環境省レッドリスト(2007):該当なし / 岡山県レッドデータブック(2009):絶滅危惧Ⅱ類
▲マルバコウツギの花。花は直径7~10㎜ほど、ウツギより小型で花弁は平開する。 | ▲葉と枝は対生。6~7月頃、枝先に円すい状の花序をつける。 |
マルバコウツギは直立した場合は高さ2mほどになる日本固有種の落葉低木です。葉は対生し、長さ3~6㎝の卵型~やや狭い卵型となります。葉の表面には開出する星状毛があり、葉を触ると、他のウツギ類には見られないややビロード上の毛の感触があります。裏面にも星状毛が密生しますが、脈上の毛をのぞいて開出はしません。花は6月中旬~7月上旬頃、直径7~10㎜程度の白色の花が多数、枝先に円すい状の花序を作って咲きます。同じ属のウツギやヒメウツギは一方向に偏って花が着きますが、マルバコウツギは全方向に花が着き、花弁もほぼ平開します。また、花序に近い葉は葉柄がほとんどなく、茎を抱いているように見えます。マルバコウツギの名前の由来は、「マルバウツギに似ているコウツギ」の意味であろうと思われます。
「○○ウツギ」と呼ばれる植物には、アジサイ科(ユキノシタ科)、スイカズラ科、バラ科などの植物がありますが、マルバコウツギは、「卯の花」と呼ばれる「ウツギ」と同じアジサイ科ウツギ属の落葉低木です。ウツギ属の植物は最新の植物図鑑以外では、ほとんどの場合は「ユキノシタ科」となっていますが、近年の遺伝子情報を用いた研究の結果、ユキノシタ科とは異なるグループとして扱うことが適当であるということで、ユキノシタ科から独立し、アジサイ科として扱われるようになっています。
▲葉はウツギより小型、葉の表面の星状毛は立ち上がって、触るとややビロード状の感触がある。 | ▲花序直下の枝には葉柄がほとんどない。写真は九州の自生地のもの。枝に開出毛が密生している |
ウツギ属の植物の中でも、マルバコウツギはあまり知られていない種です。というのも、本種は国内においては九州(熊本、宮崎、大分)、本州に分布しますが、本州では現在のところ、岡山県真庭市のただ1ヶ所に自生が知られるのみです。しかも、九州産のものと岡山産のものでは染色体数が異なっており(岡山県産:2n=78、九州産:2n=52)、岡山県のマルバコウツギは大変貴重なものであると言えます。マルバコウツギについては詳しい特徴が記載された植物図鑑はほとんどありませんが、以下のような点で他の仲間と区別することができます。
なお、岡山県にはウツギ属の植物として本種の他にウツギ、ヒメウツギ、ウラジロウツギ、マルバウツギが分布しており、本種と迷いやすいコウツギは岡山県下には自生は知られていません。九州の本種の分布地にはコウツギが見られますが、マルバコウツギが谷沿いの崖などで垂れ下がるような姿で生育するのに対し、コウツギは谷から登った尾根部あたりで見られることが多いようです。
▲九州では、谷部の崖などに垂れ下がるようにして生育することが多い。(2012年7月、大分県にて撮影) | ▲花糸の肩の突起は不明瞭である。写真は当園に植栽してある個体のもの。長いものと短いものの差がはっきりしている。 |
当園に植栽されている本種とコウツギの花を比較観察してみますと、これらの雄しべは普通、雄しべの軸(花糸)の長いもの5本、短いもの5本の計10本ありますが、コウツギは短い雄しべが長い雄しべよりやや短い程度なのに対し、当園のマルバコウツギは長さの違いがはっきりしているといった違いが認められます。しかし、九州の自生地の個体の花では、当園の個体のようなはっきりした長さの違いは認められませんでした。また、九州産のものは花序のついた枝に開出毛が密生するものが良く見られますが、岡山県産のものは開出せず、星状毛となっているものが多いなどの違いが観察されます。これらの違いが単に乾燥や日当たりなど生育環境の違いがもたらしたものなのか、当園の個体のみの特徴なのか、産地の違いによるものなのか、いずれ確かめてみたいと思っています。
当園では、岡山産のマルバコウツギを温室エリアの隅に九州産のコウツギと並べて植栽しており、両者の微妙な違いをその場で比較して観察ができるようにしております。すぐ近くにマルバウツギも植栽しており、3種を同時に観察できる施設は全国でも数少ないと思われます。
(2013.6.29 改訂)