▲春、枝先にスズランのようなつぼ型の花を多数咲かせる。葉は枝の先に集まるようにしてつく。 | ▲日当たりの良い場所に生育するものは、木全体が白く見えるほど多くの花を咲かせる。 |
アセビは、山形県以西の本州、四国、九州の山地に生育する常緑低木~小高木です。明るく、乾燥気味の場所を好み、二次林の低木として比較的普通に見られる樹木です。早春、枝先に長さ10~15cmほどの花序に長さ0.6~0.8cmほどの白色のスズランのような下向きの壺型の花をたくさん咲かせます。日当たりの良い場所に生育する株では、まるで雪が降り積もったように大量の花を咲かせることもあります。花が可愛らしく、剪定にも強いことから、しばしば庭園などにも植えられる樹木で、花冠が紅色を帯びる園芸品種もあります。花期は普通、3~4月頃ですが、岡山県南部など温暖な地域では2月頃より開花を始めます。葉は葉は枝の先に集まるようにして付き、やや厚く、長さ3~10㎝、幅1~2cm程度の倒披針形で先は尖り、縁には浅い鋸歯があります。葉の表面は濃緑色で光沢があり、裏面は淡緑色をしています。果実はさく果で、直径0.5cm程度の扁球形で花の向きとは逆に上向きとなり、秋に裂開して種子を散布します。風で枝が揺れた際などに果実からこぼれ落ちますが、春咲きまで種子が残っている果実も珍しくありません。樹皮は灰褐色で、縦に裂け目が入り、ややねじれます。
▲葉は厚みがあり、表面は濃緑色、裏は淡緑色。葉の縁には浅い鋸歯がある。 | ▲果実は直径0.5cm程度の扁球形。秋に裂開して、種子を散布する。 |
本種の花冠を縦に裂いて、内部の様子を見てみますと、花柱(めしべ)の周りを雄しべが取り囲んでおり、雄しべの葯には、細い刺状突起がついています。花の内部にもぐりこんだ小昆虫がこの突起に触れると、葯から花粉がこぼれるようになっており、確実に昆虫に花粉をつけ、他の花に運ばせるための工夫であると考えられています。
▲種子は長さ3mm弱の細長い形をしている。春先まで、果実の中に種子が残っていることも多い。 | ▲樹皮は灰褐色、縦に細かく裂ける。少しねじれたようになるものも多い。 |
本種は「馬酔木」と書いて「アセビ」と読みますが、「胡桃:クルミ」などのように、漢名に和名を当てたというわけではなく、「馬酔木」は日本で作られた漢字表記で、アセボトキシンなどの有毒アルカロイド成分を含み、馬が誤って食べると、中毒を起こして酔ったようにフラフラになることに由来するとされます。今日では、中国にも逆輸入され、中国でも本種を「馬酔木」と表記するようになっているそうです(湯浅浩史.2004.植物ごよみ.朝日新聞社.p.57)。対して読みの「アセビ」の名は、万葉集にも登場しますが、由来には諸説あり、中毒すると馬の脚が痺れることから「脚痺れ」を意味する「アシジヒ」が変化したという説、「悪し実=アシミ」が変化したという説などがあります。かつては、本種の煎じ汁を用いて牛馬を洗い、シラミやダニ退治をしたといい、農作物に付く害虫退治や、汲み取り式便所のウジ殺しとしても用いたそうです(湯浅浩史.2004.植物ごよみ.朝日新聞社.p.58)。本種は、有毒植物ではありますが、有用植物であったといえるでしょう。放牧地やシカなどの生息地では、動物に食べられないため、本種などの有毒植物ばかりが残っている場所がしばしば見られます。通常、動物が本種を「誤って食べる」ということはなかなかないようですので、煎じ汁で牛や馬の体を洗っている際に、煎じ汁を誤って舐めてしまった、と考える方が、中毒の原因としてはありそうな気がします。
当園内には、古屋野名誉園長が1990年に新見市草間の山中で見つけ、挿し木で増殖した、紅色の蕾が付く株を植栽していますが、これは園芸種ではなく、蕾(がく片)が紅色で花は白色の、ちょっと変わった野生種です。時に普通の緑色のがく片の花序が枝変わりで出現することもあります。
(2015.4.3 改訂)
▲花の断面。雄しべの葯には2本の刺状突起があり、昆虫が触れると葯から花粉がこぼれる。 | ▲植物園に植栽されている株。蕾が赤色を帯びるものと淡緑色のものが枝変わりで咲いている。 |
▲2004年2月1日 | ▲2004年3月9日 |
▲2004年3月13日 | ▲2004年4月1日 |