早春の蛾@ スギタニキリガ Perigrapha hoenei |
冬から春にかけて出現するヤガ科の30数種を「春キリ」とよびます。秋から冬に現れる「秋キリ」という仲間もあり、こちらは70種ほどもいます。
両者とも寒い季節に羽化するのは、天敵のコウモリが冬眠中とか、昆虫食の野鳥が南の国に渡っているとか、いろいろ有利なことがあるのだと思います。
今回紹介するスギタニキリガは、春キリの中でも早い時期に現れるグループで、2月下旬から見ることができます。県南部にも広く分布していますので、人家の周辺の灯りが狙い目です。春キリの中では大型であり、また美しい斑紋が魅力的です。灯火にも糖蜜にもよく集まってきて、このガに出会うといよいよ春が来たのだなと実感します。これをスタートに次々と春キリが現われてきます。
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早春の蛾A オカモトトゲエダシャク Apochima juglansiaria |
早春のエダシャクの仲間で、2月下旬から現れますが3月がピークです。とにかく止まり方が面白い。翅は細長く折りたたんだような形をしており、前翅は時計の針の8時20分から10時10分の位置に、後翅は胴にぴったりとくっつけているため、何か枯葉か枯枝が壁に引っかかっているように見えます。
各地に多産し、灯りにもよく集まってきますがこれはオスばかりで、メスは灯りにあまり反応しないためかなかなか出会うことができません。
幼虫は多くの植物の葉を食べますが、黒地の体の中央に白い部分があり、小鳥のフンをまねているように思えます。しかも驚くと体を丸めて動かなくなり、ますますフンそっくりになります。
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早春の蛾B トビモンオオエダシャク Biston robustum |
イギリスの産業革命時に工場の煤煙による大気汚染がひどくなり、オオシモフリエダシャクという蛾の黒っぽいタイプが白っぽいのより有利になったという話を生物の進化の授業で習ったことがあります。工業暗化(黒化)とよばれていますが、疑問点もいくつか残されているため、今も議論が続いているそうです。
さて、今回紹介するトビモンオオエダシャクはイギリスのこの蛾と同じ仲間で、私が高校生の頃にこの蛾を初めて採集した時、イギリスの話が頭に浮かんできました。中型の蛾で胴が太くて長い毛で覆われており、何か力強さを感じます。
3月に出現しますが、灯りに集まってくるのはオスばかりで、これに反応しないメスはなかなか見つかりません。岡山県南の平野部にも広く分布しています。
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早春の蛾C イボタガ Brahmaea japonica |
主に3月に現れる大型のガで、波状線の模様が大変目立ちます。どうしてこのような不思議なデザインが生まれたのかと思ってしまいます。何か近代アートの美術作品を見ているようです。
名前が示すように幼虫はイボタなどのモクセイ科の葉を食べますが、胴の前と後に計7本の紐状の突起があり、これも不思議な姿です。また、終齢幼虫になるとこの突起が消滅してしまうというのも驚きです。寒い季節に現れる蛾は何を食べているのだろうと思われるでしょうが、この時期の蛾は口吻が発達していないものが多く、このイボタガもその機能はないと思います。
県南部にも多く生息し、灯りにもよく集まってきます。
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早春の蛾D オオシモフリスズメ Langia zenzeroides |
3月に現れる超大型のスズメガで、灯りの回りをすごい迫力で飛び回ります。私が子どもの頃に初めて見たときは、コウモリかと思いました。条件がよい夜には多数集まってくることがあり、初対面の方は大興奮間違いなしです。特にメスはオスより一回り以上大きく、広げた翅の幅が16pにもなります。捕まえるとジジジーとかギギギーと音を出して威嚇してきますが、恐ろしいというより可愛らしく感じます。幼虫はウメやモモなどの葉を食べますが、これもビックリするほどの大きさです。明るい緑色で大変美しいイモムシです。
県南では平野部より低山帯付近の方が出会える可能性は高いと思います。
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早春の蛾E エゾヨツメ Aglia japonica |
ヤママユガ科の蛾ですが、巨大なヤママユやシンジュサンに比べると随分小型です。そして、この科で唯一の春にだけ姿を現すタイプです。県南なら3月下旬から羽化して4月上〜中旬にピークを迎えますが、中国山地なら5月にずれ込んでいきます。以前は県の中〜北部が分布の中心と思われていましたが、データが集まるにつれ県南でも少なくないことが分かってきました。私は浅口市鴨方町、矢掛町、倉敷市真備町などで採集・目撃しています。
今回がこのシリーズの最後になりましたが、冬の厳しさではなく春の暖かさを感じさせてくれる美しさで、いよいよ春本番を迎えるという気持ちになります。これ以降は春だけに限らない蛾がたくさん現れてきて、賑やかな夜へと季節が動いていきます。
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