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おかやまの植物事典

ミズトラノオ(シソ科)  Pogostemon yatabeanus

環境省レッドリスト2017:絶滅危惧Ⅱ類/岡山県レッドデータブック(2009):野生絶滅

日当たりのよい湿地・水田周辺に群生する多年草。秋、茎の先に淡紅色の花穂をつける。 花穂の形を、サクラソウ科のオカトラノオ同様、トラの尻尾に例えた。
▲日当たりのよい湿地・水田周辺に群生する多年草。秋、茎の先に淡紅色の花穂をつける。 ▲花穂の形を、サクラソウ科のオカトラノオ同様、トラの尻尾に例えた。

 

ミズトラノオは本州、四国、九州の日当たりが良い湿地や水田周辺に生育する多年草です。国外では朝鮮半島のほか、中国中~南部にも分布しています。8~10月頃にかけて茎の先に太さ1~1.5cm、長さ2~8cmほどの花穂をつけ、淡紅色の花を密に咲かせます。一個の花は非常に小さく、4裂した花冠は長さ3~4mm程度ですが、花冠から雄しべが長く突き出しているため、花全体は長さ7~8㎜程度です。雄しべの花糸(柄の部分)の中ほどには、花冠や花糸と同じ淡紅色の房状の毛が密に生えています。種子は直径1mmに満たない大きさで歪んだ球形、黒褐色に熟します。

泥中に“地下茎”を伸ばし、時に群生する、とされますが、高さ30~60cm程度になる茎は直立していますが、軟らかく容易に倒伏して節から発芽・発根します。地下茎とするよりは、単に「匍匐茎」と表現したほうが適切なように思います。茎の断面はシソ科の植物の多くと同じように四角形ですが、角の部分が凹んでいるため、少し「+」のような形状となっています。葉は長さ3~7cm、幅2~5mm程度の線形で先は尖り、葉柄はほとんどありません。葉は茎に輪生しますが、葉の数は茎ごとに3輪生~5輪生と幅があります。葉表面の主脈部分は凹んで裏面に隆起しています。

一つの花。濃紫色の部分が萼、淡紫色の膜状の部分が花冠。雄しべは花冠から突き出し、房状の毛がある。 種子は黒褐色で歪んだ球形。直径1mmに満たないサイズで非常に小さい。
▲一つの花。濃紫色の部分が萼、淡紫色の膜状の部分が花冠。雄しべは花冠から突き出し、房状の毛がある。 ▲種子は黒褐色で歪んだ球形。直径1㎜に満たないサイズで非常に小さい。

 

本種は自生地となる湿地の減少や除草剤の使用などによって、全国的に減少傾向にあり、環境省のレッドリスト2017では絶滅危惧Ⅱ類とされています。岡山県では、「戦前は全県下の山足の田間湿地に点々と自生していた」(大久保一治.1999.私の採集した岡山県自然植物目録 付 帰化植物・栽培植物 増補改訂版.357pp.岡山花の会)といいますが、現在では岡山県下の自生地はすべて消滅してしまったとされます。ただ、1982年8月に当園の古屋野寛 名誉園長が赤磐市(旧山陽町)にあった最後の自生地にて採取した株を当園で栽培していたため完全な「絶滅」は免れた形となり、産地の明らかな株が栽培下で残っているということで、岡山県レッドデータブック(2009)では、「野生絶滅」とされています。なお、その最後の自生地は、その後まもなく住宅地造成により埋め立てられ、消滅してしまったということです。その株を岡山県自然保護センター(和気町)に寄贈し、ため池の岸に植えたところ増えて大群生となり、毎年大変多くの花が咲いています。

茎は軟らかく、容易に倒伏する。倒伏した茎の節からは盛んに発根して増殖する。 茎の断面は他のシソ科の植物にも見られるように四角形だが、角が凹んでおり「+」形に見える。
▲茎は軟らかく、容易に倒伏する。倒伏した茎の節からは盛んに発根して増殖する。 ▲茎の断面は他のシソ科の植物にも見られるように四角形だが、角が凹んでおり「+」形に見える。

 

ちなみに岡山県には、本種と同属の植物で、「ミズネコノオ P. stellatus」という種も生育していたとされますが、これは古屋野寛 名誉園長によって1959(昭和34)年10月に現在の岡山市北区小山で撮影されたモノクロ写真が残っているのみで、岡山県レッドデータブック(2009)では、「絶滅」とされています。

和名は「水・虎の尾」の意味です。「水」は湿地の意味で、「虎の尾」はサクラソウ科のオカトラノオ(丘虎の尾)などと同様、太い花穂の様子をトラの尻尾に例えたものです。また、学名の種小名であるyatabeanus は、本種を最初に記載した牧野富太郎博士が東京大学の植物学教室の教授であった矢田部良吉博士の名を献名したものです。

(2017.9.23 改訂)

葉は先の尖った線形、3~5枚が茎に輪生する。主脈の部分は凹んでおり、葉裏面に隆起している。 岡山県からは絶滅した、本種と同属のミズネコノオ。1959年に岡山市で撮影されたこの写真が残るのみ。
▲葉は先の尖った線形、3~5枚が茎に輪生する。主脈の部分は凹んでおり、葉裏面に隆起している。 ▲岡山県からは絶滅した、本種と同属のミズネコノオ。1959年に岡山市で撮影されたこの写真が残るのみ。

 

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