岡山県版レッドデータブック2020:絶滅危惧Ⅰ類
▲日当たりの良い山地草原に生育する多年草。7~9月にかけて、茎頂部の花序に小さな白色の頭花を密につける。 | ▲櫛の歯状に中~深裂する葉の様子を「ノコギリ」に例えた。春頃の葉は写真のように深裂する傾向が強いようだ。 |
ノコギリソウは、高さ0.5~1mほどになる多年草で、国内では北海道および本州の日当たりの良い山地草原に生育します。地中を横に伸びる根茎から叢生(株立ち)し、その名の通り、まるでノコギリのように櫛の歯状に細かく切れ込んだ葉を互生します。葉は長さ3~8cm、幅0.5~1cm程度で、葉柄はもたず、基部はやや茎を抱きます。葉の切れ込みは、時期や着く位置、生育状態によって幅があり、中裂程度のものもあれば、深裂するものもあります。同じ株であっても、春頃、茎が伸びていない時期に出る葉には深裂するものが多い傾向がありますが、花期の頃、茎の中部から上部に着く葉は切れ込みが浅くなり、まさにノコギリを思わせる形状となります。また、茎や葉など、全体に白色の絹毛を敷きます。
▲全体に白色の絹毛を敷く。茎の中~上部に着く葉は浅裂し、まさにノコギリのよう。葉は無柄でやや茎を抱く。 | ▲花期は7~9月。頭花は筒状の両性花の周囲に5~7個の白色の舌状花が囲むが、まばらな印象。 |
花は7~9月、茎頂部に密な散房状花序をつくり、多数の頭花が咲きます。頭花は直径1cm程度、中心部には筒状の両性花があり、舌状花は5~7個、白色で長さ3.5~4.5mm、両性花の周囲を囲むように着いていますが、野ギクの仲間のように整然と並ぶのではなく、間隔が不揃いで、まばらな印象があります。総苞は長楕円形、総苞内片は長さ約5mmで縁は膜質、外片は内片に比べて短く、長さ2.5mm程度です。植物図鑑には「総苞片は2列に並ぶ」とされていますが、当園で栽培している岡山県内産の個体の頭花を観察すると、総苞は覆瓦状に3列程度並んでいるように見えます。「ヤロウ」と呼ばれ、ハーブとして利用される外来種のセイヨウノコギリソウ A. millefolium は総苞片が3列とされていますが、セイヨウノコギリソウは葉が2~3回羽状複葉と、在来のノコギリソウよりも細かく裂けるのが特徴であり、当園で栽培しているものはそのようにはならず、総苞以外は在来のノコギリソウの特徴を備えています。総苞の数え方の問題という可能性もありますが、機会があれば、他地域産の標本の頭花なども観察して、確認する必要がありそうです。
▲総苞は白毛を散生し、内片は長楕円形で長さ約5mm、縁は膜質。外片は内片の半分程度の長さ。 | ▲そう果は冠毛を持たず、扁平な形状で長さ3~4mm程度。頭花は枯れた状態でも芳香が残る。 |
そう果は長さ3~4mmで扁平な形状をしており、他のキク科の植物によくあるような冠毛(タンポポなどの綿毛の部分)は持たず、秋~冬に植物体全体が枯れた状態になると、風で揺れた際に落下したり、茎ごと地面に倒れるなどして散布されると考えられ、広範囲には散布されないようです。頭花をつぶすようにして揉むと清涼感のある芳香がします。芳香は枯れた状態の頭花にも残っており、草食動物や昆虫の食害、カビなどから種子を守る役割を果たしているのではないかと思われます。
岡山県においては、「岡山県レッドデータブック2009」では、過去の標本は残っているものの、確実に自生する場所が把握されていない状態であり、「情報不足」との扱いになっていました。しかし、2011年に新見市内の私有地(定期的に草刈りによって管理されている草地)にわずかに生育しているのが確認されました。現在把握されている確実な自生地はこの1か所のみで、所有者の方が行っている草刈り管理が停止するなどして草地の状態が悪化すれば、本種も消滅することが確実であることから、「岡山県レッドデータブック2020」ではもっともランクの高い「絶滅危惧Ⅰ類」とされました。当園では、所有者の方の許可を得て、植物園ボランティアの方々と共に草刈りや落葉かきなどの管理作業のお手伝いを行っています。(2020.7.23)
▲ハーブとして利用されるセイヨウノコギリソウの園芸品種。在来のノコギリソウより葉の切れ込みが細かい。 | ▲岡山県下での確実な自生地は1か所のみ。当園では保護活動として自生地の管理作業の手伝いを行っている。 |