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おかやまの植物事典

ナンテン (メギ科)  Nandina domestica

岡山県では特に県中部の石灰岩地で多く生育している。植栽からの逸出が多く、国内のものは自生かどうか疑問ともされる。 花は5~6月、幹上部の大型の円錐花序に直径6~7mmの白色花が多数咲く。 雄しべは6本、雌しべを取り囲むように着く。
▲岡山県では特に県中部の石灰岩地で多く生育している。植栽からの逸出が多く、国内のものは自生かどうか疑問ともされる。 ▲花は5~6月、幹上部の大型の円錐花序に直径6~7mmの白色花が多数咲く。 雄しべは6本、雌しべを取り囲むように着く。

 

ナンテンは関東地方以西の本州、四国、九州にかけての日当たりの良い山野に生育する高さ1~3mの常緑低木です。 国外では中国、インドに分布しています。 庭園樹として植栽されることが多い樹木であり、日本のものは中国から持ち込まれたものが逸出(逃げ出し)して分布を広げたもので、真の自生ではないとする意見もあります。 岡山県下でも、特に冷涼な中国山地や、少雨乾燥の県南部の花崗岩地帯など極端な条件の地域をのぞいて全域に生育していますが、特に新見・高梁市などの石灰岩台地(阿哲台地)で生育量が多い印象です。 新見市の一部地域では花卉としての栽培も行われています。

花は5~6月、幹上部から大型の円錐花序をだして、直径6~7mmの白色花を多数咲かせます。花被片は3枚づつ多数が輪になって付いていますが、最も内側の6枚が特に大型で、開花すると外側の花被片は脱落し、内側の6枚のみが残ります。 雄しべと雌しべはほぼ同長で5mm程度、雄しべは6本あって花糸(雄しべの軸)は短く、黄色の葯が雌しべを取り囲んでいます。 葉は大型で長さ30~50cmほど、ふつう3回3出複葉で幹の上部に集まって互生します。 小葉は全縁、質はやや硬く革質、長さ3~7cm、幅1~2.5cmで先の尖った披針形です。 幹は大抵の場合は直径1~3cm程度で細く、灰褐色で縦方向に溝があり、枯れた葉の跡が節のように残っています。

葉は幹上部に集まって互生し、ふつう3回3出複葉。 小葉は全縁、革質、長さ3~7cm、幅1~2.5cmで先の尖った披針形。 果実は直径6~7mmの液果で10~11月頃に赤く熟す。 写真は実付きが良くないが、良ければ枝がたわむほど鈴なりとなる。
▲葉は幹上部に集まって互生し、ふつう3回3出複葉。 小葉は全縁、革質、長さ3~7cm、幅1~2.5cmで先の尖った披針形。 ▲果実は直径6~7mmの液果で10~11月頃に赤く熟す。 写真は実付きが良くないが、良ければ枝がたわむほど鈴なりとなる。


果実は直径6~8mmの液果で10~11月頃に赤く熟します。 まれに果実が黄白色のものがあり、シロミナンテン N. domestica 'Shironanten' (栽培品種として扱う場合)/ N. domestica var. leucocarpa (変種として扱う場合)と呼ばれ、やはり庭園に植栽されます。 ネット上などではキミノナンテン(黄実の南天)という名も散見されますが、実が白と黄色の2品種があるわけではなく、シロミナンテンの果実が純白ではなく、黄色味がかった色であるため、赤い果実に対して、果実の色を「白」ととらえるか、「黄」ととらえるかの問題のようです。

果実内部には、直径5~7mmの半球形の白色の種子が1~2個入っています。 種子の片側はお椀のように凹んでいます。 面白いことに、種子が2つ入っている場合、種子は柑橘類の実の中の房(ふくろ)のように果柄がついている「へた」の部分と平行方向に並ぶのではなく、まるでお椀を二つ合わせたような格好で、果柄のついている方向とは垂直方向に入っています。 果実の中に種子が1個だけの場合も多く、その場合は種子は半球形ではなく、凹みが深くなり、球形に近い形状になっていることもあります。

果実が黄白色の品種もあり、シロミナンテンと呼ばれ、やはり庭園に植栽される。 キミノナンテンと呼ばれることもある。 種子は直径5~7mmほどの片側が凹んだ半球形。 果柄のつく方向とは垂直にお椀を二つ合わせたような格好で入っている。
▲果実が黄白色の品種もあり、シロミナンテンと呼ばれ、やはり庭園に植栽される。 キミノナンテンと呼ばれることもある。 ▲種子は直径5~7mmほどの片側が凹んだ半球形。 果柄のつく方向とは垂直にお椀を二つ合わせたような格好で入っている。

 

和名を漢字で書くと「南天」ですが、漢名(中国名)は「南天竹」で、「語源は藍田竹が訛って南天竹になったという。 節があるのが竹に似、実の色が碧なので、玉の名産地である藍田に因んで名づけられたという」(加納善光.2008.植物の漢字語源辞典.東京堂出版.p.383)とされます。 ただし、本種の実の色は「碧」(青緑)ではありませんので、「実の色が碧」というのは、同じく中国原産のメギ科の低木で、黒紫色の実をつけるヒイラギナンテン Berberis japonica やその近縁種のことではないかと思われます。 また、本種を記載したのは江戸時代に来日したスウェーデンの植物学者、カール・ツンベルク(トゥンベリ)で、属の学名 Nandina は「ナンテン」の和名に由来し、種小名 domestica は、庭園に良く植栽されることを意味しています。

樹皮は灰褐色、縦方向に溝がある。 漢名の「南天竹」は枯れた枝の跡が竹の節のように残ることに由来すると考えられる。 「難を転ずる」との語呂合わせから、家屋周辺に植栽される。 写真は倉敷市内で玄関脇のわずかな隙間に植栽されていた本種。
▲樹皮は灰褐色、縦方向に溝がある。 漢名の「南天竹」は枯れた枝の跡が竹の節のように残ることに由来すると考えられる。 ▲「難を転ずる」との語呂合わせから、家屋周辺に植栽される。 写真は倉敷市内で玄関脇のわずかな隙間に植栽されていた本種。

 

単に庭木としてだけでなく、和名の「なんてん」の音が「難を転ずる(転じて福となす)」に通じることから、縁起が良く、災難除けになると考えられ、庭園のほか、家屋の「鬼門」の方角や便所のそばなどに植栽されます。 果実など全草にアルカロイドを含む有毒植物ですが、果実は咳止めに、葉は煎じてうがい薬、入浴剤として用いるなど、伝統的に生薬(民間薬)としても使われたこともよく植えられる理由のひとつと考えられます。 前述したように有毒植物であり、用法や用量を誤ると中毒する危険がありますので、生薬として用いる場合は専門家の指導の下で用いてください。 また、しばしば赤飯や魚料理などに葉が添えられるのは、含まれる成分による防腐・殺菌効果を期待してのこととされますが、実際には葉を添えただけで効果があるかどうかは不明で、食あたりという「難」を転ずることを期待したおまじないに過ぎない、とも言われます。

 (2024.1.14)

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