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おかやまの植物事典

カワラサイコ(バラ科)  Potentilla chinensis

環境省レッドリスト2020:該当なし / 岡山県版レッドデータブック2020:準絶滅危惧

当園で防草シートの隙間から芽生え生育するカワラサイコ。 強健な植物であるが、全国的に絶滅危惧とされている場合が多い。 6~8月頃、茎の先の花序に直径1~1.5cm程度の黄色の5弁花をまばらに咲かせる。花弁は先端が凹む傾向が強いようだ。
▲当園で防草シートの隙間から芽生え生育するカワラサイコ。 強健な植物であるが、全国的に絶滅危惧とされている場合が多い。 ▲6~8月頃、茎の先の花序に直径1~1.5cm程度の黄色の5弁花をまばらに咲かせる。花弁は先端が凹む傾向が強いようだ。

 

カワラサイコは、本州、四国、九州にかけての河川敷の砂礫地や砂地など日当たりが良い乾燥地に生育する高さ30~70cm程度になる多年草です。 国外では中国、台湾、朝鮮半島、極東ロシアに分布します。 岡山県では、おもに南部の河川敷の他の植物がほとんど生育しないような場所に生育しています。 瀬戸内沿岸地域の少雨乾燥の気候をものともしない強健な植物ではありますが、樹木や大型草本の繁茂などによって生育に適した環境が減少しており、岡山県版レッドデータブック2020では、「準絶滅危惧」とされています。 環境省レッドリスト2020ではレッドデータ種とはされていませんが、都道府県のレッドデータブック/レッドリストでは36都府県で記載があります。 そのうち、大阪、奈良、高知、佐賀では「絶滅」とされており(日本のレッドデータ検索システム http://jpnrdb.com .2024年6月18日閲覧)、全国的に減少しつつあるようです。

花は6~8月頃、地際から分枝した茎の先端に散房状集散花序をつけ、直径1~1.5cm程度の黄色の5弁花をまばらに咲かせます。 キジムシロ P. fragarioides やヘビイチゴ P. hebiichigo などキジムシロ属の植物の花はどれも良く似た姿をしており、花だけでは識別がかなり困難です。 本種の花弁の先端は凹んだ形状となっている傾向が強いように思いますが、他の種の花弁も先が凹んでいたり、本種の花弁もあまり凹んでいないものが見られるため、見分けのポイントとしては使えません。 ただし北海道と本州中部以北に分布するヒロハノカワラサイコ P. niponicaとは、本種の萼片の間にある副萼片が細い形状をしている(ヒロハノカワラサイコの副萼片は萼片とほぼ同形)であることが区別点のひとつとなります。 花後はヘビイチゴのように花床がふくらんだいわゆるイチゴ状果実にはならず、キジムシロやオヘビイチゴ P. anemonifolia のように多数の痩果が集まった状態で熟します。 痩果は長さ1.3mm程度の広卵形で黄褐色~褐色、表面には縦じわが目立ちます。

幅の広い萼片の間に細い副萼片があり、萼片と副萼片、花柄(花序柄)などには白い長毛が密生する。 花後に果床はふくらまずイチゴ状にはならない。 痩果は長さ1.3mm程度の広卵形で黄褐色~褐色、縦じわが目立つ。
▲幅の広い萼片の間に細い副萼片があり、萼片と副萼片、花柄(花序柄)などには白い長毛が密生する。 ▲花後に果床はふくらまずイチゴ状にはならない。 痩果は長さ1.3mm程度の広卵形で黄褐色~褐色、縦じわが目立つ。


茎は地際から複数出て、分枝しながら地面をはうように広がりますが、環境によっては斜上します。 茎や葉軸は赤く、小葉の脈上を含めて白い長毛が多く生えています。 葉は15~29個の小葉を持つ奇数羽状複葉で、小葉はさらに細かく切れ込み、まるで魚の骨のような特徴的な形状をしています。 地際から生える根生葉と茎に互生する茎葉があり、茎葉は長さ5~20cm、幅2~7cm程度、根生葉は大きく、長さ30cm、幅7cmほどになります。 葉裏には白い綿毛が密生して白く見えます。 小葉と小葉の間には付属小葉片と呼ばれる小さな葉があります(前述のヒロハノカワラサイコの葉には付属小葉片はない)。 古い葉や秋になると、葉は茎や葉軸同様、鮮やかな赤色あるいは黄色に美しく色づきます。

茎葉は茎に互生し、長さ5~20cm、幅2~7cm。 根生葉の場合、長さ30cmほどにもなる。 葉裏は綿毛が密生して白く見える。 茎や葉軸は赤く、白い長毛が多く生えている。 古くなった葉や、秋には葉が茎や葉軸同様に鮮やかな赤色に紅葉し、美しい。
▲茎葉は茎に互生し、長さ5~20cm、幅2~7cm。 根生葉の場合、長さ30cmほどにもなる。 葉裏は綿毛が密生して白く見える。 ▲茎や葉軸は赤く、白い長毛が多く生えている。 古くなった葉や、秋には葉が茎や葉軸同様に鮮やかな赤色に紅葉し、美しい。

 

和名を漢字表記すると「河原・柴胡」で、 「柴胡」とは、根を解熱・鎮痛等の効能のある生薬として用いるセリ科のミシマサイコ Bupleurum stenophyllum の生薬名(漢名、中国名)で、本種の根がミシマサイコに似ていて、同様の薬効があると考えられたことから名付けられたものとされます。 中国では全草を「翻白草」、根を「紅柴胡」という生薬として古くから用いられていますが、日本では生薬としてはあまり用いられないようです(木村康一・木村孟淳 著.1964.原色日本薬用植物図鑑.保育社.p.38)。 なお、「翻白草」は同属のツチグリ P. discolor の漢名でもあるため、本種は漢名では「委陵菜」と呼ばれます。 「紅柴胡」は、ミシマサイコの根が白っぽいのに対し、本種は茎などが赤く、根も濃褐色で、根の中心もやや紅色を帯びていることに由来すると思われます。

和名は濃褐色で太い根が、生薬として用いられるミシマサイコの根に似ていて、同様の薬効があるとされ、河原に生えることから。 河川敷の砂礫地に生育する本種のロゼット。 岡山県では豪雨災害後の防災工事によって生育個体数が減少している、
▲和名は濃褐色で太い根が、生薬として用いられるミシマサイコの根に似ていて、同様の薬効があるとされ、河原に生えることから。 ▲河川敷の砂礫地に生育する本種のロゼット。 岡山県では豪雨災害後の防災工事によって生育個体数が減少している。

 

当園では、2010年に総社市の自生地で採集した種子からの実生株を大型プランター(プラ船)で栽培していますが、周囲に防草シートを張っているにも関わらず、周りにたくさんの実生が見られるようになっています。 ただ、もとの自生地では、2018年の西日本豪雨後の防災対策として、河川敷の樹木の伐採・伐根や堆積土砂の除去などの大規模な工事が行われたため、現在の本種の生育個体数は過去に比べて減少しています。 ただし、場所によっては本種のような砂礫地を好む植物の生育に適した環境となっており、そのような場所で、本種などの砂礫地の植物が復活するのか、それとも復活しないまま他の植物が再び繁茂して藪となってしまうのか、生育環境の持続性を含めて今後の変化に注意を払っていく必要があると考えています。

(2024.6.22)

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