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おかやまの植物事典

カキツバタ (アヤメ科)  Iris laevigata

環境省レッドリスト2020:準絶滅危惧 / 岡山県レッドデータブック(2020):準絶滅危惧

5~6月頃に青紫色の花を咲かせる。乾燥地を好むアヤメとは違い、湿地や水辺に生育する湿生植物である。 下に垂れた外花被片の中央から基部にかけて、白い斑があることが、特徴のひとつである。
▲5~6月頃に青紫色の花を咲かせる。乾燥地を好むアヤメとは違い、湿地や水辺に生育する湿生植物である。 ▲下に垂れた外花被片の中央から基部にかけて、白い斑があることが、特徴のひとつである。

 
カキツバタは、北海道から九州までの湿地や水辺に生育する多年草で、根茎を横に伸ばして群生します。5~6月頃、高さ30~80cmほどの花茎の頂部に2~3個の花をつけます。花は青紫色で直径12cmほど、花被片(花びら)は6枚あり、先が楕円形に広がって下方に垂れた格好になっている3枚が「外花被片」で、中央から基部にかけて白い披針形の斑紋がありますが、基部付近では薄い黄色を帯びています。外花被片の間から直立している3枚は「内花被片」と呼ばれます。外花被片の基部に被さっているのが花柱(雌しべ、1本が3分枝した構造)で先は2裂して直立し、柱頭は直立した部分の基部の白い筋状の部分です。また、雄しべは花柱と外花被片の間に隠れるように挟まれています。これらの花の構造は、同属のアヤメ I. sanguinea 、ノハナショウブ I. ensata var. spontanea 、園芸種として栽培されるジャーマンアイリス(ドイツアヤメ)I. germanica などとも共通したものです。

外花被片の白斑は、花被片の基部では黄色を帯びている。雄しべは花柱と外花被片の間に挟まれている。 果実は蒴果で長さ4~5cmの俵型。7月下旬~8月に熟して裂開する。ノハナショウブの果実よりも大型である。
▲外花被片の白斑は、花被片の基部では黄色を帯びている。雄しべは花柱と外花被片の間に挟まれている。 ▲果実は蒴果で長さ4~5cmの俵型。7月下旬~8月に熟して裂開する。ノハナショウブの果実よりも大型である。

果実は熟すと乾燥、裂開して種子を散布する「蒴果」で、長さ4~5cmの俵型をしており、7月下旬~8月頃に熟して3裂します。果実の内部には、直径7~8mm、厚さ3~4mm程度の明褐色の種子が隙間なく詰まっており、果実が揺れた際などに落下しますが、水辺に生育する植物であるため、種子は水に浮くことで拡散するものと考えられます。葉は長さ30~70cm、幅2~3cmの剣状をしており、同様の環境に生育するノハナショウブの葉(幅0.5~1.2cm)とは、より幅が広く、中脈がないことで区別できます。

果実の内部には、直径7~8mm、厚さ3~4mm程度の明褐色の種子が隙間なく詰まっている。 葉は長さ30~70cm、幅2~3cmの剣状。中脈がないことで、太い中脈のあるノハナショウブの葉と区別可能。
▲果実の内部には、直径7~8mm、厚さ3~4mm程度の明褐色の種子が隙間なく詰まっている。 ▲葉は長さ30~70cm、幅2~3cmの剣状。中脈がないことで、太い中脈のあるノハナショウブの葉と区別可能。

また、本種をしっかり観察したことがない方でも、「いずれアヤメかカキツバタ」の例えはご存知かもしれません。これは、「太平記」の12人の美女の中から、「菖蒲前」という女性を探し出すように言われた源頼政のエピソードに由来し、「どれも美しいので、優劣をつけがたい」というのが本来の意味ですが、現在では単によく似ていることの例えとしても使われます。ただ、アヤメは比較的乾燥気味の草地、本種は水湿地と、好む生育環境は全く異なりますので、両種を観察していると「同じように美しい花でも、性格は全く違う」という意味も実は込められているのではないか…と、うがち過ぎたことを考えてしまいます。

和名の「かきつばた」については、万葉集に大伴家持が詠んだ「かきつはた 衣(きぬ)に摺り付け ますらをの 着襲(きそ)ひ狩する 月は来にけり」との和歌があるように、本種の花の汁を衣に摺り付けて染める、「摺り染め」の習慣があったことから、「搔付花/書付花(かきつけばな)」が転訛したものとされます。漢字では「杜若」、「燕子花」の字があてられますが、「杜若」は現在の中国ではツユクサ科のヤブミョウガ Pollia japonica を指し、「杜若」の字を本種にあてるのは誤用とされます。しかしながら、中国の古い本草書では、「杜若」は「味は辛く香し」とされており、普通食用とせず、辛みもないヤブミョウガを「杜若」とするのも誤りで、ゲットウ(月桃)などが属するショウガ科のハナミョウガ Alpinia属の植物が本来の「杜若」であろうとの説(木下武司著.2010.万葉植物文化誌.八坂書房.p.146)もあります。同様に「燕子花」も、本来はキンポウゲ科のオオヒエンソウ Delphinium属の植物を指すとされます(木下武司著.2010.万葉植物文化誌.八坂書房.p.148)

栽培、植栽されることが多いため、比較的目にする機会の多い植物ですが、実は野生品は環境省RL、岡山県RDBともに「準絶滅危惧」とされています。しかしながら、野外で見られるものは栽培からの逸出によるものも多く、純粋な野生集団かどうかの判別が難しい場合も多いようです。

(2021.5.15)

同属のアヤメ。生育環境は乾燥気味の草地。水湿地に生育する本種とは、花は似ていても性格は全く異なる。 本来の「杜若」の候補のひとつ、ツユクサ科のヤブミョウガ。ショウガ科のハナミョウガとの説もある。
▲同属のアヤメ。生育環境は乾燥気味の草地。水湿地に生育する本種とは、花は似ていても性格は全く異なる。 ▲本来の「杜若」の候補のひとつ、ツユクサ科のヤブミョウガ。ショウガ科のハナミョウガとの説もある。

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