▲5~6月頃、5深裂した直径2.5cmほどの純白の花を垂れ下がるように咲かせる。 | ▲高さ7~8mほどの小高木。花付きが良い場合には枝に雪が降り積もったよう。庭園樹としても良く植栽される。 |
エゴノキは北海道から沖縄までの日本全国の山麓、谷部などに生育する、高さ7~8mほどになる落葉小高木です。国外では朝鮮半島から中国、東南アジアにまで広く分布します。5~6月頃、新枝の先に直径2.5cmほどの純白の花が1~4個づつ垂れ下って咲きます。一見、5弁花(花びらが5枚)のように見えますが、筒状の花冠が5深裂した花です。花には長さ2~3cmの柄があり、花冠外面には星状毛が密生しています。雄しべは10本で花冠よりやや短く、雌しべは雄しべより長く、雄しべの中から突き出しています。花の数は個体の生育状態や年によって変動がありますが、花付きが良い場合には、まるで雪が降り積もったように木全体に多数の花を付けます。枝ぶりが比較的平面的なため、下から見上げると頭上に一面の花が広がり、まるでシャンデリアのような美しさです。それほど大木にならず、花が美しいため、しばしば庭園樹としても植栽されることがあります。花は下垂しているため、チョウなどはほとんど訪花せず、下から花にしがみつけるキムネクマバチなどハナバチの仲間が訪花しているのをよく見かけます。
▲枝ぶりが平面的なため、下から見上げると特に美しい。花にはキムネクマバチなどハナバチ類がよく訪花する。 | ▲果実は直径1cmほどの緑白色~灰白色の卵球形。8~9月頃に果皮が縦に割れ、褐色の種子がむき出しとなる。 |
果実は直径1cmほどの卵球形で表面には星状毛が密生し、若いうちは緑白色、8~9月頃に熟すと灰白色となり、果皮が縦に割れて内部から褐色の種子が姿を現します。果皮にはエゴサポニンという有毒成分を含み、誤食したばあいには咽頭を刺激して大変に「えごい(=えぐい)」ことが和名の由来ともなっています。サポニンには界面活性作用があり、水に溶けると石鹸のように泡が立ちます。かつてはこの性質を利用し、天然の洗濯洗剤として用いたほか、地方によってはしぼり汁を川に流して魚を捕る(毒流し漁:現在では全国的に禁止されている)にも利用されていたといいます。ただし、魚にとっては致命的な毒というわけではなく、界面活性作用によって一時的に麻痺、気絶させる程度の弱いものであったようです。
葉は互生で長さ4~8cm、幅2~4cm程度、先が尖った卵形で基部はくさび形、ふちにはごく浅い鋸歯があるか、ほぼ全縁となります。裏面は淡緑色で脈腋に毛叢(毛が密生している部分)があります。時に枝先に小さなバナナの房のような形のものができ、しばしば果実と間違える人がいますが、これはその姿を「猫の足」に例えて、「エゴノネコアシ」といい、エゴノネコアシアブラムシというアブラムシの仲間が、エゴノキの冬芽に寄生してつくる、虫えい(虫こぶ)です。
▲葉は枝に互生し、長さ4~8cm、幅2~4cm程度の卵形。裏面の脈腋には毛叢(毛が密生している部分)がある。 | ▲枝先にできた「エゴノネコアシ」。アブラムシの一種が寄生してつくる「虫えい(虫こぶ)」である。 |
樹皮は萌芽(ひこばえ)など若い幹・枝では暗紫褐色、やがて淡黒色となります。概ね平滑ですが、古くなると浅く縦の皮目が入ります。材は黄白色、均質で粘り強く割れにくいため、将棋駒やこけしなど木製玩具などの加工品に使用され、ろくろ細工をするので、あるいは番傘の骨をまとめる「ろくろ」という部品に使われるので、「ろくろ木」などの名があります。岡山県北部の蒜山地域では「ちない」とも呼ばれ、「かんじき」の最上の材料として用いられていました。
古くは「山ちさ」と呼ばれ、万葉集など和歌にも詠まれて登場します。また、学名の命名者名は Siebold et Zucc.となっており、幕末期に長崎の出島を舞台に活躍した、医師であり博物学者であったシーボルトと、シーボルトが日本で収集した植物標本を分類したドイツの植物学者、ツッカリーニの2人が命名者となっています。シーボルトは、著書「フローラ・ヤポニカ(日本植物誌)」において、本種を「日本の低木の中でも最も美しいものの一つ」(大場秀章 監修・解説.2007.シーボルト『日本植物誌』〈本文覚書篇〉.八坂書房.p.55)と紹介しており、いつの時代にも、どのような人にも広く愛された樹木であるようです。
(2018.5.19 改訂)
▲樹皮は概ね平滑だが、老木になると縦に皮目が入る。写真の白い模様は地衣類によるもの。 | ▲粘りがあり割れにくい材の特徴を利用し、岡山県北ではかんじきの材料に使用された。(写真は復元制作の様子) |