環境省レッドリスト2017:絶滅危惧Ⅱ類/岡山県レッドデータブック(2009):絶滅危惧Ⅱ類
▲濃紫色の花を多数咲かせた、花期のフナバラソウ。当園のように群生状態になることは珍しい。 | ▲果実は晩秋に熟し、大きく裂けて長毛をもった種子が散布される。この果実の姿を「舟の腹」に例えた。 |
フナバラソウは北海道から九州の日当たりが良く、乾燥した草地や林縁などに生育する、ややまれな多年草です。国外では朝鮮半島および中国、ロシア東部に分布します。本種は従来のエングラー分類体系ではガガイモ科とされていましたが、最近用いられるようになったAPG分類体系では、ガガイモ科の植物は、本種も含めてすべてキョウチクトウ科として扱われるようになっています。
茎は分岐せず高さ40~80cmほどになり、葉は長さ6~14cm程度の卵形で対生し、葉裏には葉脈が隆起しています。植物体全体にビロード状の軟毛が生えていますが、葉の裏の脈上には特に毛が目立ちます。花は5~6月頃、葉腋(葉のわき)に多数の濃紫色の花を咲かせます。花弁は5裂しており肉厚で、外面には短毛が生えますが、内面は無毛です。葉腋ごとに花が束になって付き、一つの花は数日~1週間ほど咲き続けるので、比較的長い間花を見ることができます。しかし、花数の割に結実に至る割合が低いのが、この仲間(カモメヅル属)の植物に共通した特徴のようで、咲き終わった花は多くがそのまま落下し、一つの株にまったく実がつかない、ということも珍しくありません。むしろ本種の場合は結実しないのが普通で、結実することの方が珍しいというほうが適切かもしれません。
▲白色の長毛を持つフナバラソウの種子。最初は束状にまとまっているが、徐々に乾燥してくると綿毛状になる。 | ▲葉裏の様子。植物体全体に軟毛が密生しビロード状となるが、葉裏の隆起した脈状には特に毛が目立つ。 |
本種の和名を漢字で書くと「舟腹草」で、本によっては「 “果実の形”が舟の腹(胴体部分)に似ているので」と解説してあるものがありますが、果実は未熟な段階では紡錘形で、舟というよりロケットのような形をしており、あまり舟には似ていません。この果実の内部には白い長毛のついた種子がはいっており、種子が熟すと果実(果皮)は乾燥して縦に割れ、中の種子は風で散布されるのですが、この割れた果実の様子がまるで小舟のようであることから、その名が付いたということのようです。なお、中国では、芳香のある根が白く、「薇(ゼンマイ)」に似ていることから「白薇(びゃくび)」と呼ばれており、漢方では乾燥させた根を解熱・利尿効果のある生薬として用いられます。
▲フナバラソウの花。花弁は肉厚で、外面には短毛が生え、内面は無毛。先は5裂する。 | ▲未熟なフナバラソウの果実。この時点では舟にはあまり似ていないが…。 |
岡山県では県の西部よりに点々と記録があり、かなり分布域は広い植物ですが、群生することはまれで、ほとんどの場合は1~3株程度がぽつんと生育します。しかし、岡山県北部の火入れが行われているような半自然草地では数十株が群生する場所もあり、大規模な草原が本種の本来の生育環境であろうと考えられます。多くの生育地で個体数が少ないのは、採草地などの半自然草地に生育していた集団の名残だからなのかもしれません。当園では1983年に山野草愛好家の方から頂いたものを植栽していますが、本種には珍しく株分かれを盛んにして群生状態になっており、花を毎年観察できるほか、毎年ではないものの、しばしば結実も見られて「舟腹」を観察することができます。
(2017.5.21 改訂)
▲種子を散布し終わったフナバラソウの果実。大きく裂けた姿は確かに舟のようだ。 | ▲火入れの後に芽吹いたフナバラソウ。一定の面積がある草原に生育するのが本来の姿だと思われる。 |