▲「吉備・白・タンポポ」の名の通り、3~5月頃にかけて、吉備高原地域のあちこちで白い花を咲かせる。 | ▲里地の路傍の草地、田畑のあぜなど、定期的に草刈りをされるような立地に生育する。 |
キビシロタンポポは、近畿、中国、四国、九州地方に分布する、日本固有のキク科の多年草です。特に岡山県西部、広島県東部の標高200~400m程度の吉備高原と呼ばれる地域に多く分布しており、この地域では定期的に草刈りによって管理されるような、里地の路傍や田畑の畦畔などでは、比較的普通に見られるタンポポです。
タンポポ類の分類については、様々な見解があって非常に複雑なのですが、本種についても、東北地方に分布するオクウスギタンポポ(ナンブシロタンポポ) T. denudatumと外部形態では区別できず、同種でと考えることが適当である、また、ヤマザトタンポポ T. denudatum var. arakiiとも明確な違いはなく、種の階級で区別はできず、変種程度の違いであるとする見解もあります(芹沢俊介.2006.淡黄色花タンポポの分類.植物地理・分類研究54:21-26)。そういった分類学的な理由と、岡山県周辺地域以外の地域ではまれな種であることから、一般向けの野草図鑑などでは掲載されていない場合も多いようです。
花は、3~5月頃、高さ10~15cm程度の花茎の先に、直径3~5cmほどの白色~薄黄色の頭花をひとつ咲かせます。頭花は他のタンポポ類と同じように、明るくなると開き、夕方薄暗くなると閉じる開閉運動を行います。タンポポなどキク科の花は、多数の花(小花)が集まって一つの花のように見える構造をしており、このような花を「頭花(頭状花序)」といいます。
▲総苞はふつう圧着して反り返らない。外片は内片の1/2ほど。縁毛があり、赤みを帯びることが多い。 | ▲総苞外片の角状突起は、目立たないことが多いが、かなりはっきりとした角状突起のある個体もある。 |
また、頭花の基部にある「萼(がく)」のように見える部分を「総苞」と言い、外側にある総苞片を「外片」、内側にある総苞片を「内片」といい、タンポポ類の見分けにおいては、外片と内片の長さの比率、「角状突起」と呼ばれる三角状の突起の有無、色合いなどが重要なポイントとなります。本種の総苞外片は内片の1/2ほどの長さで、普通、カンサイタンポポのように圧着しています(開閉を繰り返した頭花などでは、少し浮いたものも見られる)。外片は縁毛があり、赤みを帯びることが多いですが、緑色のものも比較的普通に見られます。
また、総苞外片の角状突起は、ほとんどないか、小さく目立たないことが多いのですが、はっきりした角状突起を持つ個体もしばしば見られます。岡山県では、他に白色の花が咲くタンポポとして、シロバナタンポポ T. albidum がありますが、こちらは本種よりも全体に大型で、花茎の高さが30cmほどになります。総苞外片には、はっきりした大きな角状突起があり、本種のように圧着はせず、つぼみの段階から開出気味となることで区別ができます。
▲やや黄色味の強い頭花。同じ株でも、白色やクリーム色など、花色が異なる花が咲くことがある。 | ▲花後には冠毛のある痩果ができ、風で散布される。痩果はふつう暗褐色だが、明るい色のものもある。 |
花後は、他のタンポポ類と同様に冠毛を持った痩果ができて、球状のいわゆる「綿帽子」を形作り、綿毛が風に飛ばされることによって種子が散布されます。痩果はカンサイタンポポ(淡黄褐色)などより色が濃く、暗褐色ですが、個体によってはやや明るい色のものも見られます。なお、本種は染色体数2n=32の4倍体ですが、高次倍数体のタンポポ類は、花粉による受粉を必要とせずに種子を形成する「無融合生殖」(種子は遺伝的に同一なクローンとなる)を行うという特徴を持っています。
▲葉は淡緑色、ロゼット状に広がり、やや深く切れ込む場合が多いが、あまり切れ込まない葉も出現する。 | ▲シロバナタンポポ。キビシロよりも大型で、総苞外片は普通、大きな角状突起があり、圧着はせず開出する。 |
葉は他のタンポポ類と同様、地際から根生葉がロゼット状(放射状)に広がります。葉の縁は羽状に中裂~やや深裂程度に切れ込む場合が多いですが、生育環境等によっては、かなり深く切れ込むこともあったり、ほとんど切れ込みのない葉が出現することもあります。
和名は「吉備・白・蒲公英(たんぽぽ)」で、「吉備」は“吉備”高原の名にも見られるように、岡山県一帯を指す古い地域名で、1933年に現在の岡山県新見市で採集された標本を基準標本として新種記載した小泉秀雄博士によって名づけられたものです。