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おかやまの植物事典

アベマキ(ブナ科) Quercus variabilis

高さ20mを超えることもある落葉高木。瀬戸内地域では雑木林の主要な構成樹種である。 樹皮は分厚いコルク質が発達し、深い縦の皮目がある。和名はこの樹皮を「あばた」に見立てたもの。
▲高さ20mを超えることもある落葉高木。瀬戸内地域では雑木林の主要な構成樹種である。 ▲樹皮は分厚いコルク質が発達し、深い縦の皮目がある。和名はこの樹皮を「あばた」に見立てたもの。

 

アベマキは、本州、四国、九州に分布し、高さ20m、直径50cmを超える大木になることもあるブナ科コナラ属の落葉高木です。 本州における分布は山形県以西とされますが、東日本には少なく、西日本、特に岡山県など山陽地方の瀬戸内海沿岸地域に多い樹木です。 岡山県南部ではもっともよく見られる樹木のひとつであり、雑木林の主要な構成樹種です。 樹皮は分厚いコルク質が発達し、深い縦方向の皮目を形成します。 このコルク質の樹皮は、高温乾燥の気候に耐えるために発達したと考えられています。若木や生育状況によってはコルク質の発達が悪く、他種と紛らわしい場合もあります。

岡山県南部の雑木林において本種と同様によく見られるドングリの木にコナラ Q. serrata がありますが、コナラは本種よりも乾燥に弱いようで、岡山県南部の山地では、南向き斜面はコナラがほとんど出現せずに本種ばかりが生育し、北向き斜面ではコナラが普通に生育するような場所も見られます。 また、時に本種を中国山地の比較的標高の高い場所で見かけることがありますが、戦前~戦中に、樹皮からコルクを採るために本種の植栽が奨励された時期があり、そのころに植栽された名残である可能性が高く、自然分布として扱うには疑問があります。 なお、東日本に多い近縁種のクヌギ Q. acutissima は岡山県内では中~北部に分布しているものの、生育数はかなり少なく、めったに出会うことはありません。

葉は長さ12~17cmの披針形または長楕円状披針形。葉表面は展葉直後は毛があるが、成葉の表面は無毛。 葉裏には灰白色の星状毛が密生する。この毛は落葉後も残り、他種との良い識別点となる。
▲葉は長さ12~17cmの披針形または長楕円状披針形。葉表面は展葉直後は毛があるが、成葉の表面は無毛。 ▲葉裏には灰白色の星状毛が密生する。この毛は落葉後も残り、他種との良い識別点となる。

 

葉は長さ12~17cm、幅3~5cm程度の披針形または長楕円状披針形、側脈の先端は2~3mmの芒状となって突出します。 葉の表面には展葉直後には軟毛がありますが、やがて脱落して無毛となります。葉の裏面は星状毛が密生して灰白色となります。 クリやクヌギの葉も本種の葉とよく似た形状になることがありますが、クリとクヌギの葉裏には展葉直後には毛があるものの、成葉になると脱落し、淡い緑色になります。 またクリの葉縁は芒にはならず、緑色の鋭い鋸歯となります。

アベマキ(左)とクリ(右)の葉縁。アベマキは側脈が突出し芒となるが、クリは突起が緑色をしている。 上からコナラ、アベマキ、クリの葉裏。クリ(とクヌギ)は葉脈上に毛がある程度で、淡緑色。
▲アベマキ(左)とクリ(右)の葉縁。アベマキは側脈が突出し芒となるが、クリは突起が緑色をしている。 ▲上からコナラ、アベマキ、クリの葉裏。クリ(とクヌギ)は葉脈上に毛がある程度で、淡緑色。

 

花は雌雄異花(雄花と雌花がある)で、4~5月に葉の展開と同時に咲き、花粉が風で散布される風媒花です。 雄花序は長さ10cmほどのひも状で新枝の下部に垂れ下がるように付き、雌花は新枝の先端寄りの葉腋に一個づつ付きますが、非常に小さく、目立ちません。 堅果(ドングリ)は、花が咲いたその年の秋ではなく、翌年の秋に熟して落下します。 ドングリは直径1.5~2cmの球形をしており、殻斗(ドングリの帽子/お皿)は、直径3cmほどで屈曲した針状の突起(総苞片)が多数密生しています。 この突起は木質で触っても痛くはありません。 落下したドングリは秋のうちに速やかに発根し、春までに30cmほども根を伸長させますが、地上部に葉が展葉するのは翌春になってからです。 また、どんぐりのお尻に穴をあけ、爪楊枝などを挿すと「どんぐりごま」として遊ぶことができます。 本種のドングリは球形であるため、紡錘形のコナラなどのドングリより、どんぐりごまにするのに向いているようです。

和名は、でこぼこした樹皮の様子を「あばた(痘痕)」に例えた、「あばた・まき」を意味する岡山県の地方名が全国的に使われるようになったものとされます。 「まき」は「槙」で、普通はイヌマキ Podocarpus macrophyllus f. angustifolius (マキ科/イヌマキ科) やコウヤマキ Sciadopitys verticillata (コウヤマキ科)など針葉樹を指しますが、本種の「まき」は、薪炭材としての利用から「薪」か、役に立つ樹木の意味で「真木」と呼んだものと思われます。 

(2022.10.14 改訂)

花は雌雄異花で、雄花序はひも状で新枝からぶら下がる。雌花は新枝の枝先に着き、小さい(赤矢印の先にある) ドングリは大型で球形、落下後速やかに発根する。殻斗(帽子)には多数の突起が密生する。左下の穴はシギゾウムシ類の幼虫が脱出した穴。
▲花は雌雄異花で、雄花序はひも状で新枝からぶら下がる。雌花は新枝の枝先に着き、小さい(赤矢印の先にある) ▲ドングリは大型で球形、落下後速やかに発根する。殻斗(帽子)には多数の突起が密生する。左下の穴はシギゾウムシ類の幼虫が脱出した穴。

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