▲砂地に生え、葉は地際より叢生する。花のつかない茎の葉は両面に灰白色の絹毛を密生する。(撮影時期:3月) | ▲夏前頃から伸びる花茎の葉はふつう無毛で、裂片は細く糸状。一見、コスモスの葉を思わせる姿。(撮影時期:6月) |
カワラヨモギは、本州から沖縄にかけての河原や海岸の砂地に生育する多年草です。国外では、極東ロシア、朝鮮半島、中国、台湾、東南アジアにかけて分布するとされます。岡山県では砂浜海岸が少ないこともあり、海岸よりも、河川の転石の多い河原、砂地、踏み固められた道沿いなどに生育していることが多いようです。。
茎は地際より叢生し、茎の下部は木質化しています。花のつかない茎は短く、表裏に灰白色の絹毛を密生し(生育状態や時期によっては毛の密度が薄くなることもある)、2回羽状に全裂した葉が、茎の先にロゼット状についています。対して、花のつく花茎の葉は、ふつう無毛(薄く絹毛を敷くこともある)、1~2回羽状に全裂して、終裂片は糸状に細くなり、まるでコスモスの葉を思わせる姿になります。冬から春頃には花茎は伸びておらず、株全体が灰白色の毛を密生した葉ばかりですが、初夏頃からは花茎が伸びはじめて糸状に裂けた緑色の葉が目立つようになり、冬と夏ではまるで違う植物のような印象です。
▲9~10月頃、花茎の先の円錐花序に、小さな頭花を密に付ける。花穂を干したものが生薬の「茵蔯蒿」。 | ▲頭花は花粉を風で飛ばす風媒花で、花弁はない。総苞片は3~4列の覆瓦状に並び、総苞外片は小さく卵形。 |
花は9~10月頃、高さ30~100cmほどの花茎の先に大きな円錐花序を作り、直径1.5~2mm程度の球形~卵形の頭花を密に付けます。花は同じヨモギ属の多くの植物がそうであるように、花粉を風で飛ばして受粉する風媒花で、花弁(花びら)はありません。頭花の総苞片は3~4列の覆瓦状に並んでおり、一番外側の総苞外片は小さく卵形をしています。頭花を構成する小花には両性花と雌性花がありますが、結実するのは数の少ない雌性花のみです(ヨモギなどは両性花も結実)。痩果は長さ0.8mmほどの長楕円形、濃褐色をしています。
花が終わった後、花茎はそのまま枯れるものもありますが、茎の途中から芽吹いて、木質化した茎の先にロゼット状の葉が密生してまるで「毛槍」のようになっている茎も良く見かけます。この茎は、そのままだと、次の花茎が伸びてくるころには枯れてしまうのですが、茎が何らかの要因で倒れ、地面に触れると発根し、新たな株となります。おそらくは、洪水などがあった際、株が土砂に埋まってしまうようなことが起こっても、やや高い位置に新たな株となるものを用意しておくことで、速やかに再生ができるようにしている、環境への適応の結果ではないかと思われます。
▲黄色矢印の先にあるのが痩果。頭花を構成する両性花と雌性花のうち、結実するのは雌性花のみ。 | ▲花茎の途中から芽吹いて、毛槍状となった茎。地面に触れると発根する。洪水による攪乱への適応か? |
和名は「河原・蓬」で、字の通り、河原に生育することを指していますが、花穂を乾燥させたものは「茵蔯蒿(いんちんこう)」、白い絹毛を敷いた葉を乾燥させたものは「茵蔯綿(いんちんめん)」と呼んで生薬として利用されます。なお、生薬の「茵蔯蒿」は日本薬局方に収められた医薬品です。
地下の根は白色をしており、かなり丈夫で、地中を縦横に伸びています。この根には、場所によっては、ハマウツボ Orobanche coerulescens(ハマウツボ科)という寄生植物が寄生していることがあり、大量に寄生された場合には、本種は徐々に弱って枯れてしまうことがあります。ハマウツボは、ヨモギ A. indica var. maximowiczii など他のヨモギ属の植物にも寄生することがありますが、本種がもっとも寄生しやすいようです。ちなみにハマウツボは環境省RL 2020、岡山県RDB 2020ともに、「絶滅危惧Ⅱ類」とされている絶滅危惧植物ですが、寄主植物である本種は絶滅危惧種とはなっていません。ただし、生育を本種に依存しているといっていいハマウツボが絶滅に瀕しているということは、絶滅が危惧される程度ではないにしろ、本種の生育地点や生育面積が悪化しつつある、ということを示しているのかもしれません。
(2020.10.24)
▲根は白く丈夫で、縦横に伸びる。 | ▲カワラヨモギの根に寄生する絶滅危惧植物ハマウツボ。大量に寄生されたカワラヨモギは弱って枯れることも。 |