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おかやまの植物事典

マツバウンラン (オオバコ科) Nuttallanthus canadensis

北アメリカ原産の外来植物。 春から初夏、直立した茎の上部にまばらに花をつける。 植物体のサイズは非常に幅がある。 花は直径1cm弱の淡紫色の仮面状唇形花。 上唇は2裂して直立、下唇は3裂しており、中央部は白色で隆起している。
▲北アメリカ原産の外来植物。 春から初夏、直立した茎の上部にまばらに花をつける。 植物体のサイズは非常に幅がある。 ▲花は直径1cm弱の淡紫色の仮面状唇形花。 上唇は2裂して直立、下唇は3裂しており、中央部は白色で隆起している。

 

マツバウンランは日当たりが良く乾燥気味の道ばた、荒れ地、芝生のような草丈の低い草地などに生育する、高さ10~60cmほどの外来の1年草あるいは越年草(秋~冬に芽生えて冬を越し、翌春~夏に開花・結実したのちに枯れるタイプ)で、「北アメリカ原産で、アジアや南アメリカの温帯に帰化している」(清水矩宏・森田弘彦・廣田伸七 編・著.2001.日本帰化植物写真図鑑.全国農村教育協会.p.292) とされ、日本では「関東地方以西から瀬戸内海沿岸に帰化している」(清水健美 編.2003.日本の帰化植物.平凡社.p.186)とされていますが、近年では、北海道から沖縄県まで分布をひろげつつあるようです(太刀掛優・中村慎吾 編.2007.改訂増補 帰化植物便覧.比婆科学教育振興会.p.341-342)。 岡山県においても、南部の瀬戸内沿岸部はもちろん、北部の中国山地まで、県下全域で見られる外来植物です。

花は4~6月頃、地際で分岐して直立した細い茎(以降「直立茎」と表記する)の上部に穂のような総状花序を作ってまばらに咲き、花序の下部から上部に咲き進みます。 花は淡紫色の仮面状の唇形花で、上唇は直立して2裂しています。 下唇は大きく3裂、中央部は白色で隆起しています。 花の基部からは長さ1.5~2mmほどの線形の細い距が弓なりに下方向に伸びています。 萼は深く5裂しており、長さ2~4mmの花柄があります。

花柄は2~4mmほど、萼は5裂。 花の基部には下方向に弓なりに伸びる長さ1.5~2mmほどの線形の距がある。 裂開した果実。 果実は蒴果、直径2mmほどの球形。 花期の間に速やかに熟して上部が裂開して種子を散布する。
▲花柄は2~4mmほど、萼は5裂。 花の基部には下方向に弓なりに伸びる長さ1.5~2mmほどの線形の距がある。 ▲裂開した果実。 果実は蒴果、直径2mmほどの球形。 花期の間に速やかに熟して上部が裂開して種子を散布する。

 

花後には直径2mmほどの球形の果実ができますが、果実は蒴果で花期の間に速やかに熟し、上部が裂開して種子を散布します。 種子は黒色~灰黒色で長さ0.5mmほどの角ばった短い楔形をしています。 小さな果実ですが、種子も非常に小さく、果実の中にぎっしりと詰まっているうえ、生育状況によっては高さ5cm程度でも開花・結実可能であるため、花期の間には非常に多数の種子が生産・散布されることになります。

葉は、地面に張り付くように広がった茎につくものは、長さ5~10mm程度でやや厚みがあり、対生または3~4枚が輪生してつき、ふつうは線形ですが、サイズの小さなものは丸くなり卵形になる場合もあります。 直立茎に着く葉は互生、 長さ1~3cm、幅1~2mmの線形で中央に1本の脈があります。

種子は黒色~灰黒色で、長さ0.5mmほどの短い楔形。 非常に小さく、果実の中に多数が詰まっている。 地面に張り付くように茎と葉を広げる。 葉は5~10mm程度で質厚く、対生または輪生、線形だが小さなものでは卵形。
▲種子は黒色~灰黒色で、長さ0.5mmほどの短い楔形。 非常に小さく、果実の中に多数が詰まっている。 ▲地面に張り付くように茎と葉を広げる。 葉は5~10mm程度で質厚く、対生または輪生、線形だが小さなものでは卵形。

 

当園では園内のあちこちに生育しており、花が咲いている時期には、見学者に紹介する場合もありますが、比較的小型の植物であり、どこかランの仲間の花を思わせるかわいらしい印象の花であるため、種子を持ち帰って庭で育てたい、と言われる方がしばしばおられます。 他の植物の間隙に生育する植物であるため、仮に庭に種子を蒔いたとしても、他の植物の生長を抑えてしまうようなことにはならないのですが、前述のように1シーズンで大量の種子を生産し、かなり小さなサイズでも開花・結実する植物であるため、一度定着すると根絶することはほぼ不可能です。 当園でも根絶することはあきらめていますが、放置すると、観察路わきなどが紫色に染まったように見えるほど増え、景観に影響するため、毎年地道に引き抜きをして個体数を抑制しています。 本種によく似ていて、花が一回り大きく、下唇の中央部の白い部分が目立たない(白地に紫の筋が入る)、オオマツバウンラン N. texanus も日本に帰化していますが、比較的まれで、本種ほど普通には見られません。

直立茎につく葉は互生し、 長さ1~3cm、幅1~2mmの線形で中央に1本の脈がある。 ウンラン Linaria japonica はおもに海浜に生育する在来種。 本種もかつてはウンラン属とされたが、現在は別属として独立。
▲直立茎につく葉は互生し、 長さ1~3cm、幅1~2mmの線形で中央に1本の脈がある。 ▲ウンラン Linaria japonica はおもに海浜に生育する在来種。 本種もかつてはウンラン属とされたが、現在は別属として独立。

 

和名を漢字表記すると「松葉・海蘭」で、葉がマツの葉のように細いウンランの意味ですが、本種の日本への本種の帰化を初めて報告した報告文(中井源.1949.新移住植物数種.植物分類,地理14:15)には、「草状マツバニンジンの様で…」と書かれており、正確には、本種の葉の様子がアマ科のマツバニンジン Linum stelleroides の葉に似ている、ということのようです。 「海蘭」は本種と同じオオバコ科の在来種で、海浜に生育することが多く、花がランを思わせるということでその名がついた、ウンラン Linaria japonica のことです。

以前は本種もウンランと共に、ゴマノハグサ科ウンラン属に分類されていましたが、DNAを用いた分子系統解析による再分類が進んだ結果、旧ウンラン属はオオバコ科 Plantaginaceae とされ、さらに本種はウンラン属からは独立し、マツバウンラン属とされています。 属の学名 Nuttallanthus の意味は、はっきりとは分かりませんが、「点頭の/うなだれた/うなづく」などの意味があるラテン語 nutant に、ギリシャ語で花を意味する anthos を組み合わせたものではないかと思われます(参考:豊国秀夫 編.1987.植物学ラテン語辞典.至文堂.p.134)

(2023.10.28)

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