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おかやまの植物事典

ミツガシワ(ミツガシワ科)  Menyanthes trifoliata

岡山県レッドデータブック(2009):準絶滅危惧

春、花茎上部の総状花序に白色花を多数咲かせる。花には花柱の長さの異なる2型の花がある。 花柱の短い短花柱花(左写真が長花柱花)。株によって咲く花のタイプが決まっている。短花柱花は結実しない。
▲春、花茎上部の総状花序に白色花を多数咲かせる。花には花柱の長さの異なる2型の花がある。 ▲花柱の短い短花柱花(左写真が長花柱花)。株によって咲く花のタイプが決まっている。短花柱花は結実しない。

 

ミツガシワは北海道、本州、九州の山地の水深の浅い池沼や湿地に生育する多年草です。国外では北半球の北極を取り囲むように広く分布しており、「周極分布」と呼ばれる分布をする植物の一種として知られるほか、氷河期に分布を広げた植物の生き残りという意味で、「氷河期の遺存植物」とも呼ばれます。花は春、高さ30cmほどの花茎の上部に総状花序を作り、直径1~1.5cmほどの白色の花を多数咲かせます。花期は植物図鑑には4~8月と書かれていますが、これは暖地にあるものは早く咲き、雪解けの遅い高標高地のものは遅く咲くためで、実際には花期は1月程度です。花は先が深く5裂し、裂片の内側には縮れた毛が生えています。株によって、花柱が長く雄しべの短い「長花柱花」と、逆に花柱が短く雄しべの長い「短花柱花」の異なるタイプの花が咲き、長花柱花のみが結実します(大橋広好・門田裕一ほか編.2017.改訂新版 日本の野生植物5.平凡社.p.195)。果実は蒴果で直径7mm程度、内部には扁平で円く光沢のある、橙~黄赤色の種子が数個入っています。

果実と種子。果実は蒴果(乾燥して裂けるタイプの果実)で、橙~黄赤色をした種子が数個入っている。 葉は3枚の小葉を持つ複葉(3出複葉)。小葉の形をブナ科の樹木の葉に例えたと説明されることが多いが…
▲果実と種子。果実は蒴果(乾燥して裂けるタイプの果実)で、橙~黄赤色をした種子が数個入っている。 ▲葉は3枚の小葉を持つ複葉(3出複葉)。小葉の形をブナ科の樹木の葉に例えたと説明されることが多いが…

 

本種は湿原のように常に湿っているような場所であれば、見た目、水がなくとも生育できますが、ほとんどの場合は竹のような節のある緑色の茎を水中に長く伸ばし、節々から根を出して広がる、抽水植物として生育します。葉は水底の茎から伸びた葉柄の先に長さ4~8cmほどの3小葉がつく、3出複葉です。

当園のミツガシワは、重井博 前創和会理事長(故人)が1980年頃に岡山県北部の蒜山地域(現・真庭市)の自生地にて採取し、移植したものです。国内では北日本の高層湿原などで比較的普通に見られる植物のため、寒冷な場所に生育するイメージが強い植物ですが、当園では意外なことに倉敷の夏の暑さにも負けずに旺盛に繁殖し、温室エリアにある池の半分以上を埋め尽くすほど繁茂しています。さすがに気温・水温の高くなる盛夏には葉を一旦枯らして休眠しますが、秋にはもう一度葉を出します。岡山県北部や北日本など冷涼な地域では夏に休眠を行うことはなく、冬を除いて通年展葉しています。

水上に見えている部分は葉(+葉柄)で、茎は水中に長く伸び、節から根を出す。 植物園の温室エリアの池に群生するミツガシワ。環境が整っていれば、決して弱い植物ではない。
▲水上に見えている部分は葉(+葉柄)で、茎は水中に長く伸び、節から根を出す。 ▲植物園の温室エリアの池に群生するミツガシワ。環境が整っていれば、決して弱い植物ではない。

 

本種は決して弱い植物ではないのですが、岡山県の中部~南部には、背の高い植物に覆われることがない、貧栄養かつ水位が浅く安定している、本種の生育に適した環境の池沼や湿地が少なく、自生地が元々県北部に限られていたことに加え、開発行為による湿地の消滅、周辺農地からの肥料成分の流入などによる富栄養化、周辺の植生の発達による湿地の乾燥化などによって自生地自体が減少しており、現在では県内の自生地は片手で数えられるほどになり、県のレッドデータブックでは準絶滅危惧種とされています。前述したように北日本では生育地、生育量ともに安定しているため、国(環境省)のレッドリストには挙げられていませんが、自生地が元々少ない西日本では、県レベルではレッドデータ種となっている場合が多いようです。

枚のカシワの葉からなる「三つ柏」紋が和名の由来と考えられる。(画像は「丸に三つ柏」紋)。(画像は 発光大王堂 http://hakko-daiodo.com/ のものを使用) 江戸時代後期に編纂された「草木図説」の「ミツガシハ」の項。三つ柏紋が名の由来との記述がある。(画像は国立国会図書館デジタルコレクション http://dl.ndl.go.jp/ より転載)
▲3枚のカシワの葉からなる「三つ柏」紋が和名の由来と考えられる。(画像は「丸に三つ柏」紋)。(画像は 発光大王堂 http://hakko-daiodo.com/ のものを使用) ▲江戸時代後期に編纂された「草木図説」の「ミツガシハ」の項。三つ柏紋が名の由来との記述がある。(画像は国立国会図書館デジタルコレクション http://dl.ndl.go.jp/ より転載)

 

和名は「三槲」あるいは「三柏」で、植物図鑑などでは「小葉の形がブナ科のカシワ、あるいはカシの葉に似ていて、3出複葉であることが名の由来である…」と解説されている場合が多いようです。しかし、カシワの葉には非常に大きな鋸歯(葉の縁のギザギザ)があり、本種の小葉とは似ても似つかない形で、本種の小葉を見てカシワの葉に似ているとするのはかなり無理があるように思えます。江戸時代後期に編纂された「草木図説」(前編20巻の4)には、「邦俗徽章ニ用ユルミツガシハに似タルを以テソノ名アリ。」と書かれており、3枚のカシワの葉を配した紋章の「三つ柏紋」が名の由来としています。この紋の3枚の葉の位置関係は、まさにミツガシワの葉とそっくりで、名の由来としては納得できるものです。小葉の形状が和名の由来とするのは誤りで、「三つ柏紋」こそが名の由来であると考えられます。

(2019.4.20改訂)

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