岡山県レッドデータブック(2009):絶滅危惧Ⅰ類
▲花の時期は地域によりやずれるが、岡山県では10月下旬~12月頃で、直径3~5cmの頭花をつける。 | ▲舌状花(左2つ、そう果部分がちぎれている)と頭状花(右3つ)。冠毛はまったくない。 |
ノジギクは兵庫県以西の瀬戸内沿岸、四国(愛媛県、高知県)、九州東~南部(太平洋側)の海岸沿いに分布する多年草です。高さは30~50cm程度で根茎を伸ばして増え、時に群生します。花期は生育する地域にもよりますが岡山県では10月下旬~12月頃で、分枝した茎の先に白色の舌状花を持つ直径3~5cmの頭花[小さな花(小花)が集まって一つの花のようになっている花]をつけます。小花にはまったく冠毛がなく、中心部分にある筒状花は上部が黄色、先端は5裂しています。なお、舌状花は雌しべのみの雌花、筒状花は雄しべと雌しべがある両性花です。舌状花は咲き始めは白色ですが、筒状花がすべて開花し終わる頃になると、淡紅色に花色が変化します。
葉は互生、長さ3~5cm、幅2~4cmで1.5~3cmの葉柄があります。葉の基部はやや心形(凹む)あるいは切形、3~5裂して、縁には鈍い鋸歯があります。葉は質厚く、表裏に白毛があり、裏面はやや毛が密生して緑白色となります。茎を含めて全体的に毛が多く、上部の茎は毛が密生して白く見えます。茎の下部は褐色で、やや木質になります。茎は倒伏しやすく、株元や茎の途中からよく芽吹きます。内陸部に生育するリュウノウギクにも似ていますが、葉の基部がリュウノウギクはくさび形~切形であること、ノジギクは頭花の総苞外片が内片より短く、瓦状に重なりますが、リュウノウギクは総苞片が線形で細く、外片と内片がほぼ同長になる点などで見分けができます。
▲葉は表裏に毛が生える。基部は浅い心形~切形。葉の切れ込み方には幅がある。 | ▲茎の上部は白毛が密生する。葉柄の付け根には托葉がある。 |
本種は漢字で表記すると「野路菊」で、山野の小路に生える野菊の意味です。しかし実際には海岸沿いが主な生育地で、内陸部に生育することはそれほど多くはありません。これは「牧野富太郎が仁淀川の河原で採集したものに最初に名前がつけられた。そのため海岸に生えるとは思われず『野路』の名前が冠された」(いがりまさし著.2007.山渓ハンディ図鑑11 日本の野菊.山と渓谷社.p.24)ためです。また、「瀬戸内海沿岸に分布する葉の質の薄いものをセトノジギクとして区別する見解もある」(いがりまさし著.2007.山渓ハンディ図鑑11 日本の野菊.山と渓谷社.p.25)とされますが、現在では区別せずにノジギクの中に含める場合がほとんどのようです。また、高知県の足摺岬から愛媛県の佐田岬にかけて分布する変種アシズリノジギク C. japonense var. ashizuriense はノジギクよりも葉が厚く、葉の縁が白い毛で縁取られているように見えるタイプですが、ノジギクとの違いは連続的で、必ずしも明確に区別できるとは限らないようです。
▲茎の下部は褐色でやや木質。茎の途中からも良く芽吹く。 | ▲総苞(萼にみえる部分)の外片は内片より短く、瓦状に重なる。 |
本種はこの仲間としては比較的分布域が広く、地域によっては海岸沿いで群生していることもあります。兵庫県では県花ともなっており、親しまれている野菊ですが、岡山県では産地はきわめて少なく、岡山県版レッドデータブック(2009)では絶滅危惧Ⅰ類とされています。特に、「岡山市では栽培キクとの交雑体と思われるものが採集されている。」(岡山県生活環境部自然環境課.2009.岡山県版レッドデータブック2009 絶滅のおそれのある野生生物 植物編.岡山県.p.203)とされ、交雑による遺伝子汚染によっても、絶滅が危惧されている状況です。当園では、温室東側の多目的スペース入口の前の倉庫の軒下に、四国(高知県)産のものを植栽しています。
(2017.12.16)
▲筒状花(両性花)がすべて開花を終える頃になると舌状花が淡紅色に変化する。 | ▲植物園に植栽されている高知県産のノジギク。岡山県の自生のものは絶滅が危惧されている。 |