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おかやまの植物事典

マルバノキ(マンサク科)  Disanthus cercidifolius

環境省レッドリスト2020:該当なし / 岡山県版レッドデータブック2020:絶滅危惧Ⅰ類

山地の林内や林縁の比較的日当たりが良い場所に生育する落葉低木。 マルバノキ属の植物は世界で2種1亜種のみである。 晩秋、葉の紅葉とほぼ同時に紅色の花を咲かせる。 果実は翌年の秋に熟すため、紅葉と花と果実が同時に見られることも。
▲山地の林内や林縁の比較的日当たりが良い場所に生育する落葉低木。 マルバノキ属の植物は世界で2種1亜種のみである。 ▲晩秋、葉の紅葉とほぼ同時に紅色の花を咲かせる。 果実は翌年の秋に熟すため、紅葉と花と果実が同時に見られることも。

 
マルバノキは、中部地方以西の本州および四国の山地の比較的日当たりが良い森林の林内または林縁に生育する、高さ4mほどになるマンサク科の落葉低木(まれに亜高木)です。 早春に黄色の花を咲かせるマンサク Hamamelis japonica やアテツマンサク H. japonica var. bitchuensis と同じマンサク科ではありますが、属は異なり、マルバノキ Disanthus 属とされています。 マルバノキ属の植物は世界的に見ても極めて種類が少なく、日本のマルバノキの他には中国大陸に1亜種(変種とする見解もある) subsp. longipes が知られるのみでしたが、2017年にベトナム北西部において新種 D. ovatifolius が記載され、現在は世界で2種となっています。
 (LEONID V. AVERYANOV, PETER K. ENDRESS, BUI HONG QUANG, KHANG SINH NGUYEN, DZU VAN NGUYEN. 2017. Disanthus ovatifolius (Hamamelidaceae), a new species from northwestern Vietnam. Phytotaxa 308 (1): 104–110)

本種は環境省のレッドリストには入っていませんが、国内の分布域でもそれほど生育は多くないようで、府県のレッドデータブック/レッドリストでは絶滅危惧種とされている場合が多いようです。 中国地方では岡山県および広島県に局所的に分布していますが、岡山県における自生地は県北部のわずか1か所のみで、岡山県版レッドデータブック2020では「絶滅危惧Ⅰ類」とされているほか、業者やマニアによる採取、生育地の森林の状態の変化などにより絶滅が危惧される状況であることから、2004年には「岡山県希少野生動植物保護条例」の指定動植物種とされ、野生個体の種子等を含む採取・損傷が禁じられています。 早春に花が咲くものが多いマンサク科の樹木の中では珍しく、晩秋に濃い赤色の花を咲かせ、美しい紅葉と花をほぼ同時に楽しむことができることもあり、庭園などにもにしばしば植栽され、花材などとしても用いられるため、野生個体に出会うよりは、植栽されたものなどを見る機会のほうが多いかもしれません。

蕾は短い枝の先に2個ついており、まるで「打ち出の小づち」のような姿である。 写真左上の蕾は開花を始めている。 花は2個が背中合わせに咲く。 花弁は紅紫色で5枚、星かヒトデのような形状。 雄しべの葯も紅紫色。 (写真撮影:古屋野 寛)
▲蕾は短い枝の先に2個ついており、まるで「打ち出の小づち」のような姿である。 写真左上の蕾は開花を始めている。 ▲花は2個が背中合わせに咲く。 花弁は紅紫色で5枚、星かヒトデのような形状。 雄しべの葯も紅紫色。 (写真撮影:古屋野 寛)

花期は10~11月頃で、蕾は1つの花芽から伸びた短い枝の先に2個が付いており、まるで「打出の小づち」のような形をしています。 花は2つの花が同時にぴったりと背中合わせに咲き、径1.5~2cmほど、花弁は紅紫色で5枚、先が細く尖った線状披針形をしており、まるで星かヒトデのようです。 美しい花ですが、匂いは強くはありませんが、ドクダミの臭いとも例えられ、あまり良いとはいえません。 花後には径1.5cmほどの蒴果ができ、翌年の秋に熟します。 種子は光沢のある黒色で、長さ4~6mmで、不規則に角張った紡錘形をしています。 葉は枝に互生し、葉身は長さ・幅ともに5~11cmほどの円心形(ハート形)で全縁、3~7cmほどの葉柄があって秋には鮮やかな紅色に紅葉します。 葉裏は夏期には緑白色ですが、紅葉の時期にはよりはっきりと白くなります。 樹皮は灰褐色、縦方向のしわがあって丸い皮目が散在します。

マルバノキ(上4個)とアテツマンサク(下2個)の種子。 本種の種子はマンサク類より一回り小さく、不規則に角ばった紡錘形。 葉は互生、丸いハート型をしていることから「丸葉の木」との和名がついたとされる。 種小名は葉がハナズオウに似ていることから。
▲マルバノキ(上4個)とアテツマンサク(下2個)の種子。 本種の種子はマンサク類より一回り小さく、不規則に角ばった紡錘形。 ▲葉は互生、丸いハート型をしていることから「丸葉の木」との和名がついたとされる。 種小名は葉がハナズオウに似ていることから。

和名は「丸葉の木」で、その名のとおり、葉が丸い形状をしていることを意味しています。 「ベニマンサク(紅万作)との別名もあり、これは黄色の花が咲くマンサクに対して、紅色の花が咲くことに由来すると考えられますが、秋に美しく紅葉することも含めて、全体が「紅」であることを意味しているのかも知れません。 漢名(中国名)は「双花木」、 属の学名の Disanthus も「分離」を意味する接頭辞「dis」(田中秀央 編.1952.羅和辞典.研究社.p.195)と「花/花の」を意味する「antho」というギリシャ語(豊国秀夫 編.1987.植物学ラテン語辞典.至文堂.p.23)の組み合わせで、2輪の花が背中合わせに咲く本属の特徴を表しています。 種小名の cercidifolius は、本種とよく似たハート型の葉を持つマメ科の樹木、ハナズオウ Cercis chinensis の属名 Cercis と「葉」を意味する folium を組み合わせたもので、「ハナズオウのような葉」を意味します(豊国.1987.p.46,84)

葉裏は夏期には緑白色だが、紅葉の時期にはよりはっきりと白くなる。 葉表の濃い紅色とは対照的である。 樹皮は灰褐色、縦方向のしわがあって丸い皮目が散在する。
▲葉裏は夏期には緑白色だが、紅葉の時期にはよりはっきりと白くなる。 葉表の濃い紅色とは対照的である。 ▲葉樹皮は灰褐色、縦方向のしわがあって丸い皮目が散在する。

当園では、栽培品由来の株を温室エリアに植栽していましたが、2012年ごろに夏期の暑さと乾燥のため、枯死してしまいました。 幸いなことに、2012年に岡山県の自生地由来の個体(自生地が発見された当時に採取されたもの)を栽培されていた方から枝を寄贈して頂き、現在はその枝を挿木した株を湿地エリアの湿地わきに植栽しています。 現在は高さ2mほどに成長し、秋になると多くの花とともに美しい紅葉を見せてくれていますが、なぜか結実はまだ確認できていません。 1個体だけでは結実しにくい性質があるのか、この花に訪花する種類の昆虫が当園に少ないのか、観察を続けていきたいと考えています。

(2024.12.7 改訂)

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