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おかやまの植物事典

エドヒガン(バラ科) Cerasus itosakura

3~4月、葉の展開より先に花が咲く。 写真は当園の温室エリアに植栽されているエドヒガン(高知県産)。 花は直径1.5~2cm、花弁の先端には切れ込みがある。 花色は個体差や生育環境により白色から淡紅色のものまで様々。
▲3~4月、葉の展開より先に花が咲く。 写真は当園の温室エリアに植栽されているエドヒガン(高知県産)。 ▲花は直径1.5~2cm、花弁の先端には切れ込みがある。 花色は個体差や生育環境により白色から淡紅色のものまで様々。

 

エドヒガンは本州・四国・九州の山地に生育する高さ20m、幹の直径は1m以上になる落葉高木です。 国外では朝鮮半島南部、済州島にも分布します。 野生のサクラの仲間としては特に寿命が長い種類で、大木となったものは、隠岐に配流される途中の後醍醐天皇が立ち寄り、賞賛したという伝説がある岡山県真庭市別所の「醍醐桜」(岡山県天然記念物)のように、各地で名木として天然記念物などに指定されるなど、大切にされています(なお、醍醐桜の伝説については、かなり最近になってからの創作という見解もあります)。 岡山県下では南部から北部まで分布していますが、県中部の吉備高原地域あたりがやや生育数が多くなっているようです(狩山俊悟.2009. 岡山県の樹木図鑑.倉敷市立自然史博物館.p.34)。 多いといっても、ヤマザクラ C. jamasakura やカスミザクラ C. leveilleana などと比較すれば生育数ははるかに少なく、点々と生育が見られる、という程度です。

花期は3~4月で、ヤマザクラなどより一足早く咲き、葉の展開より先に開花します。 花は2~5個が散形状に着き、白色~淡紅色、直径1.5~2cm程度、花弁は5枚あり、花弁の先端に切れ込みがあります。 花柱の基部付近には上向きの毛が多く生えています。 花の萼筒は紅紫色、花柄とともに開出毛が密生しています。 萼筒の基部は球状にふくらんでおり、上部(萼の下部)は細くくびれた形状となっています。 花弁が丸くふくらんだ咲きかけの蕾の姿が、まるでヒョウタンの実のようにみえるということで、高知県の仁淀川町などでは、本種を「ひょうたんざくら」と呼んでいるようです。 この独特な萼筒の形状は本種の大きな特徴であり、他のサクラの仲間との良い区別点です。 花後には直径1cmほどの果実ができ、5~6月ごろに黒色に熟しますが、渋みがあり、人間が食べるには適しません。 なお、サクラの仲間には同じ株の花粉では受粉しない性質(自家不和合性)があるため、園内に1株のみ植栽されている当園では結実がみられません。

萼筒は紅紫色で花柄とともに毛が多い。 咲きかけの蕾の姿がヒョウタンの実のようなので「ひょうたんざくら」と呼ぶ地域も。 葉は互生、長さ6~12cmの長楕円~狭倒卵形、基部に1対の蜜腺がある。 葉柄は2~2.5cm程度、上向きの毛が生える。
▲萼筒は紅紫色で花柄とともに毛が多い。 咲きかけの蕾の姿がヒョウタンの実のようなので「ひょうたんざくら」と呼ぶ地域も。 ▲葉は互生、長さ6~12cmの長楕円~狭倒卵形、基部に1対の蜜腺がある。 葉柄は2~2.5cm程度、上向きの毛が生える。

 

葉は互生、長さ6~12cm、幅3~5cmの先の尖った長楕円形~狭倒卵形、縁は粗い重鋸歯で、鋸歯の先は腺になっています。 葉の表面は軟毛が散生、裏面は脈に沿って開出毛が生え、基部は広いくさび形で1対の蜜腺があり、葉柄は長さ2~2.5cm程度で上向きの毛が密生しています。 樹皮は若い木では灰褐~暗灰褐色でやや光沢があり、皮目は横方向ですが、成木の樹皮は暗灰褐色で縦方向に浅い裂け目が入ります。

和名は「江戸彼岸」の意味で、 かつて江戸で多く植えられ、春の彼岸の頃に開花することに由来します。 別名としてアズマヒガン(東彼岸)、花期に「葉(歯)がない」ことからウバヒガン(姥彼岸)などとも呼ばれます。 実は日本の野生の「ヒガンザクラ」は本種1種のみですが、本種とオオシマザクラ C. speciosa との雑種である代表的な栽培品種、ソメイヨシノ(染井吉野) C. ×yedoensis のほか、本種とマメザクラ C. incisa あるいはキンキマメザクラ C. incisa var. kinkiensis との雑種とされるコヒガンザクラ(コヒガン・小彼岸) C. ×subhirtella など、本種を親に持つ園芸種(品種)は数多く存在します。 それら園芸種も葉の展開に先立って花が咲き、展葉とともに花が散る、本種の特徴を引き継いでいるものが多いようです。 いわばエドヒガンこそが、現在、私たちが「サクラらしい」と感じる特徴を生み出した、と言えるのかも知れません。 また、シキザクラ(四季桜)またはジュウガツザクラ(十月桜)などと呼ばれる、春だけでなく秋頃にも花を着けるものも、コヒガン系の園芸品種です。

若い木の樹皮はやや光沢があり、横方向に皮目がある(写真左)が、成木の樹皮は縦方向に浅い裂け目が入る(写真右)。 後醍醐天皇が賞賛したという伝説がある岡山県真庭市別所の「醍醐桜」。 エドヒガンの古木で、胸高直径は7mを超える。
▲若い木の樹皮はやや光沢があり、横方向に皮目がある(写真左)が、成木の樹皮は縦方向に浅い裂け目が入る(写真右)。 ▲後醍醐天皇が賞賛したという伝説がある岡山県真庭市別所の「醍醐桜」。 エドヒガンの古木で、胸高直径は7mを超える。

 

学名(種小名)の itosakura は、「糸桜」、いわゆるしだれ(枝垂れ)桜のことを意味しています。 エドヒガンそのものは全く枝が垂れ下がっていないのに、「糸桜」とは違和感がありますが、しだれ桜もエドヒガンの栽培品種のひとつ( 'Pendula' )であり、本種を最初に記載したシーボルトが、しだれ桜を基本として命名したために起こったことのようです。 なお、サクラ類の学名は変遷が激しく、エドヒガンの学名も何度も変更・訂正されていて非常にややこしく、説明が長くなるため、本稿では割愛しますが、興味のある方はぜひ調べてみてください。 ちなみに日本では以前はサクラ属の学名としてはラテン語でスモモを意味する Prunus が主に用いられていましたが、最近は以前のサクラ属をサクラ属とスモモ属に分ける分類が主流になっており、サクラ属の学名はラテン語でサクラを意味する Cerasus が用いられるようになっています。

(2024.3.24)

エドヒガンをもとに、様々な栽培品種が生み出されている。 コヒガンザクラの園芸品種のひとつで花が八重咲きの「クマガイ」。 最も有名なサクラの栽培品種、ソメイヨシノ。 雑種であり、展葉に先立って開花するエドヒガンの特徴を引き継いでいる。
▲エドヒガンをもとに、様々な栽培品種が生み出されている。 コヒガンザクラの園芸品種のひとつで花が八重咲きの「クマガイ」。 ▲最も有名なサクラの栽培品種、ソメイヨシノ。 雑種であり、展葉に先立って開花するエドヒガンの特徴を引き継いでいる。

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