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おかやまの植物事典

ホトケノザ(シソ科) Lamium amplexicaule

日本全国の畑地周辺や道ばたなどに生育し、日当たりの良い場所であれば1年中生育が見られる。 (撮影:2023年1月6日) 花(開放花)は長さ1.5~2cm程度の紅紫色の唇形花。 全体に毛が密生し、上唇の内側には合着した雄しべと雌しべがある。
▲日本全国の畑地周辺や道ばたなどに生育し、日当たりの良い場所であれば1年中生育が見られる。 (撮影:2023年1月6日) ▲花(開放花)は長さ1.5~2cm程度の紅紫色の唇形花。 全体に毛が密生し、上唇の内側には合着した雄しべと雌しべがある。

 

ホトケノザは、北海道から沖縄まで、日本全国の日当たりの良い畑地周辺や道ばたなどにごく普通に見られる高さ10~30cm程度の一年~二年草(越年草)です。 国外では「東アジア・ヒマラヤ・ヨーロッパ・北アフリカに分布し、北アメリカにも帰化している。」(大橋広好・門田裕一ほか編.2017.改訂新版 日本の野生植物5.平凡社.p.126) とされ、有史以前に畑作や稲作の伝播と共に日本に入ってきた「史前帰化植物」のひとつとされることもあります。 岡山県下でも全域で普通にみられますが、土壌pHが中性~ややアルカリ性の土壌を好む傾向があり、新見市・高梁市などの石灰岩地では、春に見事な花畑となっているのをしばしば見かけることがあります。 名前は知らなくとも、多くの人が見たことがあるだろう、最もありふれた雑草のひとつです。

 

岡山県内の石灰岩地の休耕畑一面に咲く開放花。 pHがややアルカリ性の土壌を好む傾向がある。 (撮影:2023年3月27日) 葉は対生、長さ1~2cmの扇状円形。 茎下部では柄があるが、茎上部では無柄で茎を抱く。 蕾のように見えるのは閉鎖花。
▲岡山県内の石灰岩地の休耕畑一面に咲く開放花。 pHがややアルカリ性の土壌を好む傾向がある。 (撮影:2023年3月27日) ▲葉は対生、長さ1~2cmの扇状円形。 茎下部では柄があるが、茎上部では無柄で茎を抱く。 蕾のように見えるのは閉鎖花。

 

花期は3~6月頃とされますが、積雪地域などをのぞけば、1年中どこかで生育(開花・結実)している個体を見つけることは難しくなく、本種に関しては、花期は「最も花が多い時期」程度と考えても良いでしょう。 花には花冠が開く開放花と花冠が開かないまま結実する閉鎖花があり、花は上部の葉腋に多数が着きます。開放花は花冠は長さ1.5~2cm程度、淡紅色、唇形で筒部が長く、全体に毛が密生しています。 かぶと状になった上唇の内側に隠れるように、4本の雄しべと先が2裂した雌しべが合着した状態であり、下唇は3裂し、中央裂片はさらに2裂しており、濃い紫の斑があります。 閉鎖花は一見、蕾のような姿で、開放花と同時期にも見られますが、開放花が見られない時期でも閉鎖花のみが着いていることも多くあります。 萼は先が5裂した筒状で、密に毛が生えています。 果実は4分果で、開花終了後は比較的速やかに結実し、萼よりこぼれ落ちます。 果実は長さ2~3mm程度で、背面が丸い3稜形、全体に白斑がありますが、その密度には濃淡があります。 果実の先端には種枕(しゅちん)とよばれる部分があり、本種の種枕はエライオソームと呼ばれるアリが好む物質で、果実は地面にこぼれ落ちた後、アリによって運ばれることで散布されることから、「アリ散布植物」と呼ばれます。

果実は4分果で速やかに結実し、萼からこぼれ落ちる。 萼は密に毛が生えていて長さ約5mm、先は5裂している。 果実は長さ2~3mm程度の背面が丸い3稜形。 全体に白斑がある。 果実の先端には種枕があり、アリによって運ばれる。
▲果実は4分果で速やかに結実し、萼からこぼれ落ちる。 萼は密に毛が生えていて長さ約5mm、先は5裂している。 ▲果実は長さ2~3mm程度の背面が丸い3稜形。 全体に白斑がある。 果実の先端には種枕があり、アリによって運ばれる。

茎はシソ科の草本植物の多くがそうであるように4角形をしています。 葉は対生で鈍い鋸歯があり、茎の下部の葉は長い葉柄を持ちますが、茎の中部以上の葉は無柄で茎を抱くように着き、茎頂部では1枚の円形の葉のように見えます。

和名は「仏の座」で、円形に見える葉の様子を、仏様が座っているハスの花の台座「蓮華座」に見立てたものとされます。 ただし、開放花のかぶと状の上唇を仏さまの背後にある「光背」と見立てると、丸い葉の上に開放花が咲いている様子はまるで、蓮華座の上に立った仏像(立像)のように見えますので、開放花を含めた全体を仏像に見立てたうえで、花期でなくともみられる葉に着目して「ほとけのざ」と呼んだものとも考えられます。

なお、春の七草の「ほとけのざ」は本種ではなく、キク科のコオニタビラコ Lapsanastrum apogonoides であるとされますが、本種のほうが身近な場所でよく見られるためか、本種のほうを春の七草であると誤解されている方がかなり多くおられます。 それだけでなく、新年にスーパーで売られている「春の七草」セットの中にも、コオニタビラコでなく、本種が入れられている場合があります。 幸いにも、本種は有毒植物ではないため、誤って食べても害があるわけではありませんが、食用にして美味しい野草というわけでもないようです。

和名は葉の形状を蓮華座に例えただけではなく、開放花の上唇を光背として、全体を仏像(立像)に見立てたとも考えられる。 キク科のコオニタビラコのロゼット葉。 春の七草の「ほとけのざ」は、地面に広がる葉を「蓮華座」に例えたこちらであるとされる。
▲和名は葉の形状を蓮華座に例えただけではなく、開放花の上唇を光背として、全体を仏像(立像)に見立てたとも考えられる。(写真は 写真AC  https://www.photo-ac.com/ より) ▲キク科のコオニタビラコのロゼット葉。 春の七草の「ほとけのざ」は、地面に広がる葉を「蓮華座」に例えたこちらであるとされる。

 

本種の別名には「さんがいぐさ」という名がありますが、これは葉が階層のように着くため「三階草」の意味である、と説明されます。 確かに茎に着く葉は生育状況により変化がありますが、概ね3段ぐらいであることが多く、「三階草」でも良いように思えます。 しかし、仏教には「三界(さんがい)」という言葉があり、これは、衆生が輪廻を繰り返す「欲界」・「色界」・「無色界」の3つの世界を指し、これらの世界は階層状になっていると考えられていることから、「三界草」とすることも間違いではないようです。 ちなみに漢名(中国名)は「寶(宝)蓋草」といい、「宝蓋」とは仏像の頭上にかざす天蓋の美称で、葉の形状を「宝蓋」に見立てたものと考えられます。何に例えたかは異なりますが、中国でも仏教に関連した名がついていることは面白い共通点です。

(2024.2.24)

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