▲日本全国に分布するつる性の多年草で、8月頃、葉の腋から花序を出して多数の花を咲かせる。 | ▲葉は長卵形で対生。基部は心形(ハート形)で先はとがる。ヤマノイモの葉に似ているので「イモ」か? |
ガガイモは、北海道から九州まで、日本全国の日当たりのよい原野に生育する、つる性の多年草です。国外では中国の一部を除くほぼ全土と朝鮮半島、隣接するロシアの一部に分布します。地下に長い地下茎を伸ばして広がりますが、「芋」のような塊茎とはなりません。葉は対生して全縁(ふちにギザギザがない)、無毛、長さ5~10cm、幅3~6cmの長卵形で、葉の裏はやや白っぽく(白緑色)、基部は心形(ハート形)、葉の先は細く尖ります。草刈りをされて再生したような個体ではかなり葉が細くなることもあり、生育環境によって葉形は変異が多く、ヤマノイモの仲間や、ウマノスズクサ、アオツヅラフジといった他の植物と似た葉形となることもありますが、茎や葉を傷つけると白い乳液が出ますので、初心者の方でも簡単に見分けることができます。花期は8月頃、葉の腋から花序を出して直径1cmほどの薄紫の花を多数咲かせます。花冠は肉質で5裂し、裂片には縦に「谷折り」されたような溝がありますが、ほとんど溝のない花も見られます。花の内側には白い毛が密生しています。花後には表面にイボ状の突起を持つ、およそ長さ10cm、幅2~3cmの果実ができますが、花数の割に結実率は低く、花が咲いていても実が見られないこともあります。果実は晩秋~初頭に縦に割れて、白い絹糸のような毛足の長い綿毛を持つ種子を風で散布します。
本種は旧来の植物の分類体系(新エングラー体系)では、ガガイモ科とされていましたが、近年の遺伝子解析を用いた新しい分類体系(APG分類体系)では、ガガイモ科はキョウチクトウに近縁であることが分かり、キョウチクトウ科とされています。本種の仲間は、種類によって成分に多寡はあるものの、有毒植物として有名なキョウチクトウと同様、植物体にアルカロイドなどの化合物を含んでおり、有毒植物として扱われることもありますが、同時に薬用植物としても利用されます。本種も、全草の漢名/生薬名を「蘿摩(らま)」と言い、種子を乾燥させたものを「蘿摩子」として薬用とします。
「ガガイモ」の名の由来には諸説ありますが、本種は古名を「加々美(かがみ)」といい、「古事記」には大国主神の国造りに協力した小人の神様、少彦名神が「天之蘿摩船(あめのかがみぶね)」に乗って海からやってきたという場面があります。割れた本種の果実は、確かに小さな船のような形をしており、古くから果実を含めて良く知られていた植物であったようです。この古名の「かがみ」に、果実の形がサトイモなどの芋を連想させるので、「イモ」と付け加えられ、「カガミイモ」が「ガガイモ」に転じたとされていますが、本種を観察していると、果実を「イモ」の由来とするよりは、葉がヤマノイモの仲間の葉に似ているため、と考える方が可能性が高いように思えます。
▲茎や葉を傷つけると白い乳液が出てくることがガガイモの仲間の特徴である。 | ▲開花間もない花。花冠は5裂し、裂片には中央に溝がある。内側には白い毛が密生する。 |
「かがみ」の由来については難しく、「種子が出た後の果実の内面が鏡のように光沢があるため」とか、「種子の綿毛で鏡(銅鏡)を磨いたので」などと解説されることもあります。しかし、果実の内部はすべすべしてはいるものの、鏡を連想するほど光沢はありません。また、綿毛を鏡を磨くのに用いた、という説については、否定する材料はありませんが、正しいと言える材料もありません。もっとも、本種の綿毛は「キワタ(インドワタノキ)」の綿(別種のパンヤノキと混同され、パンヤ綿と呼ばれる)の代用として印肉や針挿しに用いられたので、本種には「クサパンヤ(草パンヤ)」との別名があります。かつては本種の綿毛は様々に利用されていたようですので、鏡を磨いたというのもありえる話かもしれません。また、綿毛を取った後に残る種子を「ゴマ(胡麻)」に例えて、「ゴマミ(胡麻実)」→「ゴガミ」→「ガガミ」となった、という説(中村浩.1998.植物名の由来(第2版).東京書籍)もあります。また、インターネット上では「ゴガミ」とは亀のことで、方言で「ガガ」と呼ぶ地方があることから…という説も流布されていますが、これは「ゴガミ/ガガ=亀」を裏付ける史料がまったく見つからず、根拠に乏しいようです。ミツガシワ科の水草で、ガガブタ Nymphoides indica という植物もありますが、こちらは葉が丸いことから「鏡の蓋=カガミブタ」が由来とされており、本種の「ガガ」とは直接関係はないようです。ただ、本種の古名が「加々美」であることからすると、「カガミ」の音は「ガガ」と訛りやすいのかもしれません。
本種は当園周辺でも普通に見られる植物で、園内でもあちこちに生育しています。油断すると他の植物に絡みついてしまいますので、草刈りや草取りの際には雑草扱いで刈ってしまいますが、フェンスに絡みついて生育しているものは残すようにしており、毎年、多くの花と、いくつかの果実をつけ、見学者や観察会の際の観察対象となっています。
(2014.8.27)
▲花数が多い割に果実は少ない。果実の表面にはイボ状の突起がある。 | ▲果実は晩秋から初冬ごろ、縦に割れて白い長毛をもった種子を風で飛ばす。 |