▲日当たりの良い荒地、草地などに生育する北米原産の外来植物。 舗装の間隙にも生育する。 岡山県下でもごく普通。 | ▲秋の野でワレモコウなどと混生している様子。 結実期には全体が赤褐色になり、花序の白色毛が目立つので、判別しやすい。 |
メリケンカルカヤは、本州(おおむね関東地方以西)、四国、九州、琉球の日当たりの良い荒地や草地、路傍などに生育する高さ1mほどになる多年草で、北アメリカ原産の外来植物(帰化植物)です。 1940年頃に京都府で採集されたのが日本における最初の記録とされ(清水建美編.2003.日本の帰化植物.平凡社.p.289)、西日本で特によく見られますが、現在も分布は拡大中で、宮城県など東北地方においても、だんだんと分布を北上させつつあることが報告されています(速水裕樹・藤本泰文・横山 潤.2019.宮城県栗原市における外来植物アレチヌスビトハギとメリケンカルカヤの初記録.伊豆沼・内沼研究報告13:27–32)。 国外でもアジアやオーストラリア、太平洋諸島など世界各地に帰化しているとされます(清水矩宏・森田弘彦・廣田伸七 編・著.2001.日本帰化植物写真図鑑.全国農村教育協会. p.421)。 なお、メリケンカルカヤ Andropogon 属の植物は、日本の在来種はなく、2024年現在、日本で知られている同属の植物は本種と、同じく帰化植物であるフトボメリケンカルカヤ A. glomeratus の2種のみです(2024年現在、フトボメリケンカルカヤは岡山県では記録なし)。
本種は乾燥地から湿潤地まで幅広い環境に生育しますが、特に酸性土壌に強く、土壌がほとんど発達しない岩場や鉱質土壌型の湧水湿地など、貧栄養な環境でも侵入・生育することから、環境省の「生態系被害防止外来種リスト」では「その他の総合対策外来種」とされています。 岡山県では、標高が高く冷涼な地域や石灰岩地帯では比較的生育が少ないものの、ほぼ県下全域でごく普通に生育しており、特に県南部では多く見られます。
▲花序は柄のみで結実しない有柄小穂と結実する無柄小穂がある。 花序軸などには白色長毛があり、風で広範囲に散布される。 | ▲葉や葉鞘の縁には白色の長毛が生える。 稈が伸びていない時期には、基部の断面の形状とともに判別ポイントとなる。 |
葉は幅3~6mm、長さ3~20cmほどの線形で、下部は中央脈で縦に2つ折りとなって折り重なるため、株元の断面は扁平(紡錘形)な形状になります。 秋までは稈(茎)は伸びず、9~10月頃、花期直前に急激に稈を伸長させます。 葉の下部の縁や葉鞘の縁(合わせ目)には白い長毛が生え、稈上部の葉は葉身が退化し、葉鞘が苞葉となって花序を包んでいます。 花序は稈の中~上部に花序が数本まとまったものが多数着きます。 花序の軸には白い長毛が密生し、節ごとに柄のみに退化して結実しない有柄小穂と、長さ1~2cmの長い芒を持ち結実する無柄小穂がセットになって連なっています。 結実期には綿毛となった小穂が苞葉の外に露出し、セットになった小穂ごとに風で飛散しますが、この小穂はかなり飛散能力が高く、広範囲に種子が散布されるようです。 本種は多年草であるため、株は分けつを繰り返してだんだんと大株となりますが、チガヤなどのように地下茎を伸ばして繁茂するようなことはなく、分布拡大は主に飛散する種子による部分が大きいようです。
結実期には植物体全体が赤褐色に色づき、花序の白い長毛が目立つため、稈が直立する特徴的な草姿もあって、あまり植物の見分けに慣れていない方でも容易に判別が可能な植物ですが、稈の伸長前の時期や、草刈りをされた後の状態では判別が難しくなります。 その場合は、株元の断面が扁平で紡錘形となること、葉や葉鞘の縁に白い長毛が多く生えていることが良い区別点となります。
▲株は分けつを繰り返して大株となるが、地下茎を伸ばして繁茂するようなことはなく、主に種子繁殖により分布を拡大する。 | ▲株元は2つに折れた葉が折り重なり、断面は扁平(紡錘形)となる。 稈が伸びていない時期の本種の良い判別点である。 |
和名は「メリケン(米利堅)・刈萱」で、「アメリカの(アメリカから帰化した)カルカヤ」の意味です。 属は異なりますが、「カルカヤ」の名を持つイネ科の在来種に、オガルカヤ Cymbopogon tortilis var. goeringii とメガルカヤ Themeda barbata があります。 「刈萱」とは「刈った草のことで、屋根葺のため刈り取る草の総称」(木村陽二郎 監修,植物文化研究会 編.2005.図説 花と樹の事典.柏書房.p.123)とされ、本来は特定の種を指すわけではないようですが、「ふつうメガルカヤをいう。」(木村.2005) とされ、出穂前の稈が直立した草姿がメガルカヤに似ていることから、和名が付けられたと思われます。 なお、メガルカヤは本種に比べて穂が大きく、花序は本種ほど目立つ毛もないため、出穂期以降は比較的容易に判別することができます。 また、学名の属名 Andropogon は ギリシャ語で「男性」を意味する andros と 「髭」を意味する pogon を組み合わせた名で、穂に白色の長毛が多い特徴から名付けられたものと思われます。 種小名 virginicus は、原産地域であるアメリカのバージニア州を意味しています(豊国秀夫 編.1987.植物学ラテン語辞典.至文堂.p.22,p.215)。
(2024.10.20)
▲休耕田に侵入し、一面に生育している様子。 乾燥地から湿潤地まで幅広い環境に生育可能である。 (2005年11月、岡山県岡山市) | ▲オガルカヤ(左)とメガルカヤ(右)の穂。 本種の出穂期前の草姿がメガルカヤに似ていることが和名の由来と考えられる。 |