▲葉には鋭い刺を持ち、魔除けの力があると信じられたこともあり、庭園樹としても良く植栽される。 | ▲葉は対生。花は白色で11~12月頃に咲き、同属のキンモクセイ同様、良い匂いがする。 |
ヒイラギは、関東地方以西の本州から四国、九州、沖縄などの山地に生育するモクセイ科の高さ4~8mほどになる常緑小高木です。葉は対生、長さ3~7cm、幅2~4cmの楕円形で、質は厚く革質、表面には光沢があります。若い木の葉には、先端がトゲ状に鋭く尖った歯牙が2~5対ありますが、年を経るにつれて、だんだんと歯牙は小さく目立たなくなり、完全に老木になると、全縁の葉となります。これは葉を食べる草食動物などに対する防御であると考えられ、個体サイズが小さく、葉を食べられやすい時期には刺のある葉で身を守り、個体サイズが大きくなる(年を経る)と、葉を食べられる恐れが減少するので、徐々に刺を作らなくなるのだとされています。
▲雌株の花は「雌花」ではなく、2本の雄しべがある両性花。花の中央部の薄緑の部分が雌花の花柱。 | ▲雄花にも機能しない雌しべがあるが、成熟することなく萎れてしまう。(上部の茶色になった花の部分) |
花は11~12月頃、葉の腋に直径約5mmで先が4裂した白色花が集まって咲きます。芳香剤などの香りで知られるキンモクセイとは同属で、キンモクセイとは香りはやや異なりますが、本種の花も芳香があり、後述する魔除けとしての風習もあり、庭園樹としても好まれ、よく植栽されます。雌雄別株とされますが、「雄花」と「雌花」が別の木に咲く、というわけではなく、雌株に咲く花は、2本の雄しべと1本の花柱(雌しべ)がある両性花です。一方、雄株の花にも花柱はありますが、成熟することはなく、雄しべが花粉を出した後は花と共に萎れてしまいます。果実は長さ1~1.5cmほどの楕円形で、翌年の6~7月頃に紫黒色に熟します。ちょうど同じモクセイ科の樹木であるネズミモチの果実(長さ0.8~1cm)を大型にしたような色合い、大きさです。
▲果実はネズミモチの果実を大型にしたような、紫黒色で、長さ1~1.5cmほどの楕円形で6~7月に熟す。 | ▲葉の刺は非常にするどく、不用意に触ると人の皮膚にも容易に突き刺さり、痛む(疼ぐ)。 |
「ヒイラギ」の名は、ひりひり、ずきずきと痛むことを古語で「ヒヒラク/ヒビラグ/ヒイラグ」と言い、本種の葉の刺が鋭く、手などに刺さるとひりひりと痛むことから、「ひいらぐ木」の意味であるとされます(木村陽二郎 監修,植物文化研究会 編.2005.図説 花と樹の事典.柏書房.p.373)。また、ヒイラギの漢字は「柊」で、木偏に「冬」と書きますが、冬に花が咲く木だから…というわけではなく、ひりひり、ずきずきとした痛みのことを「疼痛」というように、「ひいらぐ」は「疼ぐ」と書き、「やまいだれ」を、木偏に換えて「柊」とした(加納善光 著.2008.植物の漢字語源辞典.東京堂出版.p.43)とされます。また、近年では行われることが少なくなりましたが、イワシの頭の悪臭と、本種の葉の刺が鬼(邪気)を祓うとされ、2月の節分の日には、本種の枝にイワシなどの頭をさしたものを戸口に飾る風習がありました。本種ではなく、トベラ科のトベラを使う地域もあることから、常緑の質の厚い葉で、火に入れた際にパチパチと音を立てることが重要であるとする説もあります(湯浅浩史.1993.植物と行事 その由来を推理する.朝日新聞社.p.43-49)。いずれにしても、本種は古来より魔を祓う力のある樹木として信じられ、古事記には、ヤマトタケルノミコトが東征に出立する際、「比比羅木(ひひらぎ)の八尋の矛」を天皇より賜ったという記述がありますが、これも、本種に邪気を祓う力があることを下敷きとして「八尋の矛」が邪気を祓う特別な矛であることを示しています。
なお、葉に刺のある植物には、植物の分類に関係なく、「※※ヒイラギ/ヒイラギ※※」といった名がつけられることが多く、例えば、クリスマス飾りとして使われる赤い実のついた「セイヨウヒイラギ」は、モクセイ科ではなく、モチノキ科の樹木です。
(2017.2.4)
▲葉の歯牙は、木が年を経ると、だんだんと小さく目立たなくなり、最終的には全縁の葉となる。 | ▲クリスマス飾りに使われる「セイヨウヒイラギ」は、モチノキ科の樹木。写真は中国原産のヤバネヒイラギモチ。(写真提供:植物園ボランティア) |