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おかやまの植物事典

モウセンゴケ(モウセンゴケ科) Drosera rotundifolia

地際からロゼット状に葉を出す。葉身部分には消化酵素を含んだ粘液を持つ腺毛があり、小昆虫を捕まえて消化し、自らの養分とする。 花は岡山県下では6~8月の晴天の日の午前中、高さ15~20cmの花茎の先に白色の5弁花を開く。
▲地際からロゼット状に葉を出す。葉身部分には消化酵素を含んだ粘液を持つ腺毛があり、小昆虫を捕まえて消化し、自らの養分とする。 ▲花は岡山県下では6~8月の晴天の日の午前中、高さ15~20cmの花茎の先に白色の5弁花を開く。

 

モウセンゴケは北半球の温帯から亜寒帯にかけて広く分布し、日本では北海道から九州の湿地に生育する多年草です。気候には関係なく低地から高山にまで幅広く生育しており、岡山県でも県下全域の湿地に分布しています。葉は地際からロゼット状(放射状円形:タンポポの葉のような出方)に出て、2~10cm程度の長い柄があり、葉身部分は0.5~1cm程度のややゆがんだ卵型(倒卵状円形)で、ちょうど料理に使うお玉か、ひしゃくのような形をしています。葉は斜上(斜めに立ち上がる)する場合が多いのですが、乾燥しがちな場所など生育環境によっては小さく地面に張り付くような姿になることもあります。本種の花期は岡山県下では6~8月頃、高さ10~20cmほどの花茎を数本伸ばし、その先に直径1cmほどの白色の5弁花を咲かせますが、花は1つの花茎には1回に一輪しか開花せず、天気が良い日の午前中のみ開花し、しかも開花しているのは10時ごろから12時ごろまでの2時間程度で、午後になるとしぼみ始めてしまいます。ただ、蕾は下部から順番にいくつもありますので、1か月程度は咲き続けます。果実は蒴果で、1か月ほどで熟し、乾燥すると裂開して、内部の種子がこぼれて散布されます。なお、種子繁殖以外でも、葉が泥中に浅く埋まったような場合には、葉に不定芽を着けて栄養繁殖を行う場合があります。

本種の葉の葉身部分には粘液を持つ多数の腺毛が生えています。この粘液中にはタンパク質などを溶かす消化酵素が含まれており、粘液に捕えられた小昆虫などを消化・吸収して、自らの養分とするため、「食虫植物」として知られます。本種は積極的に獲物を捕まえるようなことはありませんが、粘液には昆虫を誘引する物質も含まれているそうで、昆虫の種類によっては「臭い」に引き寄せられるようです。昆虫が付着した場合にはやや葉が丸まって、腺毛が獲物を抱きこむように運動します。本種の葉はそれほど長く持つものではないようで、生育期には次々と新しい葉が展葉し、古い葉は順次枯れて腐って無くなってしまいます。秋に気温が低下してくると、新しい葉は展葉しなくなり、ロゼットの中央に越冬芽を形成します。この越冬芽は降霜や積雪下でも枯れることはなく、翌年暖かくなると休眠から目覚めて再び展葉します。越冬芽の形成はコモウセンゴケなど暖かい地域に分布する南方系のモウセンゴケ類には見られず、北半球の寒い地域に分布を広げた北方系のモウセンゴケ類の特徴です。

小石の上に付着した状態で生育する個体。乾燥しがちな環境では葉は小さくなり、地面に張り付くような姿で生育する。 光合成色素を持っており自ら光合成もする。草の陰などになった個体は、赤色が薄くなり、緑色の姿となる場合が多い。
▲小石の上に付着した状態で生育する個体。乾燥しがちな環境では葉は小さくなり、地面に張り付くような姿で生育する。 ▲光合成色素を持っており自ら光合成もする。草の陰などになった個体は、赤色が薄くなり、緑色の姿となる場合が多い。

 

本種の姿は全体が赤色を帯びることが多いため、植物としては異様な姿に感じますが、食虫植物とは言っても、昆虫を捕まえられなければ生きていけないわけではなく、光合成色素も持っていますので、光合成により自ら養分を合成もしています。その証拠に、草の根元など日当たりの悪い場所に生育する個体は赤色が薄れ、普通の植物のように緑色の個体が多くなります。本種の生育する環境は湿地の中でも大型の植物は生育できないような貧栄養な環境であるため、捕虫による養分は、獲得できれば生育が大いに助かる、いわば栄養補助食品か特別ボーナスのようなものと考えれば、理解しやすいかもしれません。面白いことに、いわば「食虫植物食虫」とでもいうのでしょうか、食虫植物であるモウセンゴケ類だけを食草とするモウセンゴケトリバ Buckleria paludum というガの1種も存在し、岡山県下でも県南部の湿地を中心に生息しています。モウセンゴケの若い果実ができたころに注意深く観察してみれば、幼虫を見つけることが出来るかも知れません。

秋になると、ロゼット中央に越冬芽を形成し、葉を枯らして休眠した状態で冬を越す。 本種の若い果実を摂食中のモウセンゴケトリバの幼虫。食虫植物であるモウセンゴケ類を専門に食べるガの1種である。
▲秋になると、ロゼット中央に越冬芽を形成し、葉を枯らして休眠した状態で冬を越す。 ▲本種の若い果実を摂食中のモウセンゴケトリバの幼虫。食虫植物であるモウセンゴケ類を専門に食べるガの1種である。

 

「モウセンゴケ」の名を漢字で表記すると「毛氈苔」で、「毛氈」とはいわゆるフェルト地の布のことです。この「毛氈」のうち、茶席などに敷物として敷かれる赤い毛氈を「緋毛氈」と言いますが、本種が湿地の地面に広がって生育する様子が緋毛氈を連想させること、また、コケ植物のように小さく地面に張り付いて生育する植物であることから、名がついたと言われます。「コケ」と名につくことから、本種をコケ植物の仲間と思われている方がおられますが、コケ植物は胞子によって増えますが、本種はバラやキクなどと同様、花が咲き種子を実らせる「種子植物」です。

岡山県内にはモウセンゴケ属の植物として他にイシモチソウ Drosera peltata 、モウセンゴケとコモウセンゴケの雑種起源とされるトウカイコモウセンゴケ Drosera tokaiensis が分布します。当園ではモウセンゴケが湿地エリアの湿地内部に自生しています。これ以外に、岡山県下では人為的に植えこまれたと考えられる外来の食虫植物が3科4属15種類も見つかっており、この中にモウセンゴケ属の植物が7種含まれています。なお、トウカイコモウセンゴケは当園のある倉敷市が本州における分布の東限となっていますが、越冬芽を作らず、降霜のある場所では生育できないため、倉敷市の北端地域に位置する当園では育成が難しいので、当園では自生地の湿地において外来食虫植物の駆除活動を行うなど、自生地での保全活動を行っています。

(2014.6.21)

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