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おかやまの植物事典

ハマウツボ(ハマウツボ科)  Orobanche coerulescens

環境省レッドリスト2020:絶滅危惧Ⅱ類 / 岡山県版レッドデータブック2020:絶滅危惧Ⅱ類

春、地中より出現して、紫色の花を咲かせる。 後ろの糸状の葉が寄主植物のカワラヨモギ。 花は唇形、開口部からは白色で先が膨らんだ雌しべの先端がのぞく。 全体に白い軟毛が多い。
▲春、地中より出現して、紫色の花を咲かせる。 後ろの糸状の葉が寄主植物のカワラヨモギ。 ▲花は唇形、開口部からは白色で先が膨らんだ雌しべの先端がのぞく。 全体に白い軟毛が多い。

 
ハマウツボは、北海道から沖縄まで、全国の海岸や川原の砂地に生える「寄生植物」です。 国外では中国、朝鮮半島、シベリアからヨーロッパ東部に分布します。 、4~5月頃、白い軟毛に覆われた黄褐色の茎が地中より出現し、10~25cm程度にまで伸長します。 茎の上部は花穂となっており、紫色で長さ2cm程度の筒状の花を多数咲かせます。 花の先は唇形(花の先が上下の2片に分かれており、唇のような形をしている)となっており、上唇は浅く2裂し、下唇は3裂します。 花柱(雌しべ)は白色で、先端は膨らんで浅い凹みがあり、花の開口部付近まで長く伸びています。 雄しべは花筒の内部に付着した状態で外部からは見えません。

本種は他の植物から養分を奪って成長する寄生植物ですが、寄生植物の中にも、光合成色素を持ち、自分でも養分を獲得できる「半寄生植物」と、光合成色素を持たず、生育に必要な全ての養分を寄主植物(寄生されている植物)から得る「全寄生植物」があり、本種は後者で、根に形成した「吸器」という器官で寄主植物の根の組織と繋がっています。 光合成を行わないため、葉は長さ1~1.5cm程度の鱗片状に退化しています。 本種の寄主植物はキク科のヨモギ属の植物で、特に、河川敷や海岸の砂地に生育するカワラヨモギ Artemisia capillaris という植物を主な寄主としていますが、ヨモギ(広義)に寄生していると思われるものもしばしば観察されます。 丘陵の草地に生育するオトコヨモギ A. japonica に寄生するものは、全体に毛が少なく、品種オカウツボ f. nipponica として区別されます。

根に形成した吸器という器官で寄主植物から養分(水分含む)を得ているため、地下には通常の植物のような細根はない。 自分で光合成をおこなわないため、葉は1~1.5cm程度の鱗片状に退化している。
▲根に形成した吸器という器官で寄主植物から養分(水分含む)を得ているため、地下には通常の植物のような細根はない。 ▲自分で光合成をおこなわないため、葉は1~1.5cm程度の鱗片状に退化している。

 

地上に出現した個体は、開花したのちは茶色に枯れ、黒色で網目模様のある直径0.5mmにも満たない種子を散布します。 地上に落ちた種子はそのままでは発芽せず、土砂の移動に伴って地中に埋まった状態で休眠しています。 小さな種子のため、内部の貯蔵養分は少なく、発芽後は速やかに寄生先を見つける必要があると思われますが、どのようにして特定の植物の根に寄生するのでしょうか。 同属の外来種、ヤセウツボ O. minor などの場合には寄主植物が根から分泌するストリゴラクトンという植物ホルモンの一種に反応して発芽することが知られており、おそらくは本種の場合も同様に、種子の近くに伸長してきた(あるいは土砂とともに種子が移動した際に)寄主植物の根から同様の化学的信号を受け取り、発芽・寄生を行っていると推測されます。

「ハマウツボ」は漢字では「浜・空穂/靫(靭)」と書きます。「空穂/靫(うつぼ)」とは、かつて武士が矢を入れて持ち歩くために用いた武具の一種です。 同じ用途の「箙(えびら)」と混同されることもありますが、厳密には「空穂」は矢を雨に濡らさないように覆いの付いたカプセル状のものを指すようです。 和名の由来としては、シソ科で紫色の花を咲かせるウツボグサに花が似ていて、砂浜に咲くからとも、本種そのものが「空穂」に似ているからとも言われます。

種子は黒色で非常に小さい。 土砂の移動に伴って地中に潜り、寄主植物の根へ寄生するチャンスを待つ。 「うつぼ」とは、矢を入れる武具の一種。 写真は仙台市立博物館 所蔵の「白猪毛靭(しろいのげうつぼ)」
▲種子は黒色で非常に小さい。 土砂の移動に伴って地中に潜り、寄主植物の根へ寄生するチャンスを待つ。 ▲「うつぼ」とは、矢を入れる武具の一種。 写真は仙台市立博物館 所蔵の「白猪毛靭(しろいのげうつぼ)」

 

本種の種子を採取し、カワラヨモギの根に付着させてやると、比較的簡単に寄生させることができます。 しかしながら、本種が寄生したカワラヨモギの株は非常に弱りやすく、場合によっては枯死することも珍しくありません。 寄生植物である本種が安定して生育するためには、健康な(本種が寄生していない)カワラヨモギが同所的に生育している必要がありますが、そのためには、十分な広がりがある砂浜や砂質の河原など、カワラヨモギ群落が成立可能な環境が必要です。 しかし、そのような自然環境は全国的に減少しており、本種は環境省、岡山県どちらのレッドリスト/レッドデータブックでも「絶滅危惧Ⅱ類」とされています。 岡山県以外でも、絶滅危惧種としている都道府県は少なくありません。

2024年現在、重井薬用植物園では、総社市の高梁川の河川敷および、岡山市の吉井川の河川敷において本種の保全活動を行っています。 吉井川の河川敷では地元の保全団体「吉井川 ハマウツボ・ネットワーク」と連携・協力をしながら保全活動を行っています。 吉井川での活動は2010(平成22)年に吉井川畔でわずかに生育が確認された本種を、同地域産のカワラヨモギと共に増殖を図っているもので、現在では岡山市東区西大寺浜にある保護地では毎年、かなりの数の開花が見られるようになっており、この保護地は、2021年に岡山市の「身近な生きものの里」に登録されています。 

(2024.5.19 改訂)

ヨモギに寄生していると思われる、開花前の株。カワラヨモギを寄主とすることが多いが、ヨモギに寄生する場合もある。 同属の外来種、ヤセウツボ O. minor 。 キク科の他、マメ科、セリ科など幅広い植物に寄生する。
▲ヨモギに寄生していると思われる株。 カワラヨモギが主な寄主だが、ヨモギに寄生する場合もある。 ▲同属の外来種、ヤセウツボ O. minor 。 キク科の他、マメ科、セリ科など幅広い植物に寄生する。

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