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おかやまの植物事典

ホソバヤマジソ (シソ科)  Mosla chinensis

環境省レッドリスト2020:絶滅危惧Ⅱ類 / 岡山県版レッドデータブック2020:絶滅危惧Ⅱ類

日当たりが良く、乾燥気味の岩場などに生育するが、まれな植物。茎は細いが丈夫で、まばらに枝分かれする。 花は長さ5mmほどの筒状で、外面には白毛が密生。花冠は5裂し、下唇が最も大きい。赤く色づいているのが苞。
▲日当たりが良く、乾燥気味の岩場などに生育するが、まれな植物。茎は細いが丈夫で、まばらに枝分かれする。 ▲花は長さ5mmほどの筒状で、外面には白毛が密生。花冠は5裂し、下唇が最も大きい。赤く色づいているのが苞。

 

ホソバヤマジソは、兵庫県以西の本州、九州にかけて分布する、高さ5~50cmのシソ科の一年草で、日当たりが良い丘陵地や岩の上、湧水湿地周辺などの乾燥した場所に生育します。 国外では朝鮮半島、台湾、中国に分布しており、「日本が大陸と地続きであったころに分布していた名残であろう」(矢原ほか監修,2015.絶滅危惧植物図鑑 レッドデータプランツ 増補改訂新版.山と渓谷社.p.125) とされています。 まれな植物で、以前は岡山県が国内分布の東限とされていましたが、2012年に兵庫県でも生育地が発見され、現在の分布東限は兵庫県となっています(黒崎史平ほか,2015.ホソバヤマジソ(シソ科)の新たな東限産地.植物研究雑誌90 (3):206-209)

花は倉敷地域では8月下旬~10月下旬頃に咲き、茎の先の長さ1~2cmほどの花穂に、ほぼ白色から淡紅紫色、長さ約5mmほどの筒状の小さな花を次々に咲かせます。 花冠の先は5裂し、外面には白い毛が密生しており、最も大きな下部の裂片(下唇)の内部の喉部にも毛が生えています。 本種などイヌコウジュ属の植物は、基本的に花穂の下部から上に向かって花が咲き進みますが、イヌコウジュ M. scabraなどの場合、同じ花穂に10花以上が同時に咲くことも普通にありますが、本種および同属のヤマジソ M. japonica などの場合は、同時に咲くのは背中合わせの2~3花のみで、次の花は前の花が終わらないと咲きません。 2~3花ずつの開花を繰り返して、だんだんと穂を作りながら上へ上へと咲いてゆきますので、花は常に花穂の最上部に咲いていることになります。 花の後にできる穂は長さが3cm程度でイヌコウジュなどのようには長くなりません。  また、花穂には大きな苞(花穂に付属する葉のような部分)があります。 生育状態にもよりますが、苞は茎と共にある程度、赤みを帯びることが普通ですが、晩秋、気温が低下してくると植物体全体がさらに鮮やかに紅葉します。 種子は灰褐~黒褐色、直径1.2mm程度の球形で、表面には無数のくぼみがあり、ちょうどゴルフボールのような姿をしています。

晩秋まで結実しながら開花を続ける。秋、気温が低下してくると、植物体全体が鮮やかに紅葉する 種子は灰褐~黒褐色、直径約1.2mmの球形、表面にはゴルフボールのような凹みがある。
▲晩秋まで結実しながら開花を続ける。秋、気温が低下してくると、植物体全体が鮮やかに紅葉する。 ▲種子は灰褐~黒褐色、直径約1.2mmの球形、表面にはゴルフボールのような凹みがある。

 

葉は長さ1.3~3cm、幅2~6mmの披針形~広線形で、縁には少数の粗い鋸歯があります。 葉の両面ともに微毛が散生し、主脈上にはやや密生するほか、葉の両面、花穂の苞などに多数の腺点があり、特に葉裏の腺点は目立ちます。 茎は他のシソ科の植物同様に四角形、太さ1~2mm程度で細いですが、硬く丈夫で直立し、まばらに枝分かれします。 茎は赤紫色を帯びており、葉柄などとともに下向きに曲がった短い毛があります。 ハーブとして知られるタイム(タチジャコウソウ)などと同様に、植物体全体にチモール、カルバクロールなどの精油成分を含んでおり(本種の主成分はチモール)、タイム同様の強い芳香がありますが、タイムやヤマジソなど、種ごとに含まれる精油成分の割合が異なっているため、感じられる香りも種によって異なっています。 また、チモールやカルバクロールには殺菌、抗菌作用があることが知られていますが、香り同様、その割合や他の微量成分によって植物によってその作用は異なります。 本種は他の植物と比較しても特に強く広い抗菌性があるという研究結果(古谷力ほか,1997.天然抗菌素材の開発研究(第1 報) 一ホソバヤマジソ Mosla chinensis Maxim.の抗菌性と成分一.日本食品化学学会誌4(2):114−119)があり、今後、有望な薬用植物と言えるかもしれません。

葉は長さ1.3~3cm、幅2~6mmの披針形~広線形。同属のヤマジソと比較して葉が細いのが和名の由来。 葉裏の様子。葉の両面に短毛が散生する。主脈上にはやや毛が多い。両面に腺点が多いが、葉裏は特に目立つ。
▲葉は長さ1.3~3cm、幅2~6mmの披針形~広線形。同属のヤマジソと比較して葉が細いのが和名の由来。 ▲葉裏の様子。葉の両面に短毛が散生する。主脈上にはやや毛が多い。両面に腺点が多いが、葉裏は特に目立つ。

 

和名は「細葉・山紫蘇」で、同属のヤマジソに比べて葉が細長い形状であることを指していますが、ヤマジソも環境省レッドリスト2020では「準絶滅危惧」、岡山県レッドデータブック2020でも「絶滅危惧Ⅱ類」とされるレッドデータ植物のため、両種とも見た経験のある方は多くないかもしれません。 中国では、岩場のようなところに生育することが多いためか、「石香需」と呼ばれています(「香需(こうじゅ)」はシソ科のナギナタコウジュ Elsholtzia ciliata の生薬名)。

(2022.9.25 改訂)

茎は赤紫色を帯び、葉柄などとともに下向きに曲がった短い毛がある。 ヤマジソ M. japonica の葉は卵形~狭卵形で幅が広い。 写真のものはシロバナヤマジソ f. thymolifera 。
▲茎は赤紫色を帯び、葉柄などとともに下向きに曲がった短い毛がある。 ▲ヤマジソ M. japonica の葉は卵形~狭卵形で幅が広い。 写真のものはシロバナヤマジソ f. thymolifera

 

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