環境省レッドリスト(2007):絶滅危惧Ⅱ類
▲秋の七草のひとつ「あさがほ」であるとされるが、7月頃から青紫色の釣り鐘型の花を咲かせる。 | ▲まず雄しべが花粉を出し(左写真)、その後雌しべが成熟して花柱の先が5裂した状態になる。 |
キキョウは、日本全国の日当たりのよい草原に生育する高さ0.5~1mほどになる多年草です。葉は縁に鋭い鋸歯(ぎざぎざ)のある長卵形または広披針形で、葉柄がほとんどなく互生(互い違いに茎に付く)しますが、生育環境などによっては輪生(同じ場所に数枚の葉が輪になって付く)状となることがあります。特に茎の下部の葉は幅がかなり広くなることがあり、葉だけを比較すると、同じ植物とは思えないかもしれません。葉の裏はやや白色を帯びます。また、根は白色をしており、年々養分を蓄積して太くなります。「桔梗根」の名で日本薬局方に記載されている生薬でもあります。山菜として食用とされることもありますが、本種は全草にキキョウサポニンなどの毒成分を含む有毒植物であり、入念に水にさらして毒抜きをしたうえでないと、中毒を起こすこともあり、注意が必要です。専門家の指導を受けたうえで利用されることをお勧めします。
▲蕾は風船のようにふくらんだ姿をしており、英語では balloon flower という。 | ▲葉は輪生したり、幅広くなることもある。葉裏はやや白色を帯びる。葉縁には鋭い鋸歯がある。 |
本種は万葉集に収められている山上憶良の秋の七草の歌に詠まれた植物のうち、「あさがほ(朝貌)」であるとされており、秋の花のイメージがありますが、花期は7~9月であり、現代の季節感覚(万葉集の時代と現代では季節の捉え方が異なる)では夏から秋にかけて咲く花です。花は茎や枝の先に付き、青紫色で先が5裂した釣鐘型です。花の花柱(雌しべ)は開花直後はまだ未熟で、5本の雄しべが取り囲んだ形になっています。雄しべは花粉を出し終わると開き、その後花柱が成熟し、先が5裂します。また、蕾はまるで紙風船のようにふくらんでおり、英語ではballoon flower と言います。花後にできる果実は直径0.7~1㎝ほどの大きさで、晩秋に熟します。内部には多数の黒い種子が詰まっており、果実は乾燥すると先が裂けて開き、風などで茎が揺れた際に、種子がこぼれ落ちて散布されます。散布直後の種子はまだ休眠状態にあり、発芽しにくいのですが、一定期間、低温条件にさらされると休眠が解除され、発芽するようになります。
▲果実は乾燥すると先が開き、風などで茎が揺れた時に種子がこぼれ落ちる。 | ▲種子は黒色で、ちょうどゴマ粒ぐらいの大きさ。冬の低温にさらされることで種子の休眠が解除される。 |
本種は「秋の七草」のうち、「あさがほ(朝貌)」であると紹介されることが多いのですが、実は万葉集で「あさがほ」とされる花には諸説あり、ヒルガオ説、現在のアサガオ説、樹木のムクゲ説などもあります。ただし、現在の「アサガオ」は、中国から奈良時代に薬用として渡来した植物であり、ムクゲもまた中国から渡来した園芸樹であることから、どちらも山上憶良が「秋の野に咲きたる花を指折りてかき数ふれば七種の花」と詠んだように、「野の花」とは言えない事、ヒルガオは秋というより夏(現在の5~7月頃)の花であることなどから、今日では、「あさがほ=キキョウ」説が主流となっています。また、「キキョウ」の名は漢名の「桔梗(きちきょう)」が変化したものとされます。
かつては田の畦など、全国で当たり前に見られた花でしたが、現在では、生育地となる草地の減少とともに激減しており、環境省のレッドデータブック2014では絶滅危惧Ⅱ類とされています。岡山県においては、まだキキョウが生育する草地が比較的多く残っているということで、岡山県レッドデータブック2009には記載されていません。とはいえ、岡山県においても草地の減少は著しく、決して安心していられる状況ではないと言えるでしょう。
(2015.11.22)
▲根は白色で太い。「桔梗根」として薬用に用いられるが、サポニンなどの毒成分を含み、注意が必要。 | ▲ため池の岸に咲き乱れるキキョウ。かつては草原を代表する花だったが、草原とともに姿を消しつつある。 |