に太く長い根茎を伸ばして大群落を形成する。根茎が短く、大きな株となるススキとの大きな違いである。 | ▲「総」には、柄の長い小穂と柄の短い小穂が対になって付く。銀白色の毛は小穂本体の2~4倍の長さ。 |
ススキ M. sinensisとは同属で近縁種のため、姿形もよく似ていることから、しばしば混同されますが、次のような点をよく観察すれば違いを見分けることは比較的容易です。
生育環境としては本種は湿地、ススキは乾燥地と明らかに異なりますので、河川敷や放棄水田など、湿った場所に純白の穂が揺れていたとしたら、ススキではなく本種の可能性が高いと考えたほうが良いかもしれません。
▲オギの小穂(左2つ)とススキの小穂(右2つ)の比較。ススキの小穂の先から伸びているのが「芒」。 | ▲「枯れすすき」状態のススキ(左)とオギ(右)の穂。オギの方が毛が長く白いため、よりふわふわとした印象。 |
本種は万葉集にも「をぎ」として登場します。和名の由来には諸説ありますが、一説には、長く垂れ下がるような姿になる本種の穂が風に揺れる様子を手招きにに例えたもので「招く(おぐ)」が変化した、特に霊魂を招くと考えられた…ともされ、「風聞草(かぜききぐさ)」という風流な別名もあるそうです(木下武司著.2010.万葉植物文化誌.八坂書房.p.629-630)。漢字で書くと「荻」で、マメ科のハギの「萩」としばしば勘違いされますが、「萩」は秋に咲く草花の代表ということで、「秋」の字に草冠を組み合わせて日本で作られた「国字」です。「荻」は、中国で北方の異民族を指した「狄(てき)」と草冠の組み合わせで、中国でも「荻」と表記します。「萩原」と書いて「おぎはら」と読む苗字の方がおられますが、これは元々は「荻」であったところ、戸籍を手書きで管理していた時代に「萩」と誤記された、あるいは「狄」の字には「野蛮な」という意味も含みますので、それを嫌って意図的に字を変えた可能性も考えられます。
ちなみに本種はススキなども含めて「かや(茅)」と呼ばれ、かつては茅葺き屋根の資材として使用され、人々の生活にとって非常に重要な植物でしたが、現在では資材として使用されることはなくなっています。そのことが、ススキとの混同をより促進する結果となっているのかもしれません。
(2020.11.15)