▲梅雨頃、茎の先に大きな釣鐘型の花を多数咲かせる。白色の花も完全な白花では無く、濃い紫の斑を持つ。 | ▲淡紅紫色の花。品種(ムラサキホタルブクロ)として区別する場合もある。 |
ホタルブクロは、北海道から九州まで、日本全国の林縁や草地などに生育する高さ30~80cmほどになる多年草です。 花は6月~7月頃、茎の上部に長さ4~5cmほどの大きな釣鐘型の花が多数、垂れ下がるように咲きます。 花冠の先は浅く5裂し、花冠の内外に濃い紫色の斑があります。 花色は白色の個体と淡紅紫色の個体がありますが、両方の花色の個体が混生するようなことは少なく、地域(場所)によって花色に偏りがあるようです。 淡紅紫色の花のものは、品種 ムラサキホタルブクロ f. rubriflora として区別されることもあります。
良く似たものとして、近畿地方東部から東北地方南部のやや標高の高い山地に分布する変種、ヤマホタルブクロ C. punctata var. hondoensis がありますが、ホタルブクロはがく片の間に付属体と呼ばれる部分があり、上向きに反り返っていますが、ヤマホタルブクロは反り返る付属体を持たず、がく片の間は膨らんでいるだけであることで区別ができます。 ただ、岡山県に限って言えば、今のところ県内ではヤマホタルブクロの生育は確認されていませんので、ほとんどの場合には岡山県内の山野で出会うのはホタルブクロそのものと考えてよく、区別に悩む必要はないでしょう。
▲花冠の先は浅く5裂する。花冠の内側にも濃色の紫斑がある。 | ▲下向きのがく片の間にある付属体が上向きに反り返ることが良く似たヤマホタルブクロとの区別点。 |
葉の両面や茎など植物体全体に粗い開出毛があり、特に茎や葉の裏面脈上に目立ちます。 葉は長い葉柄を持ち、長さ15cm、幅10cmほどにもなる卵心形で大型の根生葉と、三角状卵形で長さ5~8cm、幅1.5~4cm程度の小型の茎葉を持ちます。 いずれの葉も縁には鋸歯があります。 茎葉は互生し、下部の茎葉は葉柄がありますが、上部に着くものほど葉柄が短くなり、上部の茎葉はほとんど葉柄が無くなります。 また、葉柄の縁が翼のようになっている茎葉もしばしば見られます。 植物図鑑によっては、根生葉は花時には枯れる、と解説してあるものもありますが、当園のものを観察した限りでは、必ずしも枯れるとは限らず、草刈りや生育環境によっては、花時にも根生葉が枯れずに残っている場合も多いようです。
▲根生葉は大型で長さ15cm、幅10cmほどの卵心形。 長い葉柄をもつ。 | ▲下部の茎葉は三角状卵形で葉柄を持つ。写真のように葉柄部分に翼状の部分が見られることもある。 |
ホタルブクロは、漢字で書くと大抵の場合、「蛍袋」と表記され、「子供がホタルを捕まえてこの花の中に入れて遊ぶため」と説明されますが、大きな花が茎の頂部に垂れ下がる様子が「火垂る袋=提灯」を連想させることから、という説もあります。 本種の別名として、チョウチンバナ(提灯花)という名もありますし、花が並んで咲く様子が葬式の提灯行列を連想させるためか、ソーレンバナ(葬礼花)、シビトバナ(死人花)といった別名もあります(木村陽二郎 監修, 植物文化研究会 編.2005.図説 花と樹の事典.柏書房.p.411)。 このような別名から考えると、本種の名は、「蛍袋」ではなく、「火垂る袋」が由来であると考えるのが適当であるように思われます。 ちょうど昆虫のホタルが飛び始める梅雨の時期に開花することもあり、「火垂る」が発音が同じ「蛍」に置き換わったのではないでしょうか。
当園では、花色が混じらないように配慮し、温室エリアに白花の株を、湿地エリアに淡紅紫色の株を植栽しています。春に草刈りのタイミングが遅くなりすぎると、枯れはしないのですが、開花しないことがしばしばあり、管理上の悩みどころとなっています。
(2015.6.20)
▲茎上部の茎葉は葉柄がほとんど見られない。茎には粗い開出毛が目立つ。 | ▲近畿地方東部から東北地方南部に分布するヤマホタルブクロ。がく片の間に反り返る付属体を持たない。 |