▲初冬に実る赤い果実が美しいこともあり、庭園や公園、また街路樹としても植栽される。 岡山市の市木ともされている。 | ▲雌花の花弁は2mmほどで白~淡紫色。 中央の緑の部分が子房と柱頭(花柱はない)。 雄しべは退化しており花粉は出さない。 |
クロガネモチは、本州の関東地方・福井県以西、四国、九州、沖縄の暖地の山野に生育する高さ10mほどになる常緑高木で、大きくなると高さ20mにも達するとされます。 国外では朝鮮半島南部から台湾、中国中南部、ベトナムに分布しています。 庭園樹や公園樹として植栽されることも多い樹木で、岡山県でも自然分布はほぼ県南部ですが、自然分布域以外でも、公園や庭木などとして植栽されたものにしばしば出会います。 特に岡山市では本種を市木としており、岡山市内には地方名の「あくら」を冠した「あくら通り」という道路に街路樹として本種が植栽されており、親しまれています。 ただし、雌雄異株の樹木であり、植えられる場合は、秋から冬に実る赤色の果実を楽しめるように、雌株が植栽される場合が多いようです。
花は6月頃に当年枝の葉腋に多数の散形花序をつけ、2~7個の花を咲かせます。 雌株の花(雌花)は長さ2mmほどの白~淡紫色で長楕円形をした花弁が5~6枚ほどあって平開~斜め下に反り返るように咲きます。 花の中央には柱頭が直接ついた(花柱の部分がない)、淡緑色の丸い子房があって、それを赤紫色の軸の雄しべが取り囲んでいますが、雄しべは退化しており、花粉は出しません。 雄株の花(雄花)は、雌花とは逆に花中央の雌しべが痕跡状に退化して小さくなっています。 雄花の花弁は長さ1.5mm程度と雌花よりもやや短く、雌花の花弁が平開~斜め下に反り返る程度なのに対して、花柄に接するぐらいにまで下方に強く反り返ります。 また、花弁は雌花と同じく白~淡紫色ですが、裂開前の葯は濃い赤紫色をしています。
▲雄花の花弁は1.5mmほどで雌花よりも下方に強く反り返る。 雌しべは退化して痕跡状。 | ▲開花を始めたばかりの雄花。 裂開前の葯は雌花の雄しべの軸と同様に花弁よりも色が濃く、赤紫色。 |
果実は長さ約6mmの楕円状球形で、11~12月頃に光沢のある赤色に熟します。 果実は核果(種子に見えるのは内果皮の変化したもの(核)で本当の種子はその中にある)で、赤い実の中には「核」が4~6個ほど入っています。 核は長さ5mmほどの三角状長楕円形をしており、背面に縦に2稜があります。
葉は互生、長さ6~10cm、幅3~4cmほどの楕円形で革質、全縁(葉の縁に鋸歯(ギザギザ)がない)、両面無毛で、特に表面には光沢があり、葉先、基部ともに尖っています。 また、当年枝と葉柄は黒紫色を帯びています。 樹皮は灰白色で、細かな皮目がありますが、概ねなめらかで、しばしば横方向にしわが入ったり、こぶ状に膨らんだりすることがあります。 また、萌芽性が大変強い樹木で、幹が切られたり、強く剪定されたりした場合には幹の途中からでも盛んに萌芽枝を出すことがあります。
▲果実の中には長さ5mmほど三角状長楕円形の「核」が4~6個ほど入っている。 | ▲葉は互生、両面無毛で表面には光沢がある。 当年枝、葉柄は黒紫色を帯びており、これを「黒鉄色」としたのが和名の由来。 |
和名を漢字表記すると、「黒鉄・黐」で、「黐」は「もち」と読みますが、お米の「餅」のことではなく、昔、鳥などを捕獲するのに使用した「鳥もち」のことで、モチノキの仲間の樹皮から鳥もちを採取したことに由来します(現在は鳥もち猟は鳥獣保護法によって禁止されています)。 また、「黒鉄(くろがね)」とは、本種の当年枝や葉柄が黒紫色を帯びている様子が、黒味を帯びた鉄器(鋳物)のような「黒鉄色」を連想させることから名付けられたとされます。 中国でも、本種は「鐵・冬青」と表記し、「鐵=鉄」、「冬青=モチノキの仲間(狭義にはナナミノキ I. chinensis )」ですので、やはり、枝や葉柄の色を鉄の色に例えた名のようです。 なお、学名の種小名 rotunda は「円形の、丸くなった」の意味で、本種の葉がモチノキそのものの葉より幅広く円に近い形状であることを指したもののようです。
岡山県、特に岡山市など県南部の地域では、本種は「あくら」という地方名(方言)で呼ばれ、前述したように岡山市の市木として親しまれており、1735(享保20)年から1736(元文元)年に編纂された「備前国備中国之内領内産物帳絵図帳」にも「あくら」の名で収録されています。 ただ、「方言のアクラの意味がはっきりしない。」(西原礼之助・古屋野寛 著.1981.岡山文庫100 岡山の樹木.日本文教出版.p.99)とされ、「あくら」の由来については不明とされています。 推測に過ぎませんが、岡山市南区には飽浦(あくら)という地名がありますが、この周辺の地域に多く生えていたので「あくら(に多い)の木」とされたのではとも考えられます。 もっとも、浅口市寄島町にも安倉(あくら)という地名があり、どちらも瀬戸内海にほど近い地域で、常緑広葉樹の林があれば本種が多く生えていてもおかしくない地域ですので、地名由来の可能性が高いとしても、どちらが元、ということを突き止めるのは難しいでしょうから、やはり「あくらの由来ははっきりしない」ということになりそうです。
(2023.6.11)
▲樹皮は灰白色、細かい皮目があるが、概ねなめらか。萌芽性が強く、強剪定にもよく耐える。 | ▲モチノキ I. integra 。果実は直径1cmと本種より大きい。 モチノキの仲間の樹皮からは鳥もち(黐)が採れることが和名の由来。 |