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おかやまの植物事典

コシダ(ウラジロ科) Dicranopteris linearis

当園からほど近い、倉敷市内の山地の南向き斜面で繁茂する本種。 瀬戸内沿岸地域では最も普通に見られるシダ植物。 地上部分はすべて葉。中軸は分岐を繰り返して伸長し、分岐基部につく副枝と先端の中軸枝は葉状。 羽片の裏面は粉白色。
▲当園からほど近い、倉敷市内の山地の南向き斜面で繁茂する本種。 瀬戸内沿岸地域では最も普通に見られるシダ植物。 ▲地上部分はすべて葉。中軸は分岐を繰り返して伸長し、分岐基部につく副枝と先端の中軸枝は葉状。 羽片の裏面は粉白色。

コシダは、山地の日当たりが良く、乾燥気味の場所に生育する常緑の多年生シダ植物です。 日本では新潟県・福島県以南の本州、四国、九州から南西諸島にかけて広く分布しています。 もっとも、西日本では普通種ですが、分布北限にあたる新潟県、福島県と、埼玉県、東京都のレッドデータブック/リストでは絶滅危惧種(福島県は準絶滅危惧)とされています。 国外では朝鮮半島南部、中国南部、台湾から東南アジア、インド、オセアニア、オーストラリアまで広く分布します。 コシダ属の植物は世界に12種が知られますが、日本に分布しているのは本種1種のみです(海老原淳 著.2016.日本産シダ植物標準図鑑Ⅰ.学研.p.328)。 岡山県でも全域で見られますが、特に県中部から南部にかけては、スギナ Equisetum arvense 、ワラビ Pteridium aquilinum subsp. japonicum などと並んで、もっとも普通に見られるシダ植物のひとつです。 当園のある倉敷市など瀬戸内沿岸地域では特に多く、日照や水分条件によっては、山の斜面を覆いつくすほど繁茂している場合もあります。 同じ科のウラジロ Diplopterygium glaucum と同所的に生育していることもありますが、本種のほうがやや乾燥に強いようで、多くの場所ではウラジロよりもより広い範囲に生育しています。

根茎は細く、地表近くの地中を長く伸びて広がります。 ウラジロ同様、地上に見えているのはすべて葉で、茎に見えるのは葉柄、葉柄に見えるのは葉の軸(中軸)です。 葉柄や中軸は黄緑色から赤褐色をしています。

分岐した葉軸の基部には葉状の副枝と、赤褐色の毛に覆われた休止芽がある。 毎春、休止芽から新たな葉軸が伸長する。 掘り上げた根茎の様子。 地表近くの地中を長く伸びている。 右側が伸長方向。 左端の葉は枯れていて、右側の葉ほど若い。
▲分岐した葉軸の基部には葉状の副枝と、赤褐色の毛に覆われた休止芽がある。 毎春、休止芽から新たな葉軸が伸長する。 ▲掘り上げた根茎の様子。 地表近くの地中を長く伸びている。 右側が伸長方向。 左端の葉は枯れていて、右側の葉ほど若い。

葉は普通高さ20~50cm程度ですが、1m程度になることもあります。 中軸が分岐しないウラジロに対して、本種は中軸が分岐を繰り返して伸長し、中軸の分岐基部につく副枝と先端の中軸は葉状になっています。 葉状になっている部分は長楕円状披針形で、幅3~4mmのクシの歯状に深裂しています。 裂片は革質で光沢があって全縁、先端は鈍頭あるいは少し凹んでおり、裏面はウラジロ同様に粉白色をしています。 分岐した葉軸の基部には赤褐色の毛に覆われた休止芽と呼ばれる芽があり、毎春、この芽から新たな葉軸が伸長することで、理論上は無限に成長ができる仕組みになっていますが、何年も伸長を繰り返して長大な葉となるウラジロとは異なり、本種の葉の場合は3~4年程度で伸長が止まり、やがて枯れることが多いようです(1枚の葉が枯れるだけで、株全体が枯れるということではありません)。

胞子嚢群(ソーラス)は、6~7月頃に、裂片裏面の中肋から出ている細脈に沿うように斜めに1~4個が並んで付きます。 包膜(胞子嚢群を覆う薄い膜)はありません。 葉状になった軸と裂片の中肋などには、赤褐色の星状毛があるほか、前述の休止芽、地下の根茎、葉柄、中軸にも赤褐色の毛がありますが、葉柄や中軸の毛は脱落しやすく、それぞれの基部付近をのぞいて無毛となっている場合も多いようです。 また、ウラジロは根茎や葉に毛と鱗片がありますが、コシダの根茎や葉には毛のみで鱗片はありません。

根茎は細く、葉柄基部と同程度の太さの場合も。 根茎だけでなく葉柄基部にも赤褐色の毛が生えているが、鱗片はない。 胞子嚢群(ソーラス)は6~7月頃、裂片のふちと中肋の間に着く。 包膜はない。 羽片の軸や中肋には星状毛がみられる。
▲根茎は細く、葉柄基部と同程度の太さの場合も。 根茎だけでなく葉柄基部にも赤褐色の毛が生えているが、鱗片はない。 ▲胞子嚢群(ソーラス)は6~7月頃、裂片のふちと中肋の間に着く。 包膜はない。 羽片の軸や中肋には星状毛がみられる。

和名を漢字表記すると「小・羊歯」で、ウラジロを単に「シダ」として、本種はウラジロと比較して小型であることを意味します。 属の学名 Dicranopteris は、「熊手」を意味するギリシャ語 dicranos に、同じくギリシャ語で「シダ植物」を意味する pteris を組み合わせた名で、葉柄の伸長方向に対して羽片が90度に出る葉全体の様子を熊手に例えた、あるいは細かく深裂した裂片の様子を熊手(レーキ)の歯に例えたもののようです。 種小名 linearis は、「線の」という意味で、葉柄や葉軸が直線的に伸びることを示していると思われます。

本種は中国では「芒萁」(萁=豆がらのこと)と呼ばれ、根茎が解毒や止血の生薬として利用されているようですが、日本では生薬としての利用はほとんどないようです。 ただし、葉柄は丈夫で弾力がありまっすぐに伸びるため、国内だけでなく、国外の分布地も含めた広い地域でかごなどを編む素材として伝統的に利用されています。

(2025.1.18)

 

正月飾りに使われるウラジロ。 科は同じだが、本種とは別属。 本種よりも大型になるこちらが「小」でないほうの「シダ」。 葉柄はかごなどの工芸品の材料として使われる。 写真は種は不明だが、本種に近縁と思われるシダ植物で編まれたかご。
▲正月飾りに使われるウラジロ。 科は同じだが、本種とは別属。 本種よりも大型になるこちらが「小」でないほうの「シダ」。 ▲葉柄はかごなどの工芸品の材料として使われる。 写真は種は不明だが、本種に近縁と思われるシダ植物で編まれたかご。

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