▲日当たりの良い路傍や草地に生育する多年草。春から夏、その名の通り小さなキキョウに似た花を咲かせる。 | ▲花は漏斗状鐘形で5深裂する。写真の花は雌性期で花柱先端が3裂している。訪花した小昆虫も多数みられる。 |
ヒナギキョウは関東地方以西の本州、四国、九州、沖縄にかけての日当たりのよい路傍や草地に生育する高さ10~40cmほどの多年草です。国外でも、朝鮮半島・中国・東南アジア・ポリネシア・オーストラリア・ニュージーランド・北アメリカ北東部など広く分布しています(大橋広好・門田裕一ほか編.2017.改訂新版 日本の野生植物5.平凡社.p.194)。本種はキキョウ科の植物ですが、キキョウとは別属の植物で、ヒナギキョウ属の植物は日本では本種1種のみが分布します。園芸店などでは国外産の本属の植物が「ワーレンベルギア」と属名で呼ばれ、販売されていることもあります。
花は5~8月頃、まばらに分かれた枝先に直径5~7mmで先が5裂した青紫色の漏斗状鐘形の花を1個づつ咲かせます。花は雄性先熟(5本ある雄しべが先に成熟して花粉を出したのち、雌しべが成熟する)で、雌性期になると、花柱の先が3裂します。萼(がく)は長さ3~4mmの披針形、葉は茎の下部と上部でやや形が違い、下部の葉は長さ2~4cmのへら型~倒披針形で、わずかに鋸歯がありますが、上部の葉の幅は細くなって線状披針形、鋸歯はほとんどありません。茎には縦筋があり、細く丈夫で、まばらに枝分かれをしています。根は茎の細さに対して比較的太く発達しており、地中深くまで伸びています。果実はキキョウ同様の蒴果(種子が熟すと乾燥して果実が裂開するタイプの果実)で、長さ6~8mmの倒円錐形で上部には萼片が直立し、果実が裂開する時期になっても宿存しています。種子は褐色で光沢があり、長さ0.5mm程度の俵型をしていて、熟すと、乾燥した果実の上部が裂開して散布されます。
▲萼は3~4mmの披針形で、直立している。 | ▲茎は細いが丈夫で、縦筋がある。写真の下部の葉は鈍い鋸歯があるが、上部の葉では目立たず、ほぼ全縁。 |
和名を漢字表記すると「雛・桔梗」で、小さくて可愛らしいキキョウとの意味の名です。しかしキキョウそのものは自然性の高い草原に生育しており、絶滅危惧種となっていますが、本種はキキョウとは異なり、いたるところに、というほど多くはないものの、日当たりの良いところであれば比較的場所を選ばず生育しており、街中でも、街路樹の根元や、公園の植え込み、芝生広場の周囲などに生育している場合もあり、なかなかにたくましい植物です。本種の種子は花期と果期がはっきりしているキキョウとは異なり、花期の間に次々と熟して散布されていき、同じ株に花と果実が同時に見られることも普通にあります。草刈りにも強く、刈られても素早く再生して花を咲かせます。根も地中深くまで伸びるため、引き抜くことは難しく、非常に雑草性の強い植物であると言えます。一方で被陰には弱く、他の植物が繁茂すると姿を消してしまいます。
▲根は太く発達し、地中に長く伸びる。写真の根は途中で切れている。 | ▲若い果実。キキョウと同じく蒴果だが、直立した萼片が宿存する。右から2番目は開花直前の蕾。 |
属の学名の Wahlenbergia は、スウェーデンの植物学者、ゲオルク・ヴァーレンベリ(Georg Wahlenberg)の名からとられたものです。種小名の marginata は、「縁取りのある」という意味で、本種の厚くなっている葉の縁が白く見えることを意味する…とされますが、当園内で観察する限りでは特段に葉の縁が白くは見えません。日本国外のものにはそのような個体があるのかもしれませんが、実は本種のタイプ産地(新種発表時、基準標本が採集された場所)は、三重県であり、その可能性は低そうです。本種の開花直前の蕾は、太い白い線で縁取られたようになっていて、ひょっとすると種小名はこのことを指しているのかも知れません(原記載をチェックしておらず、あくまで想像に過ぎません)。
また、同じキキョウ科で北アメリカ原産の外来植物に、キキョウソウ(ダンダンギキョウ Triodanis perfoliata )、ヒナキキョウソウ(ヒメダンダンギキョウ Triodanis biflora )という名の植物があり、見た目も名前も紛らわしいうえ、花期も同じ時期のため、良く間違われますので、名前を覚えようとする場合には、注意が必要です。
(2019.5.26)
▲種子は褐色で光沢があり、長さ0.5mm程度で非常に小さい。熟すと果実上部が裂開して散布される。 | ▲名前も見た目も似て紛らわしい、北アメリカ原産の外来植物、ヒナキキョウソウ(ヒメダンダンギキョウ)。 |