▲9月~10月頃、茎頂に密な散房状の頭花を咲かせる。茎は上部で少し分枝し、急角度で斜上する。 | ▲茎は赤紫色を帯びる。葉は対生し葉柄は短い。茎の上部の葉も主脈まで3深裂する。裂片は細長い形状。 |
本種は、園芸店において、よく「フジバカマ」として販売されているものですが、日本国内の河原など湿った草地に生育する、野生のフジバカマとは姿がかなり異なっています。当園ではこれまで、販売されているタイプの「フジバカマ」を、フジバカマ(野生タイプ) E. japonicum とサワヒヨドリ E. lindleyanum の間の自然雑種である「サワフジバカマ E. × arakianum」にあたるものであろうとして紹介していましたが、これはどうやら間違いで、2017年9月に発刊された「改訂新版 日本の野生植物5 ヒルガオ科~スイカズラ科」 p.367フジバカマの項には、「最近日本で栽培されるものは、野生の型に比べて葉の裂片が細く、上部の葉も全裂し、花序の枝がより急角度で斜上して紅色をおび、花色の濃い型で、これをコバノフジバカマ(ニセフジバカマ)と名付け、E. fortunei Turcz. の学名をあてて区別することもある」とあり、おそらくはこのコバノフジバカマ(ニセフジバカマ)とするのが適当なようです。「日本の野生植物5」では、同時に「中国における変異の大きさを考えるとフジバカマから別種とするのは難しいと思う」とも書かれており、分類学的にどういった扱いになるのかは結論が出ていないようですが、当園においては、日本在来の野生タイプのフジバカマと、国外(中国)を原産地とする外来(園芸)タイプのフジバカマを区別して扱う必要があると考えており、当面は、この外来(園芸)タイプのものを「コバノフジバカマ(ニセフジバカマ)」として扱っていくことにします。
▲頭花は紅色が濃いものが多い(花色が薄く、ほぼ緑色のものもある) | ▲草丈は0.5~1m程度。庭で栽培するには適した大きさである。(2014年10月19日:「植物園を楽しむ会」参加者 撮影) |
園芸店などで「フジバカマ」として販売されているものは、前述したように、河原など湿った草地に生育する日本在来のフジバカマとは姿が異なり、この「コバノフジバカマ」の場合が多いようです。現在、園芸業界で流通しているコバノフジバカマがいつごろ日本に持ち込まれ、栽培されるようになったのかは分かりませんが、以前から「フジバカマは中国原産である」という説があるのは、このコバノフジバカマなど中国などを原産とする外来系統のフジバカマが古くから持ち込まれて栽培され、在来のフジバカマと混同されてしまったために起こった混乱で、正しくは「フジバカマには中国原産のタイプがある」あるいは、「コバノフジバカマのタイプは中国原産である」と言うことなのだろうと考えています。
コバノフジバカマと在来フジバカマの形態的な違いについては、
などがあります。生乾きの時に香る「桜餅の香り」(クマリンという芳香物質)も、コバノフジバカマの方が、在来フジバカマよりも強く、より甘い香りがするようです。コバノフジバカマは、在来のフジバカマのようにやや湿った環境を好むわけではなく、乾燥した場所でも育ち、地下茎を伸ばして新たな茎を次々と出して増殖する、非常に旺盛な繁殖力を持っています。在来フジバカマに比べて草丈も低いので、個人の庭でも植えやすいサイズの上、香りも強いとなると、園芸種として人気がでるのも当然かもしれません。
しかし、在来フジバカマは環境省レッドデータブック(2014)、岡山県版レッドデータブック(2009)ともに「準絶滅危惧」とされ、減少傾向にあるとされています。コバノフジバカマと混同され、「フジバカマは国外から持ち込まれたものであり、保全対象ではない」、と誤解され、在来フジバカマを守ろうと思わなかったり、また、逆にコバノフジバカマを在来フジバカマと同一であるように混同し、「在来種を増やす」つもりで、コバノフジバカマを自然性の高い環境に植栽したりする事例もあるようです。このような問題を引き起こさないためにも、当園としては、自然保護・保全においては、コバノフジバカマ(外来・園芸タイプ)と、フジバカマ(在来タイプ)は分けて扱うべきであると考えています。園内においては、温室エリアにコバノフジバカマと在来フジバカマを植栽し、特徴を比較しながら観察することができるようにしています。
(2017.10.29 サワフジバカマとしていたものを改訂)
▲在来のフジバカマ。高さ2mを超えることもある、大型草本。(背後の金網フェンスの高さが1.5mほど) | ▲コバノフジバカマ(左2枚)と在来フジバカマ(右2枚)の葉。裂片の幅と切れ込み方などが異なる。 |