当園には、岡山県内各地や広島県比婆山で入手した種子から育てたユウスゲ(キスゲ)が多数生育しています。6月から開花を始め、最盛期の7月には毎夕数百個の花を見ることができます。夕方に開花して翌朝にはしぼんでしまうところから「ユウスゲ」と呼ばれているわけですが、せっかくの花も夜だけの開花では残念ながら人目にはつかず、これが昼間咲いてくれたらどんなにすばらしいことかと考えながら、毎夕開花した花の数を数えては記録をとっていました。
私のこんな思いが天に通じたのか、昨年偶然にも「昼咲くユウスゲ」がついに誕生しました。「ヒルザキユウスゲ」については、未だ不明の点や疑問点も多々あるのですが、誕生までの経緯は次ぎのとおりです。
当園で育てているユウスゲの中には、産地によって葉や花にかなりの変異が見られるものがあり、葉がやや細くて短く、花茎はやや細くて丈も低く花もやや小ぶりのものがあります。保育社の原色日本植物図鑑によりますと、ユウスゲより丈が小さく葉が細い「ホソバキスゲ」というものが、満州や朝鮮・東シベリアに分布しているそうですが、ホソバキスゲの実物を見たことがないので、当園のものがホソバキスゲとは断定できません。一度実物を見たいものだと思っていましたところ、嬉しいことに満州産のキスゲを持っている方が千葉県に居られ、ご親切にも貴重な数株を分けてくださいました。
早速園内に裁植しましたところ、想像していたホソバキスゲとは全く異なる小型でかわいい植物でした。葉は極めて細くて長さ30cm前後、花茎は高さ30~50cm程度で、日中黄色の花を咲かせます。満州には日本には無いマンシュウキスゲとかヒメカンゾウの他にも何種類かのヘメロカリス属の植物があると聞いていますが、この植物にはヒメカンゾウの名が一番似合っているように思われます。
花は4~5月と8~9月の2回咲きます。花は上品で美しいので、来観された花好きの方々から分譲希望も多く、株分けの難しい種類ですので、実生繁殖を計画して、採種しようとしましたがなかなか結実しませんでした。春咲はいつも失敗しましたが、秋咲きのものからは何年目かにやっと数個の果実を収穫することができ、播種することができました。
発芽生育した苗を畑に移植して育てましたところ、驚いたことに親よりどんどん大きくなり、親のような可愛らしさは無くなり、むしろユウスゲに近い大きさになりました。また、花は5~7月の日中に咲き、ユウスゲのような芳香が微かにあります。外観はユウスゲそっくりですので、知らない人はユウスゲが昼咲いているように錯覚されます。そんなことから、この植物に「ヒルザキユウスゲ」の名前をつけてみました。この植物がユウスゲの咲く時期に結実したことから、ユウスゲとの交雑が考えられ、姿は父親に、花は母親に似ていて、花期は父親の6~8月、母親の8~9月のほぼ中間の5~7月です。
現在このヒルザキユウスゲの種子を播いて育てています。2代目の昼咲ユウスゲはどんな花が咲くのか楽しみです。また、反対にユウスゲの方にも交配した種子ができていて、ユウスゲ園の中にヒメカンゾウに似た小型のユウスゲが生えているかも知れません。これも楽しみです。